【感想】優しい地獄

イリナ・グリゴレ / 亜紀書房
(17件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • pedarun

    pedarun

    【日本在住のルーマニア人学者の自伝的エッセイ】

    1984年生まれルーマニアの村出身の著者は、現在日本の獅子舞について日本語で研究をされているらしい。彼女のこれまでの経験がつづられている。

    当時のルーマニアは、社会主義が色濃く残る。幼少期は祖父母の村で育ち、学生になって出てきた町は、「社会実験」をされているも同然という。

    「人間と動物が混ざった豚の内臓のような無茶無茶な空間」。

    歯車と化して工場で働く父の姿。協働団地での暮らし。

    「社会主義とは、宗教とアートと尊厳を社会から抜き取ったとき、 人間の身体がどうやって生きていくのか、という実験だったとしか思えない。

    あの中で生まれた、私みたいなただの子供の身体が何を感じながら育っていったのか。それは、言葉と身体の感覚を失う毎日だった。高校生になったある日、急に話せなくなったことがあった。一生をかけてその言葉と身体を取り戻すことがこれからの私の目標だ。」

    2歳の時にチェルノブイリを経験ーその健康被害は後になって出てくる。

    日本語と出会ったのは、高校のときに地元の図書館で読んだ『雪国』。その後、黒澤明などの日本映画をたくさん見る。

    日本語について、彼女は。「自分の身体に合う言葉」、「私の免疫を高めるための言語」と表現する。

    社会主義の国家制度の中で否定された個々人の感覚の世界をどうにかして取り戻したいという身体的な叫びのようなものが聞こえる気がする。

    『雪国』を読んだ4年後、彼女は日本への交換留学の機会を得る。

    そして2013年には東京で映像人類学についての博士課程を始める。

    映像記録への高い関心から、エッセイ内では様々な映画について触れられる。

    自分の育った森のそばの村について動画にとどめておきたかったという彼女は、現在、青森県の伝統を中心に、映像を通してその地の伝統を記録しているのが何とも不思議。

    西目屋村も出てきた。

    コロナ期間中も日本にいて、2年半、本国に帰ることができなかったらしい。そんな中でこのエッセイ集が本としてまとめられた。

    社会主事体制時よりも、「優しい」かもしれない現代社会で、これからも生きて世界を変えよう、という強いメッセージ。
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    投稿日:2024.03.30

  • ハナモト

    ハナモト

    もちろん優しい地獄も存在する、今や地獄の種類も抱負だよね。資本主義を根底に置き、グリゴレ本人の静かで少し尖った捻りのある人生エッセイ
    流石映画評論家だよね知らない映画がポンポンでてくるページを止めて調べては頁を進め...読了するには時間を要したけど。凄い満足した:)続きを読む

    投稿日:2024.03.19

  • mio

    mio

    少しずつ読み進めていたのに、途中から止められなくて一気に読み切ってしまう本があり、これもそう。後半は、考えながら、自分と議論したり著者に問いかけたりしながら読んでいた気がする。内容についての感想はきれいには纏まらない

    日本語がとても好みで、読んでいて心地よかった
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    投稿日:2024.02.27

  • rafmon

    rafmon

    行動を決断できるほどの衝撃が無いから、日々を何気なく繰り返す。その穏やかな生活こそ、幸せと言えば幸せ。しかし、どこかに現状を変容させたい衝動があるなら、挑戦して変える事もできる。この本を読んで、そう思う。

    チェルノブイリの子。放射能が原因で病気を患い手術。貧しい旧社会主義国で生まれた著者の半生。生まれた時に乳を与えられぬ母の代わりに、隣の産婦であるジプシーの女の母乳を飲んだ。その出来事に意味づけをし、自らのアイデンティティとして吸収する。多かれ少なかれ、人間は日々の出来事を自らの血肉とし、それは信仰のようなものになる。その大きな天啓として、川端康成の『雪国』との出会いが著者を日本に駆り立てた。

    優しい地獄とは、何か。
    ダンテの『神曲』にインスパイアされた5歳の娘。それを資本主義の皮肉と受け止めた著者。ここはよく分からない。この文章の後に綴られるのは、ルーマニア時代の凄惨さ。つまり社会主義の体験であり、資本主義の皮肉ではない。地獄のような欲望の競争社会だが、得られる物資は優しい、という意味か。女性の肉体についても、著者は地獄と形容する。もしかすると、業や因果を地獄と捉えたのだろうか。そのために、自らの運命を変える事に生きてきた人生を振り返っている。

    衝動により強く軌道が変わる人生と、優しく日々を繰り返すだけの人生の対比のようなレトリック。自分とは異なる世界を生きたエッセイであり、新鮮な読書だった。
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    投稿日:2023.12.16

  • 門哉彗遥

    門哉彗遥

    獅子舞と女性、ジェンダーを研究しているルーマニアのイリナ・グリゴレさんの初エッセイ。こう言うのをオートエスノグラフィーというらしい。チャウシェシク政権下で育った少女時代から日本の白神山地の麓で娘たちと暮らす今を描いていて、時折、現実なのか妄想なのか分からなるような幻想的な表現もある。映画監督になりたかったらしく今も映像をよく撮っておられるようで、映像的な表現も随所に見られて、なんか不思議な気分を味わせてくれるエッセイだ。続きを読む

    投稿日:2023.11.17

  • mishuranman

    mishuranman

    このレビューはネタバレを含みます

    想起力というのかなあ。イメージがしゅるしゅるとつながって出てくる。それがとてもすてき。おっかないのも多いけど。こういう日本語がかける人はかなり少なくなっている気がする。赤毛のアンをふっと思い出させるものがあるこの想起力。その健康さも含めて。

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    投稿日:2023.10.23

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