【感想】大阪淀屋橋ツインタワービル闇事件

秋山健太郎 / さくら舎
(8件のレビュー)

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    大阪淀屋橋ツインタワービル闇事件
    ~大和ハウスの真実

    著者:秋山健太郎
    発行:2023年5月13日
    さくら舎

    御堂筋は単なる道路ではなく、大阪市のシンボルとでも呼ぶべきメインストリート。ただし、阪急百貨店を中心としたキタエリアと、心斎橋以南のミナミエリアを除き、東京の表参道のような有名店が並ぶ繁華街ではなく、一流企業のビルが立ち並ぶビジネス街。その一流ビジネス街の北側玄関口が淀屋橋で、その両側(東西)角には、現在、高層のツインタワービルが建設中である。本書のタイトルになっている「闇事件」は、その西側ビルの建て替えエリアの一角で起きたもの。

    西側エリアはビルの地権者が多く、御堂筋に面した最も南にある「大阪東銀ビル」から、土佐堀通りのミズノ旧本社ビル西隣「住友生命淀屋橋ビル」までが建て替えエリア。「闇事件」は大阪東銀ビル(以前は東京銀行の店舗だった)が舞台。間口は狭いが奥行きがあるため、土地面積は意外と広い。

    なお、中央の角にあたる白いビルは有名な老舗である「石原時計店」の所有ビル。最上階は社長室で、僕も一度お邪魔したことがある。石原社長が故・手塚治虫氏と幼なじみだということで、昔話を取材させていただいた。コロンブスの看板横に立って見る大阪市役所の眺めは壮観だった。

    閑話休題。著者は、実はこの事件の当事者。従って、本書は純粋なノンフィクションとは言いがたい。この本の存在を知った時、タイトルから闇の世界が暗躍したどんなややこしい事件が起きたんだろう、と興味を持った。そんな人は多いはず。去年の7月に図書館予約して、やっと順番が回ってきた。

    ところが、読んでみるといたってシンプル。ツインタワー計画発表の何年か前、大阪東銀ビルを大和ハウス工業が買ったのだが、その仲介をしたのが本書の筆者であり、売買は最初から確定していたにもかかわらず、途中で一方的に外され、仲介手数料がもらえなかったという事件。闇の世界が蠢いた話ではなかった。同じ御堂筋では、ここから600~700メートル北上した旧東映会館跡地に建てられたビルが、新築のまま長期間にわたって立入禁止になって使われていなかったという事件があった。あちらはかなり複雑な事情があったようだが、こちらはすごくシンプルな話だった。

    ただ、著者、その時の大和ハウス工業社長、三菱東京UFJ銀行頭取、その頭取に取り次いでくれた人物が、偶然にも同じ四国にある高校の同級生だった点に特徴がある。愛媛県立新居浜西高校。

    大和ハウス工業は、ハウスメーカーとして今や断トツの売上げナンバー1企業だけれど、21世紀初頭までは積水ハウスがトップだった。しかし、樋口武男が社長と会長の時代になるとあっという間に売上げを何倍にものばした。今や4兆円を超える巨大企業。しかし、大阪のメインストリートにひとつも土地を持っていない。その点では積水ハウスに大きく立ち後れていた。

    そのような状況でこの本にかかれた「事件」は始まっていく。これは当事者である著者が一方的に書いたものなので、どこまでが真実かは分からないが、もしここで書かれている通りだとしたら、大和ハウス工業は相当にあくどい会社ということになる。ただし、最終的に著者は大和ハウス工業、及び、その時の社長であり高校の同級生でもある人物を訴えているが、その訴訟には負けている。

    *********

    愛媛県立新居浜西高校同級生
    日野晴夫 大成ロテック(旧大成道路)勤務、東京の大学卒
    佐藤修二 日本ペイント顧問、京大卒
    村上健治 大和ハウス工業社長、立命館大卒
    永易克典 三菱東京UFJ銀行頭取、東大卒
    秋山健太郎 著者、大末建設営業→建設コンサル経営、同志社大卒

    約240ページのうち、最初の100ページでこの事件の経緯を説明。
    次の約70ページで大和ハウス工業という会社そのものの批判。というよりも悪口。自らが何回も泥を塗られたことを語る。
    最後の約70ページで裁判に関するルポ(というかこちらが正しいという主張)。

    著者は大末建設営業担当で9年働き、独立して(1998年)建設コンサルの会社を経営していた。不動産の仲介、都市開発。そんななか、新聞で同じ高校の同級生の村上が大和ハウスの社長になったことを知る。本人からも電話がきた。高校の時は顔見知り程度だったが、後に幼稚園も同じだったことが分かる。著者(秋山)は同級生の日野を誘ってお祝いにかけつけた。以後、仕事を回してあげたいと思うようになり、おりにつけ仕事を紹介し、うまくいったという。

    <ツインタワービルの顛末>

    (2004年、村上健治が大和ハウス社長に)

