【感想】できたての地球-生命誕生の条件

廣瀬敬 / 岩波科学ライブラリー
(7件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • reinou

    reinou

    このレビューはネタバレを含みます

    2015年刊。
    著者は東京工業大学地球生命研究所所長・同教授。


     現在、地球最古の生命の痕跡を辿れるのは約38億年前とされている。一方、地球誕生は太陽系内のスターダスト・隕石の分析から約46億年前と推定されている。
     この約8億年間、地球はいかなる様子だったのか。これを惑星科学・地球規模の地質学から解明する研究の先端情報を本書は開陳する。

     ここでのキーがプレートテクトニクスだ。
     端緒は明らかでないが、①海水の流入でマントル上部の低温・液化。②マントル圏の対流発生。③水が分解した水素は核に、酸素はマントルに結合する。④前者の結果、鉄を中核成分とする外核の液化による地磁気圏を生み、後者がプレート運動と大陸を生んだ(なお、この大陸が生命誕生の子宮とする見解も開陳される)。


     もちろん、本書にある内容は、あくまでも仮説に過ぎない。特に大陸の岩石を触媒とし、解糖系の逆回転(エネルギーを利用してアミノ酸を形成)が生命誕生の肝とみる件は、実証実験の端緒についたばかりだ。

     しかし、その仮説自体が、全体として、なかなか興味深く、特に地磁気圏の誕生が生命の持続において極めて重要度が高いと考えられる中、その議論の一端を示した点は一層興味深いところである。
     もっとも、水星が磁気圏を持つこととの整合性如何という疑問がないではないが、そもそも地球の成立にあたり、発生過程が異質だと考えられるのだろう。また、その他でも、あまり判っていない点も多々あるのも確かだ。


     ところで、このテーマは、日本においては、著者をはじめ、本書でも度々挙がる丸山茂徳らが中心となって議論をリードしてきたのだろう。
     個人的には、丸山による放送大学のテレビ講義を見たことに触発されたテーマだ。
     そして「岩波科学ライブラリー」という文系に優しいレーベルから出たことで、この議論を簡明に一気に見通せたのはなかなか良かったと感じたところである。

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    投稿日:2017.05.06

  • なー

    なー

    筆者は地球の起源と生命の起源を探る、東工大の地球生命研究所の所長さん。岩波科学ライブラリーの一冊だけあって、ニック・レーンの「生命、エネルギー、進化」より全然読み易い、薄いせいもあるけど。
    スノーラインより外の大きい惑星が水を飛ばしてくれなきゃ話が始まらないとか、高気圧な地球コアだと物質を(気体じゃなくて)閉じ込めておけるとか、平易で包括的な表現を随所に挟んでくれるお陰で無理なく読み通せました。さすが先生。続きを読む

    投稿日:2017.04.13

  • reso100

    reso100

    太陽系の惑星のでき方を示す図1がとにかく面白い.小惑星帯が現在の地球の様々な要素を作り上げているようで,興味深い.第4図に示されたように,マントルの下に外核と内核があり,それぞれ重要な枠割を持っている由.不思議だ.ただ,生物がどのような環境があったから生まれてきたのは,まだよく分かっていないようだ.かなり奇跡的に好都合な条件が生成されたからだと推測できるが,そのような環境を作ったのは?続きを読む

    投稿日:2016.06.21

  • 人生≒本×Snow Man

    人生≒本×Snow Man

    生命が誕生できる環境としての原始地球を考えようという主旨。学際的で統合的な取り組み。

    ・マントルは固体。液体か固体かを判別する簡単な方法は横波が通るかどうか。液体に横波は通らない。
    ・水晶(石英)は地上(1気圧)からマントルの底(135万気圧)に行く間に4回も結晶構造を変える。
    ・初期地球と同じ様な環境が再現されなければ、現在の地球生命のような生命体は存在しない。言い換えれば、惑星誕生の直後ぐらいしか、生命誕生のチャンスはないといえるかもしれない。
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    投稿日:2016.02.19

