【感想】エロゲーの悪役に転生したはずなのに気付けば攻略対象者になっていた

このレビューはネタバレを含みます

WEBで読んだBL小説が発売されてた！出たら買いたい。
タイトル通りの設定から始まって、いつのまにか壮大な物語を読むことになる。
よくある設定を入り口にしてオリジナルかつ普遍の物語を作ってる。


主人公が被差別属性のBLは感動ポルノになりがちだけど、この作品はそうじゃなかった。
可哀想な受けが攻めの愛と寛容な友人に救われました、じゃない。社会の話になってる。

主人公サイドはチート的な能力や地位で世界を動かせるけど、その周囲にはデウスエクスマキナと縁のない人たちがいる。
被差別者の反撃が活動家やテロリストとして忌まれ差別の正当化に使われる。
悪い人だけが差別をするのではなく無知な良い人や弱い優しい人や気のいい家庭人が加害にとりこまれる。
そうい弱かったり美しくなれなかったりする人たちの静かな被害や地道な生存戦略に触れて、恵まれた者・力ある者が動かされる。

強い被差別者の「自分は大丈夫」だから反差別にかかわろうとしない姿勢とか、自らの幸せに/普通に生きる姿をさらしてロールモデルにするという戦い方とか、相手を大事に思っていても非当事者は当事者と同じようには気付けないとか、そこまで描かれてて驚いた。

で、差別がメインテーマではあるけどメインストーリーではないのもすごい。
重いテーマを誠実に描こうとすると論説みたいになってしまいやすいのに、物語が損なわれていない。
物語のなかにテーマがある。
出てくるのは基本良い人だし大団円だけど、それは物語だからこその希望として読める。


キャラクターも良い。
基本的にみんな言葉で(ときには手合わせで)率直に伝え合うし、あえて伝えない部分もある。
まわりくどい駆け引きやすれ違いがなくてもドラマは作れるんだ。

BLだけどメインカップル以外のキャラクターにも背景があり人格がある。
いかにもありがちなエロゲの登場人物のバリエーション(妹キャラ、エッチなお姉さん、合法ロリなど)として登場する攻略対象キャラは、主人公が相手を知るにつれ「ヒロインたち」から「友人たち」に変わる。
人間扱いをする・されることで互いに影響を及ぼし合い、影響の連鎖で社会が変化していく描写が良い。

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