【感想】見抜く力

姜尚中 / 毎日新聞出版
(4件のレビュー)

総合評価:

平均 2.8
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ブクログレビュー

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  • 横

    「見抜く力」という題については、ちょっとずれていると思います。

    前半は身の回りでおきていることについての考察。後半は、北東アジアによる地政学的考察となっています。

    ■はじめに
    人生を見抜き、時代を見抜く、これが、本書のねらいです。見抜く力のガイドブックです。

    ・自分のまわりの、小さな事実の世界と、世界で起きている、大きな事実の世界とは、実際には同時並行的に起きているのです。

    ・とすれば、それらを別々の世界として切り離すほうがむしろ不自然なはずです。

    ■人生を見抜く
    距離をおく

    ・匿名の烏合の衆によってあっという間に世論もどきのものが形成され、それが一挙に拡散してしまうネット社会の危うさを考えれば、距離を置くということがどれほど重要であるかがわかるはずです。

    ・「見抜く力」は、こうした形骸化した客観性や数の勢いに翻弄される俗情的な世論に対して距離を置き、あくまでも「誠実に」自分と時代を見つめる洞察力を示している。

    ・過去は消えていくのではなく、無意識の世界の中に沈殿し、繊細な感覚的軽々をきっかけに生き生きと蘇ってくる

    ・まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思いけり 島崎藤村「初恋」より

    ・人たらしの声 ジェットストリーム 城達也

    ■時代を見抜く
    ・地政学的に九州が、東北アジアのダイナミズムを日本を引き込むゲートウェイになるからだ。

    ・残念ながら、北朝鮮という国家は存在しているのだ。そして今後も、当分、崩壊することはないと考えたほうがいい。

    ・ドイツ取材であらためて驚いたのは、原発が日本のように過疎地域の、ほとんど人の目に触れない場所に設置しているのとは違って比較的目につきやすい場所になることだ。

    ・リーダーの条件。ひとつは、ビジョンが不可欠だ。もうひとつは、コミュニケーション的権力である。国民多数の民主的な合意という正当性を獲得する必要がある。そして、最も重要なのは、国民の大多数が嫌がるような決定でも、それを拒否する多数者を獲得することでやり遂げるという実行力をもっているかどうかである。

    ・政治の要諦とは、取り組みべき問題の優先順位を定めることである。

    ・北朝鮮はどんなに厄介な隣国でも、中国にとって、死活的に重要な「緩衝地帯」なのである。

    目次

    はじめに
    第1章 人生を見抜く
    第2章 時代を見抜く
    おわりに

    ISBN:9784620324555
    出版社:毎日新聞出版
    判型:新書
    ページ数:224ページ
    定価:1000円(本体)
    発売日:2017年08月05日
    続きを読む

    投稿日:2023.07.08

  • kasaharapapa

    kasaharapapa

    政治の予定の1つは、取り組むべき問題の優先順位を定めることである
    米国が中東や中央アジアに足を救われている間に、東アジアでは、米国の力が相対的に後退し、その間隙を突くように中国が海洋進出に打って出ることになった続きを読む

    投稿日:2020.02.22

  • denkorollin

    denkorollin

    悩む力に共感し、同じ期待感で本を開いたが、本書は新聞に掲載された内容をまとめたもので、新しい知見を得ることはできなかった。

    唯一参考になった内容としては、「見抜く力は白か黒かの二項対立ではなく、複数の視点に立って対話することでしか見えてこない」という点だけであった。

    第一章では著者の生い立ちから現在の著者の「見抜く力」がどう育まれたかが記載されているが、それはあくまで著者自身のことであり、読み物としては面白いが、得るものはなかった。
    第二章は2011年からの新聞掲載をまとめたものであるため、ネタが古すぎて今更感が半端なかった。
    このような本は出版すべきでないと思います。
    続きを読む

    投稿日:2017.11.12

  • bookmaker43

    bookmaker43

    このレビューはネタバレを含みます

    今日も大変。でも書評ブログは続けるよん。今日の書評は「見抜く力」姜尚中(カンサンジュン)著。

    お前、コリアンの方の書評って言われる方もいるかもしれないが、サンジュン先生は在日二世で、もちろん日本語はペラペラ。早稲田大学大学院博士課程修了後、ICU准教授、東京大学大学院教授、聖学院大学学長などを歴任している、まさに日本人にとってのオピニオンリーダーの一人なのだ。