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    2016年1月12日に開催されたKavli IPMU/ELSI 合同一般講演会「起源への問い」でのELSI (東京工業大学地球生命研究所)廣瀬先生の講演とその後のセッションが面白かったので、著作である本書をすぐに購入。ELSIは、初期地球と生命誕生とを同時に研究するための先進研究機関で、2012年12月設立。できてまだ3年ほどである。

    本書の内容は、地球の誕生とその地球上での生命の誕生についての最新の研究状況の解説である。その内容は、講演の内容とほぼ同じであり、おそらくこの内容が現段階での廣瀬先生/ELSIの持ちネタ(統一見解)だということだろう。その説明は、簡潔かつ短く読みやすい。

    本書での探究の対象は、「地球の誕生」と「生命の誕生」であるが、これらは当然別のものである。しかしながら、生命の誕生と初期地球の環境は切っても切り離せない問題であることもまた間違いない。われわれの住む地球が、どれほど生命の繁栄において特殊な環境であったのか、その特殊性はどの程度稀なものであるのかを問うことで、地球外生命という別の問題へもアプローチすることができるようになる。その意味でこの二つの問題を同時に扱うことに正当性が生まれる。

    二つのテーマのうちの「地球の誕生」については、現在でも多くのことがわかっている。太陽系外の惑星も近年数多く見つかっており、活発な研究が行われているという。また、太陽系の誕生の過程もおおよその推測ができている。また、地球にも降る隕石や月などから過去の地球の状態を知る手段もいくつか存在している。その結果、定説として、地球ができたときには、ジャイアントインパクトという火星程度の大きさの惑星がぶつかってでき、その衝突で月もできたとされている。地球誕生当初はマグマオーシャンと呼ばれる高温状態で、そこから冷却され、スノーボールアースという状態を経て今のような地球になったと。

    地球と生命の誕生の条件についても説明される。その中では、地表面の水が占める割合が非常に「都合がよい」ことが指摘される。海が地球の全重量に占める割合は0.02%でしかない。例えば、これが2倍になるとほとんどの陸地が水没してしまう。阿部豊氏の『生命の星の条件を探る』 でも、地球の特殊条件として「①地表に水があること。②大陸があること。③プレートテクトニクスがあること。④生命がいること」としている。プレートテクトニクスがあることが磁場の安定など比較的重要な条件となっていることは最近知ったことである。海による地表面の冷却効果があるため、マントルの対流が起こることから、生命誕生と拡大の場としてだけでなく、地球規模における海の影響の重要性が述べられる。

    生命誕生については、地球誕生よりも難しい問題だ。まず、地球型生命以外の生命をわれわれは知らないということが、問題を難しくしている。「生命」の定義さえ明確ではない。あえて三つ挙げると、アミノ酸、代謝、膜がそろっていることであろうか。その意味で、生命の誕生はいつかと問う前に、何をもって生命の誕生と呼ぶべきかが問われている。また、なぜ地球には今のわれわれ以外の生命の型が存在しないのかという問題もある。生命の誕生は非常に稀な偶然な出来事なのか、比較的地球のような条件の惑星では発生しうることであるが、淘汰の結果として今の地球型生命だけが生き残ったのかということさえ答えが出ていない。著者は、次のように問う。

    「実際、いま生存している生命はすべて、みな同じタンパク質、DNA、RNAを使っています。くわしく言うと、同じに十種類のアミノ酸を使い、同じ四種類のヌクレオチドでできたDNAとRNAを持ち、タンパク質を合成する際の遺伝暗号表を共有しています。つまり地球型の生命は一つしか生き残っていません。同時に、違う型の生命体は確実に淘汰されたということがわかります。なぜこれほどまでに淘汰が進んだのでしょう?」

