【感想】思い出探偵

鏑木蓮 / PHP文芸文庫
(16件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
3
5
3
1
0

ブクログレビュー

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  • じゅう

    じゅう

    鏑木蓮の連作ミステリ作品『思い出探偵』を読みました。
    ここのところ国内の作家のミステリ作品が続いています。

    -----story-------------
    もう一度会いたい人が、あなたにはいますか?

    小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴…… そんな小さな手がかりから、依頼主の思い出に寄り添うようにして、捜しものを見つけ出していく“思い出探偵”。
    京都御所を臨む地で「思い出探偵社」を開いた実相浩二郎は、息子を亡くし、妻がアルコールに溺れていくのを見かねて刑事を辞めたという過去を持つ。
    思い出探偵社には、その誠実で温かい人柄にひかれるようにして、元看護師の一ノ瀬由美、役者志望のアルバイト本郷雄高、10年前に両親を惨殺されて心に傷を負った27歳の橘佳奈子が集まった。

     「思い出」は心を豊かにすれば、苦しめもする――乱歩賞作家が紡ぎ出す、せつなさと懐かしさが溢れるミステリー。
    -----------------------

    2009年(平成21年)に刊行された京都思い出探偵ファイルシリーズの第1作です。

     ■第一章 温かな文字を書く男
     ■第二章 鶴を折る女
     ■第三章 嘘をつく男
     ■第四章 少女椿のゆめ
     ■解説 小梛治宣

    人生は「思い出」の積み重ねでしかありえない… 良きにつけ悪しきにつけ、そのひとが生きてきた証なのだ――。

    小さなガラス瓶、古いお守り袋、折り鶴… そんな小さな手がかりから、思い出探偵社の仕事は始まる、、、

    「一言お礼が言いたい」 思い出探偵社に持ち込まれた事案を調査する実相浩二郎たちの行く手には…… 。

    面白かったです、、、

    粗末なペンダントをわざわざ届けてくれた男性を探す『第一章 温かな文字を書く男』、

    ジャズ喫茶でのわずかな時間の出会いが人生を変えた『第二章 折り鶴の女』、

    車椅子の青年が思い出探偵社を混乱に陥れる『第三章 嘘をつく男』、

    戦後の混乱期に命を救ってくれた男性を探す『第四章 少女椿のゆめ』、

    の4篇が収録されています… 軽めの物語かと思っていたのですが、意外と深みがあったし、「思い出探偵社」で働く人たちの人生も巧く描いてあったと思います。

    『第三章 嘘をつく男』は、ちょっと異質な印象ですが、サスペンス的な展開で愉しめましたね、、、

    『第四章 少女椿のゆめ』の結末はちょっと物足りない印象かな… 好みの問題でしょうが、私は再会するところまで描き切って欲しかったな。

    京都思い出探偵ファイルシリーズの続篇、ぜひぜひ読みたいですね。
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    投稿日:2023.03.20

  • 夕芽

    夕芽

    このレビューはネタバレを含みます

    『思い出探偵』 鏑木蓮 (PHP文芸文庫)


    鏑木さんはイーハトーブのケンジ探偵の生みの親だ。
    「石鳥谷」なんて岩手の地名が出てきたりして、ちょっと嬉しい。
    イーハトーブ探偵のお話は、何回読んでも飽きないほど好きで、やはり今回のこの物語も私の好きなあの独特の雰囲気があって、厳しさと優しさが感じられる作品だった。

    とても丁寧に書かれている小説だなぁと思う。
    再読に耐えうる、読むたびに違う部分が沁みてくる。

    人の心の機微に焦点が当たっているので、まあ辛気臭いところもなくはないのだが、心を落ち着けてちゃんと向き合ってみると意外といい。


    思い出を探す手伝いをするという「思い出探偵社」。

    ファンタジー……?
    人の心の深いところまで降りて行って心を救うというような、どこか現実離れしたイメージを持って読み始めた。
    が、なかなかどうして、思っていたより骨太な話だった。


    「思い出探偵社」の代表、実相(じっそう)浩二郎は、京都府警の元刑事である。
    物語の、ともすれば重苦しくなりがちなファンタジー性を、元刑事というリアリティーが救っている。
    さらに、科捜研OBの茶川大助による科学的な調査も、ストーリーの補強に一役買っている。


    浩二郎は七年前に一人息子の浩志(こうし)を亡くし、それがきっかけでアルコール依存症になってしまった妻の三千代とともに「思い出探偵社」を立ち上げた。

    メンバーは、元看護師でバツイチの一ノ瀬由美、時代劇俳優を目指している本郷雄高(ゆたか)、十年前に両親が惨殺された現場を目撃し、心に深い傷を持つ橘佳菜子。


    探偵社に持ち込まれる依頼には一つ一つに事案名が付けられている。
    それが章題となった4編からなる連作短編集だ。

    とは言っても、一話完結ではなく、第一章「温かな文字を書く男」のラストで持ち込まれた依頼が、第四章「少女椿のゆめ」でやっと解決を見るなど、常にいくつかの事案が継続している。


    佳菜子の十年前の事件の真犯人が見つかったり、雄高が新しい道を歩き始めたり、そして何より浩志の事件の真相が明らかになったりと、依頼人の人生や生き様と探偵社の歴史が寄り添うように進んでいくストーリーには、人が生きていることの重みを改めて教えられ、自分のことを振り返ってみたりして何だかしみじみしてしまった。


    息子の死を受け入れることができるようになるまで七年の月日を要した、浩二郎と三千代のこれまでとこれからは、この物語の底を流れるもう一つのテーマだ。

    湖で溺死した浩志の思いを二人が知るシーンが、いつまでも心に残った。
    すごくいい場面だ。
    事実はこうです、と言葉で突きつけられたわけではなく、この状況はきっと……と、無言のやりとりが夫婦の間で行われ、二人の心が静まっていく感じが読んでいてとてもよくわかる。

