【感想】亡国のハントレス

ケイト・クイン, 加藤洋子 / ハーパーコリンズ・ジャパン
(9件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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ブクログレビュー

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  • kai0419

    kai0419

    このレビューはネタバレを含みます

    めちゃくちゃ良かった。

    ところで第二次大戦を舞台にした女性同性愛者の物語を2冊続けて読むことになったんだけど、偶然?今の流行?2冊とも想定していなかったからびっくりした。いい意味で。同性愛者の方は嬉しかったと思う。恋愛の一つとして、普通に描かれるのは素晴らしい。これまではなかったことにされてきたわけだから。

    視点がコロコロ変わる。そこがいい。

    ハントレスが誰かはすぐにわかる。隠しきれないものがある、という描写なのだろう。

    イアンたちがナチ戦犯を見つけると、みんな怯え、命令されただけ、知らなかった…と言う。本気なのだろう。そう自分で信じ込んでいるのだろう。
    イアンが言っている通り、戦争で起きたことは明確にしておかないと、また繰り返す。

    ニーナの恋人が生きていたのはびっくり。てっきりハントレスに殺されたのかと。それで復讐したかったのかと。

    ニーナが女性兵士たちに迎えられる場面、友情のシーン、すごく良かった。チーム。

    ニーナとイアンはそのうち離婚するだろうけれど、「同志」として友情が続くのか、くっついたり離れたりを繰り返すのか。ニーナは空を求めて、足を止めないだろう。ニーナについていけるのがイアンだったらいいな。

    ハントレスも時代に翻弄されたのだろうか。平和な時代だったら、彼女の残虐さは目覚めなかったのだろうか。彼女が残虐な殺戮を行ったのは、20代の頃。考えさせられる。

    アンネローゼは自分も被害者だと思ってる。十分に罰を受けていると思ってる。その罰の内容があまりに自分勝手で、こいつ本当にどうかしてる!て思った。
    でも、日本にもいる。昨日、ツイッターで、情報開示を求められた対象の人が、「裁判を起こされると心配で病みそうだからやめてくれ」とか「私が自殺したらどうするつもり?」とか言っているのを見たばかりだったので、ハントレスの論法が本気だと思った。本当に自分が被害者だと思ってる。こういう人たちにどう伝えれば、自分が加害者側だとわかってくれるのだろうか。共感性の問題なのか。

    アンネローゼが子育てできたことも怖い。身を守るためのカモフラージュのため、幼い子供を育て守ることは大変だったはず。ひょっとすると愛情があったのかもしれない。その母親を殺しておきながら。その辺りの矛盾も恐ろしい。

    一箇所、「心を割って話し合おう」と書かれていたシーンがあって、ん?て思った。

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    投稿日:2022.11.16

  • まふゆん

    まふゆん

    第二次世界大戦中に存在した「ザ・ハントレス」を追う英国人イアン。父の再婚相手に不信感を持つ米国人ジョーダン。シベリアバイカル湖で育ったロシア人ニーナ。それぞれの視点で描かれる物語は絡み合い1人の女へと辿り着く。……最高に面白い→

    歴史ミステリー、というにはミステリー弱めやけど、私は読んで良かった!!もう、すごい。ニーナ最強。ジョーダンかっこいいし、イアンとトニーは言わずもがな。各章の引きが凄くて後半一気読み!!分厚さに尻込みせずに是非読んでほしい(750ページ以上あるので、腕は疲れる笑)
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    投稿日:2022.05.30

  • korosk

    korosk

    実に750頁超え、本に手にした時は厚さにビビるが、読み始めたら止まらない。ジョーダン、ニーナ、イアンこの三人の名前の章が順繰りに進んでいくが、キャラクターが立っており、どの章の話も実に面白い。其々の支線が途中から交わって一つになるのもまた、ワクワクさせる。続きを読む

    投稿日:2022.05.30

  • yoko221b

    yoko221b

    第二次大戦中にナチスの手先として数々の暗殺行為を行い「ハントレス(女狩人)」と呼ばれる女性がいた。彼女の行方を追うナチ・ハンター、ソ連空軍で「夜の魔女」と呼ばれた元パイロット、そして父親の再婚相手に疑問を抱くアメリカ人女性。ハントレスを追う三者のストーリーはとても面白かったのですが、そのぶん「ハントレス」本人の印象が薄かったかな。続きを読む

    投稿日:2022.05.03

  • キムチ27

    キムチ27

    コロナ社会になってのここ二年、北欧東欧ソ連ものが大半を占めている。特にナチ発掘の作品。

    「戦場のアリス」でそれまで雑駁にしか認識できていなかった「血の通った戦争ストーリー」を読み、構成の素晴らしさ似た作品にない完成度に驚きを覚えた。続いてのこの作品も厚みは全く感じさせない 素材を撚り併せた結果に来る「造形の妙」を感じる。

