【感想】福島モノローグ

いとうせいこう / 河出書房新社
(11件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • Masahiro Sera

    Masahiro Sera

    いとうせいこうさんが福島で聞き取ったお話を本にしたもの。
    一人称はそれを語った人で、いとうさんは「おわりに」でしか出てこない。それ故、その方から直接語りかけられている気持ちになる。
    喜びがあり、悲しみがあり、今の日常生活そのものなのだが、明らかに2011年3月11日の震災と原発の爆発により、不連続な線となったことは明らかだ。
    本当の意味で、心が寄り添えることが出来る人になりたいと感じさせられた。

    WITH COW
    農場を営む人の、手塩にかけて我が子のように育て上げている牛に対する眼差しと、汚染され取り残されたそれらの牛の末路に嘆く姿を表す。
    犠牲者は人間だけではないことを学ぶ。

    THE MOTHERS
    働き手となるお父さんと離れ、母と子の避難生活を余儀なくされる。経済面だけでなく、健康面なども考えなくてはならない。

    RADIO ACTIVITY
    富岡町社協の吉田恵子さんによるラジオDJ活動の話。
    悲しみに包まれる雰囲気には、こういう人が必要だ。
    人は気持ちの持ちようで、変わることが出来る。
    言葉の力を感じさせてくれた。

    a flower
    須藤文音さんは、津波で父親を亡くした経験を通じて文筆家としての一歩を踏み出そうとしている。

    銭湯から出て、下足箱から出した自分の靴の中には、何故か白い花が。やがてお父さんが見つかり、自宅で対面したその装束の胸元には、同じ花が添えられていた。
    震災では不思議な体験をされている方が、大勢いらっしゃると聞く。道理では説明出来ない何かがあることを感じさられる。

    A LIFE OF LADY
    福島川内村、昭和17年生まれのおばあさんの話。
    その頃にして所謂モダンで先見の明があったことに驚く。
    原発事故による汚染でも、被害者意識だけで片付けないところが凄い。

    a farmer
    浪江町に引っ越して農業を始めた女子体育大学出身の女性の話。
    震災が彼女を駆り立てたのか、もともと持っていたのか、意識を高く持つ人は素晴らしい。

    The LAST PLASE
    96歳の高原タケ子さんが生活を語る。
    震災にあって、きっと大変だったと思うが、今までの苦労を重ねた人生に取っては、ただの1ページのごとく淡々と話をされていく。新聞にも短歌を多く投稿し、掲載されているという才女でもある。
    こんなおばあさん素敵だな。

    a dancer
    鬱を克服し、時には文化庁にも押し掛け活動の援助を申し出るほど前進し続けておられる日本舞踊の女性先生のお話。
    活動の中には、子どもたちを連れて県外遠征もされることもある。
    福島というだけで、避けられていた子どもたちを招いてくれた岡山では、子どもたちが多いに満喫することが出来、帰りの新幹線では皆大泣き。
    きっとこの子たちは、真っ直ぐに育つのだろうなと感じた。
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    投稿日:2022.11.29

  • kikko999

    kikko999

    いとうせいこう氏が聞き書きした被災者の証言の数々。様々な立場や年齢層の人たち(すべて女性)の地元への思いが詰まった一冊で、それぞれ人柄が滲み出るような淡々とした語りが印象的。被災牛による農地再生など、恥ずかしながら今になって初めて知る活動や事実も。災害復興住宅を終の棲家にしようとしているおばあちゃんの短歌が心に染みた。続きを読む

    投稿日:2022.03.08

  • ハチハム

    ハチハム

    このレビューはネタバレを含みます

    『想像ラジオ』で「語りすぎた」作者が、聞き手として福島の人の話を聴いて。

    いとうせいこうさんが東日本大震災後の福島を訪れ、その地で生きる人々に話を聴き、まとめた本。

    いとうさんは話の聞き手であるが、本の中では一切存在を消している。例えば、どのような質問をしたのか、相槌をしたのかなど、あとがきを除けばいとうさんの言葉は一切載っていない。
    そのためだろうか、話し手の話はいとうさんに語られているはずなのに、読者にダイレクトに語りかけくるようである。話を読んでいるのに「聴いている」とは変な話だけれど、話し手が紡いでいく話は、インタビューとして読むよりも身に迫るように私に近づいてきた。

    また、本書の特徴として、話し手の情報は事前に載せられていない。例えば、年齢や性別、職業など。語られていく話の中の情報から「ああ、この人は農家なんだ」とか「女性なんだ」と知っていくことになる。
    そうするとなぜなのか、薄ぼんやりとした影のような姿をしていた語り手が、話を「聴いていく」につれて徐々に輪郭ができ、人間の形になっていくように感じた。そして見えるはずもない表情や佇まい、顔に刻まれた皺までも想像していた。これは不思議な体験だった。

