【感想】偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い

小泉悠, 桒原響子, 小宮山功一朗 / ウェッジ
(6件のレビュー)

総合評価:

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  • bukurose

    bukurose

    本文は難しい。とりあえず小泉氏のを読む。最後の鼎談でやっと一息。ディスインフォメーションという言葉を初めて知った。意味を知るとなるほど。

    メモ
    ディスインフォメーション:disinformation
    意図的に作られて広められる虚偽の情報

    最後の三者鼎談より
    スパイのプーチン、コメディアンのゼレンスキー

    小泉:ロシア語の分かる人は、ゼレンスキーの振る舞いは演技がかってみえてしまうようです。ゼレンスキーもそれには自覚的。

    ゼレンスキーは割に権力欲もあり、自分に批判的なメディアに圧力をかけていた。ウクライナのジャーナリスト・セルヒー・ルデンコ著「ゼレンスキーの素顔」2022.8では、「困った人物をウクライナの大統領に選んでしまった。でも戦時の大統領なんだから頑張れ」とある。

    ゼレンスキーは役者としてうまく立ち回っているのに対し、プーチンは元KGBとして徹頭徹尾スパイとしてふるまっている。本心は見せない。

    桒原:日本のメディアは米国の特にCNNやニューヨークタイムスの作り出すアジェンダセッティングに乗っている。

    :アジェンダ設定 (アジェンダせってい、英語 agenda-setting)機能説とは マスコミ研究 の用語で、あるテーマの重要性が 報道 での言及量・頻度により決定づけられること、ひいては、大衆や政治家の注目する議題(アジェンダ)を設定する影響力が マスメディア にあるという説を指す

    小泉:ロシアが侵略を仕掛けた側なので、世論がウクライナに同情的になるのはわかります。「ロシアは悪、ウクライナは善」という二項対立は鵜呑みにしてはいけないかもしれないけれども、やはり公然たる侵略を行ったロシアが悪いということははっきりさせておく必要があるでしょう。

    桒原:小宮山さんの章で共感したこと ・・私の今の最大の関心ごとは、ディスインフォーメーション対策は民主主義国家では不可能ではないかということ。・・ インターネット上の言論空間で、民主的な価値を担保する仕組みはまだないんです。

    小泉:小宮山さんの結論としては、「サイバー時代の民主主義の敵は、権威主義国家とテックジャイアントでしたっけ?

    小宮山:そうです。

    :ビッグ・テック(Big Tech)は、テック・ジャイアンツ(Tech Giants)、または口語ではフォー・ホースメン(The Four Horsemen) 、ビッグ・ファイブ(Big Five)、などとも呼ばれ、アメリカ合衆国の情報技術産業において現在最も規模が大きく、支配的で、最も名声のある4~5社のことを指す名称。ビッグ4は、Alphabet(Google)、Amazon、Apple、Meta(Facebook)の4社で、Microsoftがビッグ5を構成している


    小泉悠、桒原響子、小宮山巧一朗氏はこの本の刊行に立つ3年前、東京大学先端科学技術総合センターが外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金を受けて実施してきた「体制間競争の時代における日本の選択肢」のメンバーとして情報安全保障について議論を重ねて来た。


    2023.1.20第1刷 図書館
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    投稿日:2023.10.14

  • ちょっかん

    ちょっかん

    情報戦についても学びたいなぁと感じ、買っていたものの積んでいた本書をようやく読了。本書は主に中国・ロシアによる偽情報を含めた情報戦について解説しており、情報戦に対する日本の対策不足も指摘。さらに、インターネット空間における情報だけでなく、物理的な情報インフラも射程に収めている。

    特に、情報戦を含めた類似概念(認知戦や情報作戦等)の定義的なものを一覧表でまとめてあるのはありがたい(24頁)。しかし、ハイブリッド戦についての本を読んだときも思ったのだが、情報戦という概念が曖昧で、個別事例を見ると納得できるのだが、体系としてはぼんやりしている感じの読了感。情報戦の手口や手法を体系的にまとめたものが欲しいところ。

    本書の中で特に興味深かったのは、情報戦を日本政府がどう対処すべきかという提言であった。やはり、表現の自由との対立があり、性急な対策はかえって情報戦に利用される恐れがあるという指摘も勉強になった。こうした文脈で、桒原先生が問題視する民主主義国家における偽情報対策と表現の自由の相克も興味深いテーマと感じた。やはり、対策の根底には国民のリテラシー向上があり、これは台湾のように実被害がでないとなかなか広まらないような気もする。おそらく本書執筆時点で、戦略3文書が公開されたのだと思うが、同文書の情報戦への対策への評価もあればさらに良かったと思う。