    きちんと思い出に変えることができたのならいいな。


    浩二郎さんかっこいいなぁ。おじさんだけど。
    ありきたりな言い方だけど、強くて、そして優しい。
    由美さんが浩二郎さんにドキドキするシーンが可愛い(笑)
    こういう人だから、こんな特殊な仕事ができるんだろう。


    思い出は諸刃の剣、という言葉が物語中に出てくる。
    依頼者が思い出と再会することのリスクまでも背負う覚悟がないと、とてもできない仕事なのだ。


    思い出は長い年月をかけて浄化される。
    美しいから思い出なのであって、嫌な記憶は思い出とは呼ばない。
    触らないほうがいい場合もある。
    現実世界に引きずり出して、すべてを見せてしまうことが、いいことなのかどうか。

    そんなことをずっと思いながら読み進めていったのだけれど、ちゃんと答えは用意されていたんだね。

    例えば「鶴を折る女」では、依頼人は探し人に会えないまま終わる。
    しかし依頼人は、探偵社の調査報告に満足して帰っていくのだ。
    そこがとてもいい。


    六十二年前の恩人を探してほしいという依頼「少女椿のゆめ」では、六十二年という気の遠くなりそうな年月を、一歩一歩丁寧に辿り、ようやく探し人が見つかる。
    が、なぜか最後のシーンは描かれないまま終わる。

    トモヨが恩人に会えたのかどうか、それからトモヨはどうなったのかは、読者の想像に任されている。
    その代わりにラストに置かれているのは、雄高の旅立ちのシーンだ。
    何とも粋だなぁと思ったのだった。

    たぶんこれは明るい兆し。
    物語がちゃんと未来に向かっている。
    そう思った。


    由美さんや茶川さんはじめ、登場人物の濃ーい関西弁が、音読したくなるくらい楽しかった。

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    投稿日:2022.08.23

  • そよ子

    そよ子

    心の中でずっと寄り添いたいような思い出、生きていく糧となるほどの思い出、時には悪い夢であって欲しいと思うようなことも。
    思い出探偵社を訪れる人々にも、思い出探偵社のメンバーにも様々な思いや事情があって、ぐいぐいと引き込まれて読みました。
    連作短編集のようでありながら、二つの依頼が並行して調査されていたりと時間が繋がっていたのも良かったです。
    続きを読む

    投稿日:2021.02.13

  • tamazusa_do

    tamazusa_do

    元京都府警の刑事だった実相浩二郎は、京都御苑の近くに「思い出探偵社」を構える。
    依頼人の話を聞き、わずかな手がかりから思い出を探す仕事だ。

    62年前、梅田の闇市で助けてくれた少年にを想い続ける老女。

    43年前、集団就職で出てきて働いた会社がつらくて飛び出したときにコーヒーを飲ませ、諭してくれたお姉さんに、今の自分があることを知ってほしい。

    10年前の忌まわしい事件を乗り越えたい。

    7年前、自殺として処理された、浩二郎自身の息子の死の真相を突き止めたい。

    5日前、清涼寺の境内でなくした愛猫の思い出の品を拾ってくれた人にお礼を言いたい…

    独立した短編集ではなく、いくつもの事件は平行して進み、依頼されたものではなく、スタッフ自身の心に抱えた問題もある。
    思い出はいいものばかりではない。
    相手にとって、どういう形で心に残っているかわからない、人間の心の複雑さもある。

    62年前、43年前という、遠すぎる戦後日本の思い出も、作品の特徴かもしれない。
    わずかな手ががりを追って飛び回る姿は、時効間近の事件に執念を燃やす刑事そのものだ。
    温かい解決、切なく懐かしい解決、苦い解決…いろいろだが、依頼人の気持ちに寄り添いたい、というのが浩二郎の一番の願い。

    第一章 温かな文字を書く男
    第二章 鶴を折る女
    第三章 嘘をつく男
    第四章 少女椿の夢
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    投稿日:2017.10.21

  • Kazuko Ohta

    Kazuko Ohta

    京都出身の鏑木蓮、初めて読みます。500頁近くのそこそこ分厚い本ですが、関西が舞台になっているため、関西人ならば馴染みの地名が多く、取っつきやすい。

    刑事だった主人公の男性は、高校生の一人息子を真冬の琵琶湖で亡くす。遺書めいたメモを残していたことから自殺と断定され、妻はそのショックからアル中に。妻に寄り添うために主人公は刑事を辞める。そして京都御所を臨む地で開業したのが「思い出探偵社」。人生を振り返るとき、どうしても会いたい人、お礼を言いたい人がいる。依頼人のそんな思いに応えて、彼らの人生の分岐点となった大切な思い出のなかにいる人を探し出すのが仕事。

    手がかりはごくわずかです。届け物をしてくれた人の特徴的な字だったり、へこたれた自分に渡された折り鶴だったり。探し出すのは至難の業だと思われますが、人から人へと手がかりは広がります。

    主人公はもちろんのこと、探偵社で働く人たちが心に傷を持ち、そのぶん人の心がわかる温かな人間。ストーカーの話はちょっと異質でサスペンスタッチ。個人的にはこの章だけ浮いているように感じられてはあまり好きになれませんでしたが、ほかは昭和へのノスタルジーも感じられる佳作。
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    投稿日:2017.04.26

  • starasenrivero

    starasenrivero

    このレビューはネタバレを含みます

    都合が良い展開と思う場面が結構あったが、続きがどうなるかのほうが気になって、結局最後まで一気に読み上げてしまった。

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    投稿日:2016.10.02

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