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天野修司 / イースト・プレス (1件のレビュー)
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国際関係論の解説書である。日本では地政学が話題であるが、世界的には地政学はオワコンである。地政学は地理的な条件から国家の関係性を説明する考え方であるが、「地理的な条件だけで国家の行動を理解しようとする…考え方は応用性に乏しく、また、その内容も偏見に満ちたものだった」(5頁)。 地政学がオワコンとの主張に共感できるが、逆に地政学の駄目なところが日本で地政学がもてはやされる要因になる。地政学的な説明では「日本が大陸に進出するためには朝鮮半島を押さえる必要がある」「朝鮮半島を抑えれば日本を侵略できるために日本が侵略されないために先に朝鮮半島を押さえなければならない」となる。これは日本の植民地支配や侵略の責任を誤魔化し、軽くする方向に働いてしまう。 このような議論は韓国にいる人々にとってはとんでもない話である。朝鮮半島という地理的条件にあるから周辺の大国から侵略されることはやむを得ないことを認めろという話になってしまう。焼け野原から経済大国にするような悲惨な条件の下でも頑張ることを美徳とする前に進むだけの国民性でもなければ受け入れられないだろう。 逆に国際関係論では朝鮮半島の国々は主体的なアクターとして活躍する。北朝鮮が核兵器開発に邁進することは自国の独立を維持するために合理性があると説明できる。北朝鮮は軍事国家に見えるが、その国防予算は韓国よりも少ない(136頁以下)。 また、日本では韓国の「反日」傾向が批判されるが、これも韓国が中国への貿易依存を高める中での経済合理性のある行動になる(144頁以下)。韓国の「反日」を批判する日本の嫌韓派はイデオロギー的偏向と考えがちであるが、それは自分達がイデオロギー的に偏向しているから相手も同じという愚になる。 地政学の害悪は2022年のロシア連邦によるウクライナ侵攻にもある。地政学中心の発想ではロシア連邦が黒海に出るためにウクライナを影響下に置こうとすることは必然と考えてしまい、ロシアの侵略に対して思考停止になってしまう。しかし、ウクライナ侵攻は反帝国主義という国際規範に真っ向から逆らうものであり、それ故に国際社会が強烈に非難した(115頁)。やはり地政学は古臭い発想になる。 この結果、ロシア連邦はグローバル経済から締め出されることになった。「今後、ロシアの経済力は急速に低下するでしょう。その姿を見て、今後、力による現状変更を行おうとする国が減っていく可能性があります」。このように述べた上で、それは「これからの世界がより良くなっていくことを示す数少ないエビデンス」であると本書は締める(178頁)。ウクライナ侵略に対して消費者レベルでもBoycott Russiaの声が出た。それは正しいアプローチになる。続きを読む
投稿日:2022.08.30
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