【感想】有栖川有栖選 必読! Selection5 他殺岬

笹沢左保 / 徳間文庫 トクマの特選!
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ao-neko

    ao-neko

    自分の書いた記事によりある父娘を自殺に追いやってしまった天知。彼の息子が自殺した娘の夫に誘拐された。ただ復讐のための誘拐であり、犯人との交渉の余地はないと思える中、天知はもし娘の死が自殺でなく他殺であったのなら復讐の意味がなくなると考え、事件の捜査に奔走する。迫るタイムリミットの中、彼は真相にたどり着き息子を取り戻すことができるのか。サスペンス感溢れるミステリです。
    なにその斜め上の発想! と感嘆してしまいました。自殺として何の違和感もない事件を、まさかそんな理由から他殺として捜査しようとは。そしてきっと他殺ということになるのだろうな、とは思ったものの。調査が進むほどに自殺の印象が強められるし、手掛かりのなさにも呆然。いやこれ絶対に無理でしょ。絶望的な徒労しか見えないのでは。
    ところが。もちろんそのままではないのですねえ。あれよあれよという間に思いがけない展開に。序盤から描かれていた別のある事件も当然関係はあるのだろうと思っていましたが。そう繋がるのか! そして誘拐に隠された真の意味にも驚愕でした。
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    投稿日:2023.01.08

  • やまだん

    やまだん

    このレビューはネタバレを含みます

     ルポライターの天知昌二郎の息子、春彦が誘拐される。誘拐したのは、天知の記事がきっかけで自殺をした環ユキヨの夫、環日出夫。ユキヨの自殺の原因が、天知の記事だとして、その復讐のために誘拐をしたという。そのため、通常の誘拐と異なり、身代金等要求しない。120時間=5日間、天知を苦しめ、その後に殺害することが目的
     環ユキヨが、天知の記事が原因で自殺したのではなく、誰かに殺されたのであれば、日出夫には復讐の動機がなくなる。そもそも、天知は、ユキヨが自殺したことに違和感があった。かくして、120時間で、環ユキヨが他殺されたこと、その真犯人を探すための捜査を始める。
     天地は、①自殺として処理されたものが他殺だったことを立証する、②その犯人を特定する、③犯人が偽装したアリバイを崩す、という3つの課題をクリアする必要がある。タイムリミットがある捜査。全5章の章立ては、残り120時間34分→残り91時間30分→残り57時間0分→残り35時間4分→残り2時間10分となっており、サスペンス感満点の盛り上がりを見せる。
     犯人になり得る条件として、①断崖の上で会っても警戒されない人物、②手紙を遺書と利用するため、ユキヨのバッグに入れることができる、③ユキヨの行動を熟知している、という3つの条件から、枝川秀明、鶴見麗子、十文字敏也の3人をピックアップする。しかし、枝川と鶴見の二人にはそうそうにアリバイが成立。この作品は、基本的には十文字敏也を容疑者とし、十文字が犯人であることを立証するための捜査という展開を見せる。
     他殺岬という作品にある最大の意外性は、天知の住むマンションの大家でもある宝田真知子の存在。28歳で独身。再生不良性貧血という病気で、結婚を諦め、好きな人がいるとして、ボランティアで春彦の世話をし、捜査にも協力をしている女性。この真知子が好意を寄せている男性が、天知であると見せかけて…実際は、黒幕である十文字を愛しており、この犯罪の実行犯的存在であるという展開。この点は大きな意外性となっている。
     冒頭で、春彦が通う保育園で、保母さんが変死するという事件が描かれているが、この事件も関わってくる。それどころか、この保育園が廃園になれば、「桜トップス」という企業の建設用地が確保される。十文字は、この桜トップスのディベロッパーであり、大きな利益を有する。
     この保母である花形アキ子は、偶然、春彦の誘拐犯である環日出夫と宝田真知子が一緒にいる姿を見ていた。この目撃者を消さないと、誘拐時に疑われるのは必至。そのため、宝田真知子が、花形アキ子を殺害する。
     こういうご都合主義的な偶然があるのが、笹沢佐保のミステリの特徴でもあり、欠点のようにも思う。物語に意外性を付与し、面白い筋書きにするためには仕方ないといえるか。
     整理すると、この物語には、環日出夫という自殺した環ユキヨの夫が、自身の借金等を理由として、自殺に見せかけてユキヨを殺したことから始まる。
     ユキヨは自殺として処理されており、一見、完全犯罪に思えたが、この自殺が不自然だと見抜いた十文字が、他殺であると気付き、環日出夫に天知の息子、春彦を誘拐させる。その目的は、最終的に、春彦の通う保育園を廃園に追い込むということ。この誘拐に、普段は春彦の世話をしている天知に近しい人物である宝田真知子が協力する。
     日出夫と真知子が一緒にいる場面を目撃した、保育園の保母も殺害。誘拐、殺人事件等が続き、園長は保育園を続けることを諦める。十文字は目的を達する。
     天地は真相には気付くが、宝田真知子は、全ての罪をかぶり、十文字は関係ないという。そういったやるせない終わり方を見せる。
     誘拐の動機がしっくりこない部分はある。この作品の中では、保育園は廃園に向かうので、目的を達成しているが、目的達成のための手段といては不確か過ぎる。やや動機が不自然。あとは、花形アキ子殺害の動機となる日出夫と真知子が一緒にいる場面をアキ子が目撃したという偶然。この偶然も、物語の重要な部分でもあり、偶然で片付けるのはやや苦しい。このアキ子殺しがなければ、保育園が廃園にはつながらなかったようにも感じる。
     とはいえ、自殺をしたユキヨの復讐をしていたと思われた日出夫こそがユキヨ殺しの犯人だったという意外性。自ら、ユキヨが自殺として処理されているのに、疑惑の目を抱かせるような誘拐をするという展開は面白いプロットである。あとは、宝田真知子の存在。天知のために捜査に協力するヒロインと見せかけ、共犯者。しかも黒幕の罪を被ろうとするほどの忠誠心を見せる実行犯。愛する十文字のために、花形アキ子の殺害までしていたというのは意外性が高い。
     トータルで見て、サスペンスと意外性が高い、誘拐モノの傑作といっていいデキ。★4で。

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    投稿日:2022.12.24

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