【感想】新しいヘーゲル

長谷川宏 / 講談社現代新書
(33件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
7
7
9
2
1

ブクログレビュー

"powered by"

  • tomochan2525

    tomochan2525

    長谷川 宏は、ヘーゲルの専門家であり、本書は入門書として読みやすいが、読みやすいからといって、読者がわかりやすく理解できるとは限らない。
    表現がわかりやすいということと、内容が理解しやすいということは別の問題である。ヘーゲル哲学は、内容が理解しにくいことで有名だが、長谷川氏の著書を読むとわかったような気になる。続きを読む

    投稿日:2023.07.08

  • 人生≒本×Snow Man

    人生≒本×Snow Man

    ヘーゲルと言えば弁証法だが、その弁証法の意味が、ヘーゲルの生きた時代の解説を通して本書で体験できた。


    近代的個人とはなにか、という問題意識に貫かれている。
    日本の文明開化はヘーゲル哲学で多くが説明できる。
    ドイツにおけるナチスの登場は近代とはなんなのか?という問いに明確な答えを出せなくなっているが、諦めてはいけないというヘーゲリアンの主張だ。

    キルケゴール、マルクス、メルロ=ポンティ、フロイト、ニーチェ、ハイデガー、レヴィ=ストロースが最後に登場。
    続きを読む

    投稿日:2022.09.06

  • Flooding Throne

    Flooding Throne

     ヘーゲル「精神現象学」にトライするための前段として購入。著者は言わずと知れたヘーゲル研究の泰斗。本書は著者が「精神現象学」を訳出する前年に出版されている(ただし僕が読もうと考えているのは熊野純一のちくま学芸文庫版。やはり時点が新しいのと、なんと言っても嵩張らないサイズであるが大きい)。内容は非常に平易で読みやすく、今となってはややストレートにすぎる議論もあるが、単純に面白くて思わず一気読み。精神現象学はもう別に読まなくてもいいかも、とすら思ったほど(いかんいかん)。 
     まず著者が主張するのは、ヘーゲルの難解さはヘーゲル自身の著作にあるのではなく、特に日本の研究者に救いがたく根差す教養主義、つまり難解さを過度に崇拝する性向にあるという。そしてこの難解さは、「調和した全体」を美徳とする日本人はヘーゲル弁証法の「正反合」の「合」にばかり着目するあまり、ヘーゲルの強調点が個と個が対立する「反」にあることを理解できないためであるとする。

     続く第1章では主著「精神現象学」の概略が語られる。先述の「反」、すなわち否定と対立そして矛盾の概念は、諸問題に真剣に向き合う若きヘーゲルの「意識」が「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」の主人公よろしく、否定のうちに積極的な意義を見出しつつ、生存の枠を超え出つつ生を拡充し「絶対知」の獲得を目指す姿勢に由来するものであることが語られる。この「絶対知」が曖昧でわかりにくいが、著者によればそれは人類の長い歴史の中での個々の精神の労苦の結晶であり、それはヘーゲル自身の経験により生じた意識そのものであったという。つまり自身の精神を完成形とみなす不遜さに満ちているわけだが、このことも韜晦趣味を持つ日本人がヘーゲルを受け入れにくい一つの理由であるとしている。それはともかく、絶対知とは近代の社会矛盾と対峙する個人の日常的な知であり、近代的な個の自由と自立の根本となる力を指しているらしい。この近代的な個とは、伝統的西洋の「神」の前に立たない裸の「わたし」だという。無論ここでデカルトに言及があるが、デカルトとの比較ではむしろヘーゲルはそのように「裸」でなければ向き合えない社会の方にフォーカスしているように思える。そしてそのような裸のわたしが外的な現実と確信を持って向き合ううち、外部のさまざまな非理性や反理性に対峙することになり、知と思考に厚みを持たせる強靭な理性を獲得するというのだ。

     第2章はヘーゲルの「理性」への信頼について。ヘーゲルの理性は、ここでも個の内側に止まらない拡張性を得て外部の現実へと浸み出していく。形而上学世界を理解しようとする理性の独断に歯止めをかけるべきと説くカントの「超越論的弁証法」とは対照的に、ヘーゲルは外部世界を理性への信頼のもとに経験し、かつそれを「否定」することでその枠から逸脱しようとする。ここから当時の自然科学の発達とも相俟って、外部世界すなわち「自然」を内なる「精神」やその創造物である「芸術」の下位に存置し、知に基づくヘーゲルの自然観が生じてくることになる。自然がそのままでは発揮できない理念性を、人間が介入することでリアライズさせようというのだ。

