【感想】中小企業の人材開発

中原淳, 保田江美 / 東京大学出版会
(2件のレビュー)

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    Go Extreme

    第1章 中小企業の人材開発
    人材開発研究の普及:社会的背景と研究動向
    職場における人材開発にアプローチする3つの学習理論:経験・職場・越境
    中小企業を対象にした人材開発の先行研究
    調査および分析に用いるデータの詳細
    第2章 中小企業の実態:組織と人の側面から
    調査企業の実態
    経営者の実態
    管理職の実態
    一般従業員
    第3章 中小企業における人材開発施策
    人材開発施策の概要
    人材開発施策の公式化:企業規模による影響
    企業規模と人材開発制度の利用率との関連
    人材開発施策の公式化・整備と企業パフォーマンスおよび従業員の成長との関連
    第4章 一般従業員の現場における学習
    現場での学習への接近:そのための理論的考察
    分析に用いた尺度
    結果と考察1:職場学習による影響
    結果と考察2:経験学習による影響
    結果と考察3:顧客からの学習による影響
    第5章 管理職の現場における学習
    接近のための理論的考察とリサーチクエスチョンの提示
    分析に用いた変数および尺度
    結果と考察1:研修のあり方の影響
    結果と考察2:挑戦的な業務経験の影響
    結果と考察3:経営者のサポートの影響
    第6章 総合考察
    本研究のまとめ
    実践的示唆
    学術的貢献と今後の研究課題
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    投稿日:2022.01.25

  • upaneguinho

    upaneguinho

     今朝は、なんで3千4百円も出してこれを買ったのか自分でも理由が分からない本を読んでいました。

    『中小企業の人材開発』中原淳・保田江美 著、東京大学出版会

     完全に学術研究書でした。

     だけどもハウツー本という名を借りた自分語りを読まされるより、研究者の論文を読むほうが100倍楽です。構造化された文章はそれだけで愛せる。

     本人は優秀なのに本として全く面白くなかった(役に立たなかった)歴代の時間を返せ書籍達は、南場智子(DeNA会長)『不格好経営』、岩田松雄(元スターバックスコーヒージャパンCEO・・・最近はジャパンを省略して元スタバCEOと誇大広告気味なところも胡散臭い)『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』、荒川詔四(元ブリヂストン社長・・・経営者としてすごく尊敬しているのですが、本は酷かった)『参謀の思考法 トップに信頼されるプロフェッショナルの条件』、伊賀泰代(マッキンゼー上がりのHRコンサルタント)『採用基準』あたりですね。

     話を読んだ本に戻します。

     検証の対象からマネジメントの方法論や組織、企業文化をばっさり削ぎ落としているのでかなり興味深い内容でした。人材開発はあまりにも複合的なプロセスなので散漫になりがちですけど、この研究はよく的を絞りきったと思います。

     私は多変量解析や統計を使った学士・修士論文を書いたことがないので統計手法やモデルの解説は本当に全然わからなかったです。

     大収穫だったのは組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior:他者を支援するような、職務に規定されていないし、職務としても求められていない行動)という概念が経営学に定義されていることでした。

     本書の内容の紹介として6.2 実践的示唆(p177)から引用します。

    ◆一般従業員の育成について
    1)経験学習の概念について本人理解、管理職の理解を進める
    2)中間管理職のマネジメント能力を高めて、職場学習機能を強める
    3)顧客からの学習という概念について本人の理解を進める

    ◆管理職の育成について
    4)管理職の育成は早期に行い、経験学習を促すこと
    5)管理職の育成支援は、経営層が行いサポートすること
    6)管理職の育成を補足するものとして研修が存在するが、研修で学んだ内容は職場メンバーに共有する場を持たせ、実践させること

     しごく常識的な処方箋ですが、これを膨大な研究から導き出しているのが本書の仕事です。

     一般従業員や管理職候補にタフアサイメントして経験を積ませるとうのは冨山和彦や三枝匡、稲田将人も言っていることでしたので納得性が高かったです。ただし、本書ではそこで上司からの業務上のアドバイスに学習効果が低いという悲しい研究結果が報告されています。ではどうすべきかというと上記1)の経験学習とう概念の理解が必要だと。つまり仕事として体系的な「経験学習サイクル(Kolb 1984)」を身に付けさせ、職場環境としてアフォーダンスしなさいと言っている。

     ここでやはり管理職層の体系的なマネジメントスキル不足が課題となってくる。プレイヤーとしてしか経験を積んでおらず、マネジメントの概念をしっかりと学んでいない暗黙知に頼る管理職では部下に対して「経験学習サイクル」を促せないというわけです。

     部下の業務の出来・不出来に対して「俺の頃は」という自分語りしかできない管理職では体系的かつ論理的なフィードバックを部下に与えられないので、「上司のアドバイスは学習効果が低い」という結果になってしまうのです。

     ではネックとなる管理職にどうやって体系的マネジメントを学ばせるかというと、本書では「社外研修」と「研修内容の社内共有」「研修内容の社内実践」に効果があると言っています。要するにある程度の年齢の会社員がとても嫌がる座学の重要性を説いているわけです。しかも経営者が社内共有、社内実践を促さないとせっかくの研修も「こなすだけの消化試合」になっている実態も報告しています。

     面白かったです。若手社員への上司の業務上のアドバイスに学習効果が低い・・・いやー、思い出しただけでも酒が美味くなります。企業の経営幹部、管理職の皆様には稲盛和夫の本を読むよりよっぽど有益な研究書だと思いました。
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    投稿日:2021.07.03

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