【感想】夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く

奈倉有里 / イースト・プレス
(40件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
21
8
5
1
0

ブクログレビュー

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  • nanae0217

    nanae0217

    最近全然聞かなくなってしまった、高橋源一郎の飛ぶラジオで紹介された作者。ゲストで出演もされていた。それを聞いて以来読みたいと思いつつ一年くらいがすぎてしまって、やっと読んだ一冊。
    作者がロシアに留学し、語学学校を経て、ゴーリキー文学大学で過ごした日々を綴ったエッセイ集だ。
    作者は私と同じ82年生まれ。同じ時代を生きた人にこんなにも言語を探究し体感し、文学を愛し、体感した作者一種の感動を覚えた。
    素晴らしい先生や友人たちとの出会いを、自身の文学的な力にすることができたのは、紛れもなく、作者のあくなき探究心と好奇心と努力だ。
    作者が愛したロシア文学とそこに住むさまざまな国から来た友人や同級生たち。敬愛する先生との出会いと別れ。変わりゆくロシアと悪化していくウクライナとの関係。それらが、揺るぎない文学へ信頼に基づきながら語られる。
    作者が執筆したときよりも、さらに世界情勢は悪化してしまった。だからこそ、筆者が綴った言葉を胸に刻みたい。作者が通った大学のある教室に掲げられたレフ・トルストイの言葉。「言葉は意外だ。…人と人をつなぐことができれば、分断することもできるからだ。…人を分断するような言葉には注意しなさい。」それを引用して筆者は、「どうしたら人は分断する言葉ではなく、つなぐ言葉を選んでいけるのか。その判断はそれぞのいかなる文脈の中で用いられてきたのかを学ぶことなしには下すことはできない」と語っている。
    文学者ほどうまく言葉を扱えないにしても、日常的に使うものだ。だからこそその言葉をつなぐものにするために、学び続けることが必要なのだと感じた。
    ロシア文学を読んだことがないので、これを機に少しずつ触れてみたい。
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    投稿日:2024.03.30

  • すずのき

    すずのき

    全30話あり、どれも読み応えがあるが、特に後半の25〜30が素晴らしかった。
    文学性と論理性が両立した文章でとても良かった。

    投稿日:2024.03.16

  • 転倒

    転倒

    『夕暮れに夜明けの歌を』、本当に素晴らしかった……。
    奈倉さんが文学を通じてモスクワで過ごした人たちとのエピソードの一つ一つから、スープの温かさや金具の冷たさや校舎の外壁に落ちた木漏れ日が揺れる様子、薄暗い階段の傷んだ木材、文学作品への憧れとリスペクト、国全体に膜を張る緊張感まで伝わってくる。
    奈倉さんが過ごした大切な日々の様子を一章また一章と捲るたびに、なんがかわたし自身もその期間を一緒に過ごしたような気分になってくる。そして賢い文学生になった気になった頃、最後の一文にグッと胸を掴まれる。それは恋に落ちる様子であり、同時にお前は奈倉さんではないぞという忠告でもある(なんておこがましい!)。
    学びによって裏付けされた圧倒的な文才とそこに振り掛けられたユーモアのセンス!奈倉さんの作品を初めて拝読したがすっかりメロメロになってしまった。
    エピソードたちが少しずつ現在に近づいていき、未来に向かって纏まっていく様子はあまりにも美しく、エッセイにも関わらずまるで一冊の長編小説を読んでいるようだった。
    この本を読了した今、『ウルフウォーカー』を思い出すのはなぜだろう。作品の後半で、アントーノフ先生から「学ぶ」という概念を学び、そこから蔓を伸ばした「学びがずっと続けばいい」という願いすらそこに帰還しねじれた輪となり完結する、という円環のお話をされていたからだろうか。

    大切な内緒話を聞かせていただけて嬉しかった。学びを追求する奈倉さんの、生まれ直す感覚というものを味わってみたい。


    印象に残ったシーン…『灰色のミツバチ』の章。
    グレーの人々が存在することで白黒つけなければ気がすまない人たちによる争いを招くことがあるというところ。だが、白か黒かではなく、ただそこにある何種類ものグレーに目を向けなければ争いは止まない。
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    投稿日:2024.03.01

  • ライグラス

    ライグラス

    ロシア、という言葉の先入観から、大国らしい描写もあるのかと思いきや、等身大の感覚で読み進めることができました。肩肘はらず、またリラックスしすぎず。学生時代の話は、想像を沸き立たせる描写がとても新鮮でした。むしろ、今の社会情勢から振り返ると、周囲の人たちとのエピソードが優しくて泣けるような感覚も。私はあまり表現が得意な方ではないですが、多くの文化や人の感性に触れてその感じ方や対処を学ばれたのだな、と感じました。だから紛争中の今が悲しくなります。
    素敵な人たちが描かれています。おそらくこの本を通じてしか出会えないです。他の人が描いても異なる描写になるでしょう。
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    投稿日:2023.12.24

  • ぐーたら主婦

    ぐーたら主婦

    星2.5
    紫式部賞

    筆者の名倉有里は「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬の姉ということもあり、読み始める。

    私には難しいところが多かった。特に文学論についてのくだりなど。他の方のようには理解できず、少々焦る。星2.5というのも、私が理解できなかったという意味。

    それにしても、ロシア人以上にロシア文学を愛し、勉学に励む筆者には脱帽してしまう。母国語でもないのに、ロシア人学生よりも熱心に学問に取り組む姿勢は驚嘆の一語。

    また、この本で書かれているウクライナ情勢は2014年時のこと。今のロシアのウクライナ侵攻を筆者はどう感じているのだろうか?
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    投稿日:2023.12.23

  • しほ

    しほ

    "文字が記号のままでなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。"
    この一文がすごく沁みてくる本。
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    投稿日:2023.11.26

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