     第3章では、前章で触れられた芸術との関わりが中心に扱われる。個と社会が美しく調和した理想郷としてヘーゲルが抱いていたのは古代ギリシャ社会だが、そこでは芸術は常に共同体精神の影響下にあった。個人の内面と共同体精神の調和の表現こそが芸術の本質であり、制限なしの自由な芸術というものをヘーゲルは認めない。本家のギリシャ都市国家が崩壊したのちも、ロマン芸術として個人の内面精神において体現されなければならない理想であり続けた。それは結局は日常的現実に拡散していく芸術の枠内では捉えきれないものであったが、その代替となるのがキリスト教であり、そこで内面に還っていった精神は、真理(神)と調和し一体化しようとするという。
     ここで面白いと思ったのは、神との調和において、ヘーゲルは外部からの強制を認めずプロ・プロテスタント的なスタンスをとるのだ。芸術一般では自由を認めず宗教では認めるというのは二重基準のような気もするが、とにかくヘーゲルは宗教に基づく自由の希求を保障する概念として、いきなり法と正義などといった社会的・現実的なツールを要請するのである。この宗教的内面から世俗的リアルへの一足飛びの転換は、ある意味でプロ倫的な世俗的禁欲の発生を別の側面から記述したものと言えなくはないが、いずれにせよヘーゲルは宗教にも哲学的な理性を求め、かくして芸術・宗教・哲学は理性の名の下に統合されることになる。

     第4章はやや論調が変わって日欧の比較文化論から入る。お手本をありがたがる近代以降の日本に比し、西洋の近代化はそもそもそのようなお手本が存しない、いや存在してはならないような冒険や開拓の精神を要請するものだった。度重なる社会構造の変動に見舞われ、西欧社会は純粋な内面の運動=精神活動に依拠せざるを得なかった。しかも、社会の激変に対し外部の新たな権威を持ち出すのではなく、ルターの宗教改革よろしく、権威を脱ぎ捨てた裸の内面に向き合い、そこに神への信仰を見出しつつかつての権威そのものの解体を目指してきた。つまりキリスト教ですら内面精神性の発揮にとって軛であり、西欧近代にとっては乗り越えるべき対象だった。ここから思考が宗教を代替し、外部世界に開かれた精神性を要求する啓蒙思想が表出したというわけだ。
     
     最終章はヘーゲル以降の哲学史を概観する。ここではやはり、主にヘーゲルは克服すべき対象である。ヘーゲルが精神性に劣るとして切り捨てた感情に真実性を見たキルケゴール。現実世界の矛盾を超克すべく、ヘーゲルの方法論を発展させ実証分析へと向かったマルクス。理性から出発したヘーゲルとは逆に、無意識の領域に本質を見たフロイト。反近代の立場から西洋的近代化の原動力となった概念に異議を唱えたハイデガー、メルロ=ポンティ、レヴィ=ストロース。
     しかし、なんと言ってもヘーゲルが称揚した西洋近代に打撃を与えたのはナチズムだと著者は指摘する。これは重い。どうしてこのような異形の怪物が、理性と個人の内部精神を重んじてきたはずの西洋から生じてしまったのか。発刊後20年以上経ってもいまだ確たる答えの出ない難問だ。
    続きを読む

    投稿日:2021.08.24

  • おな兄

    おな兄

    ヘーゲルセレクションを読んでも全く理解できなかったので購入。
    弁証法とヘーゲルの思想に底流するものを理解するには非常に良い本。適当に正反合とかをしたり顔で使う前に、まずはこれを読むと良い。
    ビジネスでアウフヘーベンとかそういう系の語を安易に使う前に、ぜひ読んでおきたい本。続きを読む

    投稿日:2021.06.04

  • トグサ

    トグサ

    名著である。難解な哲学の中でも難解と言われるヘーゲル哲学を理解できる形で提出されている。
    『現実的なものが理性的であり、理性的なものが現実的である。』
    ヘーゲルの哲学は、社会や現実、生活世界に開かれており、その現実との格闘において、精神は成長していく。

    ますます、ヘーゲル哲学に興味を抱いた。
    続きを読む

    投稿日:2021.03.09

  • Yu Kino

    Yu Kino

    よくまとまってるし、面白いと思う!

    けど、そもそものヘーゲル自身の哲学にどうしても興味がもてなかった、、、

    次にいこう!人生は限られてる

    ドイツ観念論とは、なんかうまく馴染めなかった

    かなりの部分が、下手くそな日本語訳の謎の言葉に辟易した、ということにもあり、そういう哲学研究の歴史に腹が立つが、そこのところがこの本の冒頭にあって嬉しかった

    そうそう、もう少し日本の権威主義的なドイツ観念論が漂白されていくとよいのになーと思う
    続きを読む

    投稿日:2021.02.12

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。