【感想】生と死をめぐる断想

岸本葉子 / 中公文庫
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  • 中央公論新社

    中央公論新社

    がんから生還したエッセイストが、治療や瞑想の経験や仏教・神道・心理学を渉猟、生老病死や時間と存在について辿り着いた境地を語る。

    投稿日:2021.05.13

  • 湖南文庫

    湖南文庫

    岸本葉子(1961年~)氏は、東大教養学部卒、生命保険会社在職中に執筆・出版した『クリスタルはきらいよ』がドラマ化され注目を集め、退職後、北京外国語学院留学を経て、エッセイストとなる。2001年に虫垂がんと診断されたが、その後も積極的な文筆活動を行い、ガン克服キャンペーンにも参加している。淑徳大学客員教授。
    本書は、著者ががんに罹患した後、様々な本を読み、考えた断想を綴ったものである。著者は序章で、「これから綴るのは、日本人の死生観というような、ひとつのまとまった論ではない。それを提示することは私の力をはるかに超える。読書ノートに近いものだ。生と死について考えながらページをめくった本の中で、心にふれる記述を書きとめた。」と語っている。
    引用されている人物は、岸本英夫、頼藤和寛、エリザベス・キューブラー=ロス、山崎章郎、鈴木大拙、玄侑宗久、河合隼雄、広井良典、大峯顯、親鸞、道元、柳田国男、平田篤胤、折口信夫、島薗進など、その分野は医療から、心理学、精神世界(スピリチュアル)、仏教、禅、宗教学、民俗学を多岐に及ぶ。
    その中で、私が最も印象に残ったのは、以下の2点である。
    一つは、直腸がんで亡くなった精神科医・頼藤和寛の示した“生きること”の意味についてである。頼藤氏は、私たちは「世界はこうである、“しかるがゆえに”こう生きる」という考え方をしがちだが、そうではなくて、「世界はこうである、“にもかかわらず”こう生きる」と考えることが大事だという。どう生きるかに、世界がこうあるからという理由は要さず、生き方の問題と世界のありかたとを切り離す必要があり、無駄と知りつつ何かに熱心に取り組むことができるかどうかが、我々の人生の質を決めることになる、いや、むしろ「何をしても無駄」と覚悟していることが、「それでも、尚これをする」という決断に重みを加える前提ですらあるというのだ。
    もう一つは、社会学者・広井良典が『死生観を問いなおす』で述べている「輪をなす時間」という考え方についてである。広井氏は、時間を、私の時間、先祖の時間、人類の時間、生命の時間、地球の時間、宇宙の時間等に分け、それらを上から順に層にして、その層を束のまま、上に突き出すように湾曲させ、最終的に円形にすることによって、私の時間が最も外側・表層で流れが速く、宇宙の時間が最も内側・深層で流れが遅くなるような「輪をなす時間」という考え方を示している。(表紙にある絵のイメージ。また、私は同書を15年ほど前に読んでいるのだが、改めて得心した次第) そして著者は、このモデルに基づいて、最も外側の輪に乗っている我々が死んだときには、そこから降りて内側の先祖の輪に加わる、そして、ある日再び別の人間として生を受け、また外側の輪に乗る、これの繰り返しなのだとする。また、我々が現世にありながら、霊的なものに触れていると感じられるときは、一つ深層の時間と接しているときなのではないかという。
    著者は自らを「合理主義者であり、合理的な説明のつかないものに懐疑的」というが、私も、著者と同じような考え方をするタイプで、そういう意味で、著者の辿った思考のベクトル、プロセスには自然と共感できた。著者の数年後から人生を生きる者として(幸いなことに、これまで「生命飢餓状態」におかれた経験はないが)、時を置いて再読したいと思う。
    また、巻末にある、本書で引用された参考文献50冊も参考にしたい。
    (2020年11月了)
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    投稿日:2020.11.16

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