    あとがきに書いているが、いとうさんは精神科医で彼の主治医の星野概念さんに診療をしてもらっている中で、「傾聴」とは何かを体験的に学び、それが福島の人の話を聴くことにもつながったとある。(2人のやり取りは『ラブという薬』『自由というサプリ』という本にまとめられている)
    私自身、2018年11月に青山ブックセンター本店で行われた『ラブという薬』のトークイベントに観客として参加していた。
    その場でいとうさんが「今、福島に行って、寄り合いに参加して福島の人の話を聴いている。東日本大震災で福島にいた人。震災後も福島に住んでいる人。震災後、県外に避難したけれど、再び福島に戻ってきた人の話を。」ということをおっしゃていた。
    その時にお話されていた活動が、こうして一冊の本としてまとまっていることに感動している。

    『想像ラジオ』を書き、「語りすぎていた」といとうさんはおっしゃっている。そして、今はその分聞き手をしているのだと。
    傾聴を重ねる外の存在であるいとうさんだから聞こえる話があると思う。そんな話をまとめた本をまた読みたい。


    以下、備忘録として話し手の情報の記載。※未読の人は、前情報がない状態で読むことをオススメします。




    WITH COWS
    女性。福島の大熊で、牛の牧場を営む農家。福島の地で牛を育てる可能性を調査をしながら探す方。

    THE MOTHERS
    3人のお母さん。それぞれ子どもがいる。福島で震災を体験し、県外に避難し、再び福島に戻ってきた。

    RADIO ACTIVITY
    女性。富岡市民の避難先、郡山市の「ビックパレット」で富岡市民向けのコミュニティFMを開設し、ラジオパーソナリティも務めた方。

    a flower
    女性。宮城の気仙沼出身の介護福祉士。震災で父親を亡くした。そのときの話を『白い花弁』として「みちのく会談コンテスト」に投稿。最優秀賞を受賞。

    A LIFE OF A LADY
    老いた女性。福島の川内村出身。川内村で自動車会社の社長になり、その後『蕎麦の里づくり』に関わったり、村会議員になったりしている人。若いときから今に至るまでバリバリのビジネスウーマン。

    a farmer
    女性。福島の浪江町で有機農業を営む農家。

    THE LAST PLACE
    老いた女性。福島の浪江町出身。仮設を転々と移り住む。

    a dancer
    60代半ばの女性。日本舞踊を子どもたちに教える。震災後に日本舞踊のイベントを開催するために文化庁を巻き込もうと奔走したり、被災地支援の「おかやまバトン」を利用したり、それを真似た「ふくしまバトン」を子どもたちと行ったりした。

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    投稿日:2022.01.29

  • 人、本、旅、あまのっち

    人、本、旅、あまのっち

    「福島」とか「避難民」とか「犠牲者」とか、記号てひとくくりにすることの恐ろしさ。

    人は皆、生きている。
    一人一人の人生を。

    記号でラベリングして、分かった気になるのは
    やめよう。

    知らないことを知らないと認めることから始めなければ、「知ろう」とする気持ちが生まれない。

    「知ろう」とすることは、ただ、あなたの話をそっくりそのまま聴くことだ。自分の中に器をつくって、そこにそっくりそのまま受け入れることだ。

    知った気になるな。
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    投稿日:2021.07.02

  • shinjif

    shinjif

    「想像ラジオ」で東日本大震災で亡くなった人たちを想像して語り部となったいとうせいこう氏が、今度は震災で被災した人たち、被災した人たちの支えとなろうとした人たち、そういう人たち、特に女性にインタビューをして聞き書きをしたノンフィクション。
    傾聴がいかに自分の硬直をほぐしてくれるかを知っていたから、聞くことに徹した結果、それは語ってくれた人たちのモノローグという形になったという。
    ここで語られる様々な人たちの震災後を読んで、「力強い」、「力をもらった」というのは安易な感想だろう。
    一人一人が震災と震災後の世界に向き合って、逃避することもなく、かと言って過度に逆らうのでもなく、ある意味淡々と、着実に一日一日を過ごしているという事がわかると、一体その一日は我々の一日と違わないのではないかと錯覚する。つまり、震災で大きな影響を残さなかった福島以外の我々と同じところまできたのだろうかと。
    しかし、それは違うと思う。
    作品の中で父親を亡くした女性が語る中で、震災後数日経って駅の近くなどを歩いていると、みんな普通の感じだったりして、本当は地震なんて夢だったんじゃないだろうか、父が亡くなったというのも夢だったんじゃないだろうかと錯覚するという話があった。
    それはつまりとてつもない喪失感、地震で大切な人を失ったという感情さえも見失ってしまう程の大きな喪失を抱えているということなんじゃないかと。
    震災から立ち直ったというかもしれないが、震災という記憶自体を消したいが故に喪失している結果があの淡々とした語り口ではないかと。

    いとうせいこう氏はまだまだ聞き書きを続けていくという。いとうせいこう氏によってさらに残されるモノローグに期待したい。
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    投稿日:2021.06.09

  • 習メ展示

    習メ展示

    5月26日新着図書:【著者が、2011年の東日本大震災の被害を受けた福島県の人たちから聞いた話だけが活字になっている本です。『想像ラジオ』と一緒に本書を読んで見ましょう。】
    タイトル:福島モノローグ
    請求記号:539:It
    URL:https://mylibrary.toho-u.ac.jp/webopac/BB28182703
    続きを読む

    投稿日:2021.05.26

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