    「サンジュン先生なら知ってるよ!朝まで生テレビに出てた先生でしょ?」と言われる方、かなりの通ですね。私もサンジュン先生を同番組で知りました。氏の日本国への愛情はディープ(深い)かつコンシスタント(首尾一貫)で、私も「この方日本好きなんだな~」と思っていました。

    そこで今回、毎日新聞さんと契約が終了したことに伴い、感謝の意として毎日新聞出版でなにかいい本がないかな~と思ってたところサンジュン先生の本著「見抜く力」が発刊されていたので早速購入。で読み終えました。

    では早速紹介します。
    まず「見抜く力」とは何かと定義します。
    サンジュン先生は人生、時代を「見抜く力」とはどういうものかを、詳述しています。

    しかし、それらを考える前に身辺雑記や私生活にかかわるような「極私的」な出来事と、国家や世界情勢のような大事件とは、直接には結びつかず、切り離して考えないといけないといいます。

    しかしながら、サンジュン先生はよくよく考えてみたら、それらは同時並行的に起きていて、別々の世界として考えることは不自然であると喝破します。

    そのような「見抜く力」を卓越的に持っていたのが、かの文豪の夏目漱石であるとサンジュン先生は指摘します。

    漱石は「硝子戸の中」で「私は丁度ドイツが連合軍としているように、病気と戦争しているのです。今こうやって貴方と対座して居られるのは、天下が太平になったからではないので、塹壕の中に入って病気とにらめっこしているからです。私の身体は乱世です。何時どんな変が起こらないとも限りません」

    これについてサンジュン先生は喝采しています。
    「継続中の病気」であれば、なおもすれば「自分のことばかり」気にする傾向にある。
    それを自分の身体を「乱世」そのものと呼び、自宅の硝子戸の中を「塹壕戦」に見立て日々戦っており、あきらかに漱石は自分の身に降りかかってきた、病魔という個人的な物を第一次世界大戦という公的なものとシンクロさせているから、と述べます。

    なぜ漱石がそのような「見抜く力」を持っていたのかについて、サンジュン先生は「距離を置く」という行為が漱石には可能だったと述べます。

    漱石の言葉を借りれば、私たちの社会は人間の塊からなっていますが、その人間は同じ共同体を形成していても「貴と賎」「正と邪」「男と女」「貧と冨」など、自分に対してでもなく他人に対しても、またこの世界についてもその見方は違ってくるに違いない。

    それは突き詰めれば、人生観の相違であり、それが集団的な利害や思想、理念の違いとなって、イデオロギーや世界観の対立となって、力と力のせめぎあいになると言われます。

    したがって、その結果絶対的な立場や視点などは存在せず、自分や他者、世界の見方をどう見るか相対化せざるを得ないとのことです。

    その相対化の過程で、どの見方も真実であるという結論が得られます。しかしながらその相対化の過程で、自分というものを常に疑うことが必須となります。すなわち自分という主観へのこだわりだけで、自分自身や他者、世界の見方が異なってくるからです。

    しかし、言うまでもなく、世の中は、世界は社会は私たち一人ひとりがそれらをどう意識しようが、存在しています。

    それでは漱石はどのような意味で客観的と言っているのでしょうか?
    漱石はそれは「大人が子供を見る態度」「両親が児童に対する態度」であると述べています。

    この比喩はあくまでも喩えであって「人生観の高下」を指しているのではありません。あくまでも大人が子供に接するかのような態度で物事を観察し、叙述することを指しているのです。

    しかも物事を客観的に見ること、つまり距離を置く態度は当の視察主体である自分自身にも容赦なく適用されるのです。

    時には煩悶し、苦悩し、悲しみ、泣く自分自身を他者に対する場合と同じように突き放してみるよるのですから、そこには道化のようなユーモアが発生するとのこと。

    そのことを漱石は「自分の馬鹿な性質を、雲の上から見下ろしして笑いたくなった私は、自分で自分を軽蔑する気分に揺られながら、揺籃の中で眠る子供に過ぎない」(「硝子戸の中」)と語っています。

    とここまで本書のさわりを紹介してきましたが、さらに「見抜く力」についてサンジュン先生の深い洞察かつ論理が展開されています。

    しかしながら、それは前書きだけで、本書の大部分がサンジュン先生の私生活及び政治情勢に関するエッセイです。このブログではほんのさわりだけ紹介しました。サンジュン先生の魅力に触れたい方ぜひ本著を手に取ってみてください。

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    投稿日:2017.08.11

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