    ニーナ~1920から/ジョーダン~1946から/現代(1950)の3本の時間軸
    そしてフィクションながら実在のモデルを筆者の飛翔で造形したキャラクターがせめぎ、生き、涙する。
    ハンター→ハントレス  女性であるため の意すら深く考えていなかっただけに ルースの存在を通した裏側にある彼女の手口に慄いた。

    17歳の真贋の才能がストーリーの発端になって行くのだが それに対するハントレスの裏側の顔が明らかになって行くラスとそれぞれの立場での追及と動きがドラマチック。

    資料に紹介されていた「アイヒマンを追え」の映画が折しもアマプラに有って、見られたのは良かった。ぐっと当作の状況に踏み込んでいく事が出来た。
    初めて耳にしたソ連邦時代の女性パイロットの活躍と裏の世界、ダッハウ裁判~ニュルンベルグ裁判~冷戦の鎮静化を経ての「その後」で再浮上したナチハンターの動きも具体的に知識を貰う事が出来た。
    組織のみならず、個人の動きもあるが、怖いのは欧州各地に権力の中枢となって散って行きつつも表に顔を見せていない事。だからあんた―の存在は常に妨害のみならず、命の危険もありうるという事。

    一段と腕が上がったクインの筆力の次なるものが待たれる。
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    投稿日:2022.04.11

  • シュン

    シュン

     今年の後半は、第一次・第二次世界大戦の時代に展開した作品を、いつになく多く読んだ気がしている。しかも現在を描くものより、むしろ戦争を描く作品に良作が多いようにも思う。P・ルメートル、S・ハンターと続き、このケイト・クインがダメ押しであった。

     ケイト・クインは、前作も『戦場のアリス』で印象的な世界大戦の裏話を繰り広げてくれたが、本書はそれを上回るスケールで描かれている。簡単に言うといわゆるナチ・ハンターものである。実在のナチ・ハンターに材を取り、そこから派生した作者造形による三人の主人公の三種の異なる時代の物語が、章毎に綴られる。一瞬、躊躇われるほど分厚い、重量級の国際ミステリー。大丈夫。作品は読者の努力にしっかり応えてくれるから。

     惜しむらくは、ベストミステリーの締切にぎりぎり過ぎて、宣伝広告的には不遇をかこってしまったのではないだろうか。ぼく自身、この作品に一票を投じることができなかった悔しさに後から歯噛みする想いなのだ。

     ハンターは狩人。しかし女性名詞のハントレスとなると、日本では少し馴染みが薄い。ましてや本書でのハントレスは、戦後現在にまで及ぶというナチ・ハンターの側ではなく、戦時中ポーランドで子どもたちを殺すという残忍な行為を行ったナチ側の女殺人者を指している。

     本書の主人公の一人である英国人ナチハンター・イアン・グレアムは、相棒のアントン・ロドモフスキーとともに、一般社会に紛れ込んでのうのうと生きているハントレスに弟を殺されたことから、彼女への復讐に執念を燃やしている。

     最初は、関係がわかりにくい三つの物語で、三人の主人公がそれぞれの異なる時代を生きてゆく。女流写真家としての独立を夢見るジョーダン・マクブライドは、父と再婚したアンネリーゼとの間にある種の緊張が生まれる中、ナチハンターと知らずイアンやアントンと出会い、そして義母との愛憎や緊張を高めてゆく。物語の主人くというより、最も謎めいた揺らぎを与える役割と言うべきだろうか。

     一方で、父の暴力から逃れ、夜間攻撃のパイロットとして成長したニーナ・ボリソヴナ・マルコワという少女の存在が、本書では何よりも際立つ。このキャラクターの個性的、かつワイルドで強靭な性質が、本書に強い緊張をもたらし、何よりもバイタリティを与えてくれる。

     三人の主人公たちの物語は、時代を異としつつ展開するのだが、最後には一つの時間に収束してゆく。異なる磁極が出くわすときにはじける火花の如きクライマックスは、激しい緊張と暴力を誘発する。本書自体は並々ならぬ大作でありながら、常に張りつめた緊張感によってページを繰る手が止まらない優れもののエンターテインメント小説であると言えよう。

     人物の配置、構成、マルチな関係が、徐々に一点に収束して、最後に溜め込んだエネルギーの爆発を喚起するラストに至る。そのストーリーテリングは、『戦場のアリス』のスケールをさらに上回る出色の作品と言えよう。

     キャラクターたちの個性はいずれも素晴らしいし、読後胸に残るのは、何といってもニーナの成長の物語だ。夜間女子飛行隊の面々、個性、英雄的女性パイロットの存在感などなど、やはりニーナの章に窺われるのが過酷な戦場世界の地獄絵図であるからこそ、そこを生き抜く彼女の生命力は本書最強の魅力である。この作品によって、作家は稀に見るヒロイン像を作り出したと思う。ニーナに逢うためだけでも十分に読むべき価値のある一作と言うべきであろう。
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    投稿日:2021.12.31

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