    前掲の『生命の星の条件を探る』 でも、「一つの根源的問題は、我々が地球の生命という、一つの生命しか知らないことです。これから「一般的な生命」を推測するしかありません」とされているため、この認識は研究者の中でも広く共有されているものなのだろう。

    具体的な生命誕生に関しても諸説あり、いまだ明らかにされていない。地球環境で生まれたものという説以外にも隕石起源説もある。例えば、中沢弘基氏は『生命誕生』の中では「隕石衝突よる有機分子のビッグバン」説を取っている。著者は、講演後の解説で隕石内に十分な種類のアミノ酸が含まれていることを認めながら、それでも地球環境で生まれた可能性が高いとしていた。その理由は、著者が重要なキーワードとして挙げる生命の「持続性」である。生命の元が誕生しても、現在のような状況になるためには、それが持続的に存続するための条件がそろっている必要がある。地球外隕石起源説はこれを満たすことができないというのが著者の主張だ。そのメカニズムとしては、ニック・レーンが『生命の跳躍』で最新の学説として紹介した熱水噴出孔説も参照している。いずれにせよ、ELSIでの今後の研究課題だとしている。

    生命の誕生が、ある程度の惑星誕生簡単なものであったのか、それとも奇跡的なものであったのかということは問われるべき問いであろう。多くの人が、その答えを知りたがっている。

    「最大の謎は、複雑な生命の誕生が、地球の生命史全体を通じて一度しかなかった理由だ。 すべての動植物は間違いなく親戚関係にある。つまりわれわれはみな同じ祖先をもつのである」『生命の跳躍』ニック・レーン

    この分野でもあと10年や20年のうちに新しいことがわかってくるのだろうなと思うと、楽しい。

    ----
    Kavli IPMU/ELSI 合同一般講演会「起源への問い」
    http://www.ipmu.jp/ja/2016origin
    『生命の跳躍――進化の10大発明』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/462207575X
    『生命の星の条件を探る』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4163903224
    『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062882620
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    投稿日:2016.01.24

  • sazuka

    sazuka

    できたての地球、なんて爽やかでワクワクするタイトルだろうか。



    宇宙のガスが冷えて塵になり、集まって恒星や惑星が出来る。とはいえ、ガスや塵が集まっているだけなら地球とは呼べそうもないし、どこから地球と呼ぶのか、そして原始地球はいつからいつか、初期地球はいつからいつか、解釈は結構わかれるらしい。

    同じように、生命も、どこから生命なのか。化学進化と呼ばれるような初期段階なのか、遺伝情報があって、代謝をして、というようなものでないといけないのか。けれど、これらは連続的なできごとで、あるときここから、という性質のものではない。



    生命は海で生まれて陸に上がり、進化して現在がある、というようになんとなく覚えていたが、いや、陸で生まれた、といわれると確かに説得力がある。陸のほうが環境に多様性があるし、素材の濃度も高い。チューブワームなんかの発見で、深海が地球生命の起源だと考える人が増えているけど、慎重に、って。



    地球がかつてどうだったか、を解説し、それを遡って生命がどのように生まれたかを考察する。何分当時の資料がないわけだけど、いろいろな科学が集まって、結構なところまでわかってきているようだ。



    地球の生命はみな同じタイプであり、もしかすると存在する宇宙の他の生命とは、まったく仕組みが違うかもしれない。地球の生命だって、他のタイプがいたかもしれないけど、淘汰されたのか、何度も誕生と絶滅をを繰り返してきて今があるのかもしれない。



    というわけで、壮大なスケールを短いページで駆け抜けていく本。生命のことをもっと読みたかったなあ、という感想が残る。

    まあこの本は呼び水のようなもので、興味を持ったらその先に…と思ったが、参考文献リストが、ない。うむむむ。25メートルプールを泳ぎきると、気持ちいけれど、ターンなしで50メートル泳ぎたいなあ、なんて思ったりする感覚(わかりにくいね)。
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    投稿日:2015.07.02

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