【感想】「戦後80年」はあるのか――「本と新聞の大学」講義録

姜尚中, 内田樹, 東浩紀, 木村草太, 山室信一, 上野千鶴子, 河村小百合, 一色清 / 集英社新書
(4件のレビュー)

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  • つー

    つー

    今日は令和4年8月15日だ。正午少し前から毎年の様に戦没者への哀悼を示す番組が国営放送(NHK)で流れ、武道館には天皇皇后両陛下だけでなく岸田首相も訪れ、正午の時報がなれば1分間の黙祷が捧げられる。1945年8月15日は昭和天皇による玉音放送が流れた日であり、ラジオで初めて聞く天皇の言葉の前に、何やら難しい事を言っている様だが、日本が戦争に負けた事だけは確からしい、と膝をついて泣き出すもの、心の中では生き残れたと安堵するもの、様々な感情が渦巻いた日でもある。特に戦争遂行の最前線にいた軍部には腹を切って自決するものも多数いた。
    終戦記念日と呼ばれるこの日は、この様に先の大戦において国民が戦争に負けた事を実感した日というのが正しいところであろう。実際に世界を見渡せば韓国は抗日戦争の終結は、日本支配が終わって独立した事を祈念する日だ。当然の事ながら中国もそうである。あれから78年の月日が過ぎた。
    日本では長く「戦後」という言葉で一括りにしている今に至る時代を果たしていつまで戦後と呼ぶか。これについて「本と新聞の大学」と題して朝日新聞社と集英社が共同で実施した講義が本書の内容となっている。本書が記載されたのは2016年であるから、当時はちょうど戦後70年の節目にあたり、果たして後10年、戦後80年は訪れるかを大きなテーマとしている。
    戦後に対して「戦前」という言葉がある。戦争に至るまでの歴史の経緯を辿った時、いつからが全然と呼ばれるかは、対象となる「戦争」を何にするかにもよる。石原莞爾がアジア・太平洋戦争のきっかけが何かと問われた際に、ペリー来航こそが外国からの侵略の始まりと捉えたのは有名な話であるが、海外からの侵略的行為に対して、国力をつけ国防を整備する、その流れの中から西洋と同じ様に外地に資源や労働力を求めて戦争に突入するという対極的な観点からは当たっていると感じる。本書はまずはそうした日本と海外との交戦の歴史に触れながら、先の大戦以降の「戦後」の具体的な話に入っていく。
    戦後は次の戦争が始まるまでの一時的な呼称であるから、日本が戦後80年より前に再び戦争をする可能性があるのか。この観点が本書の軸となっている。戦後の平和な時代を支えてきた平和憲法、在日米軍の抑止力、そして日本自体の国力となる経済および喫緊の最大の課題とも言える少子高齢社会の問題などを一つ一つ講義形式で読むことができるため非常にわかりやすい内容となっている。
    特に多額の借金を抱えながらも異次元の政策を取り続けた当時の黒田総裁下の日銀の施策などは、それから8年近く経った今、答え合わせもできる。実際には株価は上がったが、本書予測通り円の価値は下がり、本書執筆時点では存在しなかった新型コロナやウクライナ侵攻などが再び日本をはじめとする世界経済に大きな影響を及ぼしている。
    日本の周辺東アジア情勢を見てみれば、親日的な政策に舵を切った韓国に対して、相変わらずの嫌韓振りから目が覚めない日本、中国の脅威に晒されて、沖縄独立も現実味を帯びてきている。国を動かすのは非常に難しい事であるのは百も承知であるが、相変わらずの選挙投票率の低さを見ていると(直近の埼玉県知事選挙も30%を切っていた)、先ずは幼い頃から政治に参加するのが当たり前になる様な教育改革が必要ではないかと感じる。勿論長い目で見なければ成果がわからない様な施策を政治家が好むはずはない。株価を上げる様な目先の利益に囚われ、国債を乱発し将来にツケを残し、尚且つそれが原因で利上げもできずに円の価値暴落を引き起こすのが政治ではない。勿論、国家百年の計を意識しない政治家は皆無だろうから何らかの意図がある事は信じている。ただ持ち前の日本人らしさである、黙して語らずでは国民の「不安」は払拭できない。子供に苦労をさせる様な未来への懸念は、人々の心にいつも不安と壁を作っていく。
    開かれた政治を期待するとともに、自分からドアを開いて政治の中に入っていくような双方歩み寄りに必要なのは、本書の様なテーマの投げかけ(戦後80年は来るのか)になるのかもしれない。本書を出版する経緯に、人が集まって座談会形式で一つのテーマについて語る世の中にしたい、という意図がある。正にその通り、将来的に今の時期を戦後と見続けられるか、戦前になるのかは私たち一人一人が政治に参加して決めていかなければならない。
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    投稿日:2023.08.15

  • kouhei0210

    kouhei0210

    本のタイトルにあるように、日本に今後戦後80年は
    くるのかという議題で、現政権を中心に批判する
    下記の講義集
    内田樹氏ー比較敗戦論
    東浩紀-本と新聞と大学は生き残れるか
    木村草太-集団的自衛権問題とはなんだったのか
    山室信一-戦後が戦前に転じるとき
    上野千鶴子-戦後日本の下半身
    河村小百合-この国の財政・経済のこれから
    姜尚中-総括講演
    このなかでも、山室信一氏、上野千鶴子氏、河村小百合氏の
    3本がとても興味を引きました。
    どれも、日本が破綻し、または戦争の道に進むのでは
    ないかという潜在的な恐れを感じる内容です。

    支持率は高いですが、本当に今の政権でいいのでしょうか?
    他人事ではないような気がします。英国や米国、韓国、
    日本と反知性主義的というのか、そういうものが蔓延して、
    そのうえに乗っかっている知性的でない治世者に将来を
    奪われていくことになるような暗い気持ちになってきます。
    そうではないかもしれませんが、そうならないためにも
    これらのことを、警告として受け止めて
    自分の判断基軸の一つとして認識することに意味が
    あるのではないかと思います。
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    投稿日:2016.11.26

  • early-autumn1965

    early-autumn1965

    面白かった。
    第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国の話は興味深い。
    木村草太の話はこれまでいろんなメディアで語られたものばかりで新しみはないが、いい復習になった。ただ、この人は例え方が下手だなあ。
    山室信一の戦前への転換期に見られるメカニズムも興味深い。歴史から学ぶことは本当に多いな。
    上野千鶴子の少子化対策批判。データを示しながらの話は説得力がある。何より面白い。目からウロコが落ちてばかりだった。
    私は経済に疎いので河村小百合の話は残念ながらちんぷんかんぷんだった。
    近現代史を本格的におさらいしたくなる本だ。
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    投稿日:2016.09.13

  • kazuhisachiba

    kazuhisachiba

    人それぞれ切り口は異なるが,いずれの窓から見ても戦後80年が明確に見えない点に一人一人が自覚しなければならない.

    投稿日:2016.09.11

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