    全体としては、難しいテーマにも関わらず、すらすら読むことができる良書と感じた。今後も情報戦に関する本を読んで勉強したい。

    以下、備考
    ・【p.22】ディスインフォメーションの流布は未然に防ぐことはできないが、信じている人に訂正の情報を与えることはディスインフォメーションの影響を小さくすることにつながるということである。
    ・【p.24】世論形成手段一覧
    ・【p.30】EUの欧州対外行動庁(EEAS)内には戦略的コミュニケーション・タスクフォースあり(2015年設立)。官民連携も進んでおり、2020年には欧州デジタルメディア観測所(EDMO)の運用開始(p.41)
    ・【p.33】日本では、総務省が国内の〔災害デマ等の〕「フェイクニュース対策」の中核になり、2018年「プラットフォームサービスに関する研究会」を立ち上げ
    ・【p.35】ディスインフォメーションの拡散の速さや範囲の広さは、真実のニュースが拡散される10倍以上になるとも言われる。〜特に、政治分野におけるディスインフォメーションの方が拡散されやすい(MIT)
    ・【p.38】NATO戦略コミュニケーションセンターもあり
    ・【p.39】米デューク大学ジャーナリズム研究センターThe Reporters Labが世界のファクトチェック機関を登録
    ・【p.42】ディスインフォメーションに対策に係るEUの取り組みの表。「デジタルサービス法」
    ・【p.45】台湾の対策(24時間体制の迅速な情報発信、メディアリテラシー教育、「反浸透法」、ミームを活用した情報発信、官民連携)
    ・【p.47】米国は2022年4月、国土安全保障省に新たに「ディスインフォメーション・ガバナンス委員会」を設置。しかし、批判を受け僅か3週間後に活動停止
    ・【p.53】中国の在外公館や外交官自らが特定の国や地域に関するネガティブな情報発信やディスインフォメーションを拡散する動きが増大(戦狼外交)
    ・【p.54】中国発の存在しない「研究員」のインタビュー記事→中国が自らに有利な状況を作るべく、「研究」という客観的で信頼性の高い領域・立場を利用し、主張の裏付けを企図
    ・【p.90】露の「第五列」発言の起源
    ・【p.92〜】露を代表する情報戦理論家で、外交アカデミー教授のイーゴリ・パナーリンによると、ソ連崩壊は西側による「情報戦争」の結果。パナーリンのいう情報戦争とは、第一章の情報戦の定義と重なり合う部分が多いものの、物理空間での力の行使も含んだより広範な概念
    ・【p.99】2016年の米大統領選で露が用いた手法の源流としてよく指摘されるのは、エフゲニー・メッスネル(военный университет, 2005)の「電波侵略」
    ・【p.102】「行いによるプロパガンダ」とは、実生活で混乱した状況を作為・もしくはそれに乗じてプロパガンダを流布・浸透させること
    ・【p.104】1950年代からソ連では、人々にどんな情報を与えればどんな反応が返ってくるかを理解することで、まるで当人がそう望んだかのように錯覚させながら意図した反応を引き出す方法「反射統制」について研究〔Bagge,2019)
    ・【p.106】パナーリンは、ソ連崩壊後、連邦政府情報通信庁(FAPSI)で情報分析業務を実施。FAPSIはKGBの通信傍受・分析部門が独立した組織で、現在はFSBに統合。パナーリンは1997年、外国による情報戦争に対抗するために「心理安全保障支援総局」の設置を提案。この構想は後に「情報作戦部隊」へと発展
    ・【p.107】ソルダートフとボロガンの著書によると、露の情報戦戦略の策定にあたり大きな影響力を持っていたのはFAPSI長官を経て2000年に国家安保会議入りしたウラジスラフ・シェルステュークという。他に、モスクワ大学情報安全保障研究所といったシンクタンクも関与か
    ・コンプロマット=名誉毀損作戦
    ・【p.116】IRAの運営はヴャチェスラフ・ヴォラディン大統領府副長官が責任を負い、運営費はプリゴジン。IRAの業務内容「ニュース部門」「ソーシャルメディア部門」。露はコンプロマットの標的にヌーランドを使用
    ・【p.120】米ランドのクリストファー・ポールとミリアム・マシューズによると、露の情報戦の特徴
    ・【p.136】露情報戦はQアノンを利用の可能性
    ・【p.138】ウは2014年以降、「VK」や「アドナクラスニキ」等の露SNSのアクセス遮断や親露派テレビ局を閉鎖
    ・【p.142】ゼレンスキーのパブリックディプロマシーを指向する演説は、①聴衆が「誰」であるかを把握し、②メッセージ内容を聴衆のニーズや関心事によりカスタマイズし、③「ウで起きていることは、他人事ではなく自らの問題」と思わせる効果あり。また自らが発信するメッセージによって作り出すイメージが、実際の言動や政策を伴ってなければ成果は生まない。
    ・【p.148】スペイン語圏等に対する露の情報戦の目的は、支持獲得というより、情報戦の対象となっている国々の国内の緊張を高め、非同盟の国々が反露やウ支持で連帯するのを妨害すること。なぜスペイン語圏かというと、対米文脈で中南米を重視
    ・【p.171】ヴィアサット社へのサイバー攻撃が戦争初期の痛手だったとウ政府高官が発言(Cattler and Black 2022 “the myth of the missing cyberwar~”)
    ・【p.192】サイバー空間と民主主義の関係の誤算①ディスインフォメーションの危険性、②離散のツール、③サイバー空間のガバナンス(以前は国家がサイバー空間に干渉してはならないとする「インターネットフリーダムアジェンダ」という常識があった)
    ・【p.208〜】情報戦はもはや特別な闘争手段でない。これまで日本語の複雑性という壁が存在してきたが、AI翻訳技術等の制度が向上すれば、言語障壁は破られ、情報戦の波が日本に押し寄せる可能性あり。情報戦は物理空間の戦争のように、ある日はっきりした形でやってくるものではない。ある社会の内部に存在する政府への不信感や社会的分断を利用して徐々に展開
    ・「Jアノン」
    ・日本がグレーゾーン事態に陥った場合、政府が公式見解を発表するだけでは不十分。「日本政府は嘘をついている」とディスインフォメーションが拡散されるだけ。
    ・台湾のように、市民のディスインフォメーションへの脅威認識が高くあるべき
    ・【p.211】求められる情報安全保障のあり方:①政府が適切な現状分析に基づく危機意識を国民と共有し、国民の支持の下に対策枠組みを構築。これなしに統制を強化すれば「政府による情報統制」とみなされかねず、かえってディスインフォメーションの効果を増幅しかねない。②関係省庁の横断的な対応を可能とする体制構築、③官民連携。平時からの官民両面でのサイバー攻撃監視をはじめ、ファクトチェックや国民のリテラシー教育等に取り組む組織支援。プラットフォーム企業やメディア、シンクタンク等との情報共有仕組みづくり、④表現の自由は保障、⑤ジャーナリズムの位置付け。ただし国民一人一人のリテラシーが最も強固な抑止力、⑥国際協力
    ・【p.255】政府の発信力を向上。あらゆる世代に届くような情報発信手段を有すること。シンクタンク等が学校にまで行ってリテラシー教育をすること
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    投稿日:2023.10.12