    2006年、著者と大和ハウス部長・出倉和人が面談。出倉は「鴻池組の御堂筋沿い本社跡地を積水ハウスに持っていかれた」と言った。積水と違い、大和は御堂筋沿いに事業用地を確保していない。何とかならないか、御堂筋沿いは大和ハウスの悲願だ、と出倉。

    御堂筋沿いに3つビルを持つ三菱東京UFJが大阪東銀ビルを手放す可能性を考えた著者は、東京三菱UFJにおけるキーマンは副頭取の永易であることを知る。彼も高校の同級生だった。しかし、高校時代にほとんど接点はなかった。そこで、成績のよかった同級生の佐藤に連絡した。彼は永易と中学時代テニス部で今も連絡を取っているという。佐藤も村上を応援したいのでと、口利きを承諾してくれた。糸口はつかめた。

    2007年、話が動き始める。村上に話を持ち込む。恐らく200-300億円ほどだろうと価格を伝える。仲介手数料は3%のところを2%に、と村上から値切られたがOKした。それでも4-6億円になる。村上は後日、樋口会長からのOKも出たから話を進めてくれと言ってきた。

    ところが、村上は仲介依頼契約書に代わる購入申込書にサインをしようとしなかった。正式な売買契約が成立するまで一切の書類にサインをしないと言う。これでは先方(永易)に話ができない。雲行きが怪しい。このままでは「仲介なんか頼んでいない」と言われかねない。しかし、それが大和ハウス流だとも言われていた。仕方なく、永易宛に土地を買いたいという手紙を書いてサインをもらおうとしたが、それも拒否された。

    2007年3月、永易との面談はスムースに進み、以後、土地買収の話は前向きに進んでいった。

    2008年、永易が頭取に就任。

    著者と佐藤は年に3~4回上京して、永易と面談を重ねた。東京三菱UFJは統合された銀行のため、同じエリアに旧店舗がダブるところも多く、それを大和ハウスが買うことを提案、大和ハウスも積極的だった。しかし、2009年、大阪東銀ビル以外は、大和ハウスと永易が直接やるから手を引いてくれと村上に言われる。

    2009~2010年、売却はほぼ固まったと確信。

    2011年3月、村上が大和ハウス工業の社長を退き、副会長に(1年後に代表権も剥奪)。月刊「FACT」(2012年5月号)には、実力会長が、出来がイマイチの後任社長を更迭する関西企業の一つに、大和ハウス工業をあげた。樋口会長が村上を切ったとの見方。

    その前後、村上から呼びつけられ、大阪東銀ビルの件から降りてくれと言われる。驚く著者と佐藤。理由は「あのビルを買うのは無理だ」「俺は大和ハウスを辞める、しがらみを残したくない」。

    三菱東京UFJ銀行大阪支店が建て替え工事、その間、仮店舗を大阪東銀ビルに構えるので、売却はその後との「待ち」が入る。

    2016年5月、出倉と久しぶりに会食。大阪東銀ビルについて、そろそろ決めないといけませんね、と出倉にいうと、「もうまとまりました」と出倉。「秋山さん、もう時効ですよね」とも。先日、契約したという。3~4年前に村上から降りろと言われたことも出倉に話すと、出倉は「この仕事は誰がなんと言おうと秋山さんの仕事ですよ。それは間違いない」と言った。しかし、何度も「もう時効ですよね」の言葉も。

    佐藤と一緒に、出倉を訪ねる。訴えるしかないが、出倉さんから聞いたといわずにやるので、知らん顔をしていてくれ、と言った。あなたに迷惑かけたくなから、と。すると出倉は「何のことですか?私は秋山さんに御堂筋の土地に関わることを話した覚えはありません」と言い、さらに佐藤の方を見て「あなたのことは存じ上げません」と言い放った。もちろん、何度も会って名刺交換もしている。

    2016年8月には、村上が電話をかけてきて「そんなこと頼んだ覚えはないで」と言ってきた。

    2019-2020年、ツインタワー計画を公表。西側は、市街地再開発事業「淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業」として、大和ハウス工業、住友商事、関電不動産開発の3者で市街地再開発組合を結成。

    *********

    <それ以外のトラブル例>

    大和ハウスが運営している温泉施設「岩塩温泉りんくうの湯」と「岩塩温泉和らかの湯」において、「慢性皮膚炎、慢性婦人病、糖尿病、高血圧、関節炎などに効く」と効能を謳っていたが、実は温泉法に基づく利用許可がなく、実際には効用が認められていない岩塩とソーダ灰を工業用水や井戸水に混ぜていただけだった。大阪府知事による措置命令を受けた。

    2005年、オーミケンシが津工場跡地を著者の仲介により大和ハウス工業に売却。甲子園球場3.5倍。オーミケンシは社内稟議に必要な「購入申込書」か「買付証明書」の提出を求めたが、ちっとも出さなかった。いかなる書面も売買が成立する直前まで出さないのが大和ハウスの決まりだ、というばかり。しびれを切らしたオーミケンシが大和ハウスにはもう売らないと言ったので、著者は積水ハウスに持ちかけると、すぐに決まり、書類も直ちに提出して決まった。すると、大和ハウスが焦ってうちに売ってくれと泣きついてきた。著者は頭をさげまくり、大和と積水の半々出資の事業とすることでおさめてもらった。

