【感想】理想の国へ 歴史の転換期をめぐって

大澤真幸, 平野啓一郎 / 中公新書ラクレ
(6件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • OGwess

    OGwess

    知性、思想、お人柄において信頼という意味では間違いない大澤真幸さんと平野啓一郎さんの、2019年1月平城天皇退位宣言の直後、コロナ禍となった2020年8月そしてロシアによるウクライナ侵攻後の2022年4月に行われた対談をまとめたもの、
    コロナ禍、ウクライナ侵攻という大きなパラダイムシフトととなるような危機、事態を目の当たりにし、大変冷静に語られている。帯には、鍛え上げられた施策と言葉で日本をバージョンアップする、と書かれているが、悪夢の安倍一強政権(アベスガ時代)の後岸田政権以降もマシになりどころか酷くなるばかりの中、なかなか現実にはバージョンアップは起こりそうにない。
    大澤真幸さんは前書きで、今は、絡み合ういくつもの問題があり一つの問題の解決に集中できなくなっており、行動の前に考え抜くことが必要と書いているが(前述の日本における政権、政治勢力の、考え抜かなさ視野の狭さ状況を悪化させる早計浅薄な行動が止まらぬ中、、)なかなか日本バージョンアップの道は険しそうだ。
    平野啓一郎さんが言う、相変わらずな日本人。日本列島に長く住んで文化的に均質な人たちというイメージからいまだ抜けられない人が多い、多様な人たちが存在して日本が成り立ってきたことを認められない人たち、だから多様な人、社会における共通認識の形成がないと。そのような想像力や世界観の欠如から、例えばいかに少子化を克服するかを浅薄に考える限り、労働力を集めるとかなにか条件付けて子どもを産ませるとかそんなことで労働力(外国人に共に暮らす社会を形成する仲間隣人として移住共生してもらうのではなく使い捨て労働力のイメージのまま。うわべだけの外国人研修制度の改変とか国際目線では全くありえない人権侵害レベルの難民法ならぬ入管法改悪とか。LGBT 差別禁止も夫婦別姓も行動として至極当たり前なのに法制化もしたくなければ現実に実施することもできない、マカ不思議な日本)どの問題を取ってもバージョンアップはなさそう。
    歪んだ歴史認識、あいまいな日本人という 同一性が幻想や一部の人の妄想ではなく支配的であること、多様性に移行できない政治それにより教育や自由な考えが歪められ相対的にも絶対的にも世界から取り残されてきているだろうと思っているので、その感覚をしっかりとしたお二人の思想で裏打ち、増強していただけた。そしてさらに悲観を強めてしまうのだが。

    平野さんの文人主義、個人の中に複数性を抱えながらいきることは不可欠ということが通底している。

    日本を日本たらしめる天皇制直結の元号という区分による時代感覚、集団的記憶もさまざまに語られていて新しく知ることも多かった。
    お二人が多岐にわたり本を引き合いに出して語られるので、ブックガイドとしても有用であり刺激的。
    三島由紀夫、ベンヤミン、ブルシットジョブのグレーバー、斉藤幸平、ベルクソン、谷崎潤一郎、ジャレッドダイアモンド、ベネディクトアンダーソン
    (想像な共同体)など。膨大なおふたりの知をお裾分けいただきたくさんのヒントと、なんとも言えない心地悪さ(悲観)をいただいた。あとがきで、平野啓一郎さんは、
    未来予測はどうしても時間的になりがちだが私が大沢さんとエッチしているのは半シニシズムであり自己批判なきナルシシズムおよび「現実主義」を偽装した「現場追認主義」への批判であること、とし、それぞれにあるべき未来の理想について語りその選択の仕方を考えたと、書いている。
    未来の理想など提示されないこの国で、未来の理想を考えること諦めないこと知恵を求め使うこと。理想は思索の糧となり理想は現実を追求する。
    良書。落ち着いて考えていく。

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    投稿日:2023.05.14

  • Yoshiee

    Yoshiee

    読み易さと内容の濃さの両方を叶えた充実した対談。この組み合わせでは当然と思えるが、改めて1990年以降の日本が辿ってきた道を考えさせられる。本筋とはやや離れるがイチローが変えたベースボール感には鳥肌がたった。続きを読む

    投稿日:2022.11.20

  • dai-4

    dai-4

    平素からの発言にも信の置けるお二人の対談。それが素っ頓狂な方向に転がる訳もなく、確たる知性に裏打ちされた、スリリングなやり取りの追体験が出来る結構。話題はウクライナ侵攻にまで及ぶんだけど、暗いニュースの続く昨今、何となく感じてはいるんだけど、自分ではなかなか言葉に表せないあれこれ。それを、わかりやすく言語化してくれているように思える部分が多々あり、快哉を叫びたい気分。自分の手柄じゃないのに、この満足感を味わえるからこそ、こういう系の書に惹かれるのだな。続きを読む

    投稿日:2022.08.16

  • ピーク

    ピーク

    政治的な思想には人それぞれで、筆者のお二人の思想に必ずしも共感しているわけではないですが、文学にからめての話など、興味深かったです。

    投稿日:2022.07.23

  • 中央公論新社

    中央公論新社

    コロナ、ウクライナ。人類史レベルの転機の今こそ、「日本スゴイ」の虚妄を超えて新たなアイデンティティを。ラディカルな「憂国」。

    投稿日:2022.07.14

  • のりおのチラシ裏

    のりおのチラシ裏

    巨に語りつつ微に入り細を穿つといった内容の本。
    ただ、対談をまとめた内容であるために”巨”の部分が多くを占め、”微”が弱く見えるのは仕方ないことか。

     大部分はTwitterで多く論争されている内容で、書籍上でも同じ内容を読むと思うとうんざりする。
     SNS上で矢継ぎ早に出てくる議論の数々に、ついていけないが興味はある方は、この本を読んでみると面白いのではないか。ある程度まとまった情報と、両氏が思考した考えを、自分のペースで読み進めることができる。数々の題に対して両者の立場考えを表明している。反意を抱くこともあるがそれで返って自分の考えに気付くこともあるだろう。
    それでも読み進めて微に入るにつれ、本の面白さが伝わってくるはずだ。

     タイトルについて、どうしてそんな過ぎた言葉を表紙にもってきたのかと思ってしまった。しかし意味する処としては、理想があっても困難な現実を前に、「それでも現実はこうなのだから」と言うのか、「現実を変えることで理想に近づこうとする」かで後者をとるということなのだろう。途中では斎藤幸平氏のSDGs批判を上げ、現実に即したマヤカシの対策ではなく、抜本的な理想形を望んでいる。
     SNSの議論に、それができればいいけど現実には難しいよな、と思われる方にもおすすめだ。あくまでも思考の一環として読まれるといいだろう。
    続きを読む

    投稿日:2022.07.14

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