  • Giorno

    Giorno

    福島原発処理水の海洋放出を巡って、中国政府が公然と偽情報を拡散しつつ日本から水産物を輸入するのを禁止する一方、日本近海で漁をしている自国船を黙認するという矛盾だらけの言動に対し国際会議で反論する程度の対抗手段しか持ち合わせない日本政府の無力感への焦燥が募ってくる、というのが本書の読後感である。続きを読む

    投稿日:2023.10.04

  • ゆかり

    ゆかり

    反ワクチン情報が陰謀論のように何度も書かれていたため、評価を下げました。それがなければ⭐️4つです。

    投稿日:2023.09.15

  • irojama

    irojama

    買ったあとに、知り合いが著者って気づきました。

    難しい書籍でした。文章の表現が難しいのか、取り扱っている内容が難しいのか。読めない漢字もちらほら。

    もう、物理的な戦争も、情報の戦争も、サイバーの戦争も、いろいろあるよね。
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    投稿日:2023.07.21

  • くま

    くま

    現代の安全保障は国家や特定の省庁、一部の専門領域だけで考えることができないことをあらためて感じさせられる。

    新型コロナウィルスやロシアによるウクライナ侵攻であらためて注目されるようになった偽情報や情報戦の重要性。
    日本では今まで言語的な壁にも守られていたことで、海外からの偽情報拡散の脅威にさらされていなかったこともあり、根本的な問題意識も欠如している。
    しかし、ロシアによる情報戦の手法にも見て取れるように、
    何も正しいように見える偽情報を拡散されることだけが脅威なのではない。
    複数のチャネルに迅速に、また継続しながら、反復して情報を拡散することで、事象を分かりにくくすることだけでも、群衆心理に一定の影響を与えることができる。

    日本は平時の外交上の失敗での反省からYou Tubeでの英語情報発信などを外務省が行っている動きがあり、偽情報に関する関係省庁の枠組みも作られているが、偽情報の脅威に対する包括的な対策という意味では道半ばである。

    情報安全保障を確立するためには情報統制も不可欠であるが、表現の自由や民主主義との相性が悪く、国民の理解を得られる情報統制のあり方への議論が必要だ。いざというときの省庁連携もうまく機能するか分からない。
    ファクトチェック機関が本書の定義では3機関しかないというのも心許ない。
    また情報はインフラがなければ拡散も統制もできないが、
    論理インフラは通信事業者、すなわち企業による部分がほとんどであり、物理インフラも攻撃時の復旧などは現場技術者の能力に頼らざるをえない。

    ウクライナのゼレンスキー大統領が成し遂げたような、言葉と意志の示し方により、各国の協力や共感を得たという事実もある意味見習う必要がある。

    ロシアの情報作戦部隊は群衆心理を研究しており、外交官、専門家以外にもジャーナリストや作家など、多様な人材で構成されているとのこと。

    日本は今後包括的な情報戦に向けて、官民問わず連携し、多様な視点で情報の分析、統制を行える体制を作る必要がある。
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    投稿日:2023.05.21

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