    2007年4月、大阪ドーム(京セラドーム)近くにある大阪市交通局の跡地利用の事業コンペがあり、著者と大和ハウスのチームが事業予定者に決まった。大阪市から土地を借り上げ、建物を建ててサブリースするという内容。現在、ユニクロなどが入る「フォレオ大阪ドームシティ」がそれ。2011年にオープンした。ところが、2007年に事業者決定しても、著者に対するコンサルタント業務料は支払えないという。建設業者が決まり、建物が完成し、入居するテナントが決まらないとだめ、と。コンサルタント業務は大阪市からの土地借り上げが決まった時点で終了するので、理不尽な主張だった。下請代金支払遅延等防止法違反の疑いも。
    *かなりもめたようだが、「後味の悪さ」とは書かれているが、結末は書かれていない。

    オーミケンシがJR大垣駅の北側にある東京ドーム1個分ほどの土地を手放すことに。かなりの優良物件。オーミケンシは最初から積水ハウスに売却することに決めていた。しかし、著者がなんとか同級生の村上に花を持たせてやりたいとオーミケンシに頼み込んだ。津の時と同じように積水との半々で進めることになった。だが、ここでもまた同じで、必要な書類を提出しなかった。仕方なく信用して進めると、今度は売買代金の支払いを渋り始めた。開発許可が出るまで払えない、と。もう限界なので、著者はパナホームに話を持っていき、積水&パナホームですることになった。書類もすぐに用意された。そうすると、大和ハウスが開発許可の話は撤回するのでうちにやらせてくれと言ってきた。さすがに遅すぎた。

    こんな風に大きなトラブルが続出してきているのに、どうして著者は仕事を続けたのだろうか、非常に疑問。普通なら、これだけ裏切られたのだからもうやめてしまうはず。このあたりも、この本を鵜呑みにできない要素となる。
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    投稿日:2024.03.23

  • tabobooks

    tabobooks

    大阪・御堂筋沿いに土地を購入したい「大和ハウス工業」に、「東京三菱UFJ銀行」が所有していた土地を仲介した筆者が、2%の仲介手数料を受け取れず、訴えを起こしたが、仲介ではなく紹介だとされ、敗訴したはな

    不思議に思う点が二つ
    ・「大和ハウス工業」が、書面で事前の契約書を交わさないことを経験して、煮湯を飲まされながら、宅建士、不動産コンサルの筆者が、なぜ何度も取引を続けていたのか
    ・「大和ハウス工業」の社長が、著者新居浜西高校の同級生だから、誇らしいのは分かるが、何度も出てくる「なんとか村上を男にしてやりたい、手柄を取らせたい」とまで思うのはなぜか

    他の方の感想にもあった、第三者が書いたものなら、もっと面白くなったかもしれない
    実名がたくさん出てきて、大丈夫?と思ってしまった
    不動産業が胡散臭いという印象を、世の中に与えなければよいのだが…
    業界で行儀の悪い「大和ハウス工業」というのは、十分に理解できたので、告発した意味はある
    身体を壊してまで裁判して、敗訴したが、その後はゆっくり過ごしてほしいと思った
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    投稿日:2024.02.08

  • 1981年生まれの読書家

    1981年生まれの読書家

    ビジネスをする上で、詰めの甘さは感じてしまうが、わざわざ実名を上げず、もう少し脚色したら面白いストーリーにもなれると思う。

    投稿日:2023.12.16

  • りく

    りく

    あくまで個人的による一方向からの視点になっているのが惜しい。これを誰かジャーナリストに第三者的視点も加えて書いてもらっていたらまた違う受け取り方になったのではないだろうかとは思うが、だとしても
    この本に記されていることが本当なのだとしら(そしてきっと本当なのだろう)これはなかなかの酷さレベル
    まさに"行儀が悪い"なという印象を受けたし、何かの時にはどうしても気にしてしまうだろう
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    投稿日:2023.10.10

  • pokke

    pokke

    「淀屋橋」「大和ハウス」の闇事件、関西に住んでると興味をそそられるタイトルだ。大和ハウスと三菱東京UFJ銀行の売買契約を仲介したとする著者。売買契約成立まで仲介業者と正規の契約を交わさず口約束だけで進めていき、業界では行儀が悪いことで知られていた大和ハウス。関係者が高校の同級生という状況で起こった事件。著者が第三者なら読み応えもあるかもしれないが、仲介をした本人なので、一方的な話しか見えて来ずモヤモヤ感が残る。この事件以外にも何度も問題が起こり、何度も尻拭いをさせられてたと。本当の被害者は、仲介された相手企業なのではないかという気がするし、著者の甘さが引き起こした事件なのではないかという気がした。続きを読む

    投稿日:2023.09.25

  • 耕

    この種の本は一方的な主張なので、こんなこともあるかとは思うが、大人になる前の個人の繋がりをビジネスにつなげる怖さは感じられる。

    投稿日:2023.09.09

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