【感想】新編 真ク・リトル・リトル神話大系4

H・P・ラヴクラフト / 国書刊行会
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  • Smith, Ordinary. Person.

    Smith, Ordinary. Person.

     クトゥルフ神話の啓蒙に努めたダーレスに才能を見出された作家の一人がラムジー・キャンベルです。ダーレスの指導により、彼は生まれ育ったイギリスに、ラヴクラフトのように架空の都市を作り上げ、そこを舞台に様々なクトゥルフ神話作品を創作しました。
     4集はキャンベルのクトゥルフ神話代表作品である『妖虫』やラヴクラフトが遺した創作メモを元にダーレスが創作した『ポーの末裔』など10編を収録。

     以下、ちょっとだけネタバレありの各話感想。
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    『月に跳ぶ人』(ローンズ/1942)
     失踪したグレイスンの遺言から、彼の手記を受け取ることになったわたし(ローンズ)。手記に書かれていたのは、月の引力に引かれて行方不明になったとしか思えない人々の存在と、その陰にある"かれら"の存在と陰謀についてだった――。
    (とある失踪事件の裏に隠された、旧支配者同士の暗闘と陰謀をモキュメンタリー風に描写したメタフィクショナルな短編。結末から一方の存在については見当がつくだろうが、はたしてもう一方の正体は――。)

    『深淵の王者』(トムスン/1946)
     都会の激務に疲れた脳外科医のわたしは、海辺の村にある別荘を借りる。ある嵐の晩、別荘を訪れたカッサンドラの求めに応じ、わたしは彼女の父を診察するが、それをきっかけにわたしは彼女と交際し結婚する。しかし、日を追うごとに彼女に変化が生じ、わたしは不安を募らせていく――。
    (文体から磯臭さとゴシックホラーの雰囲気が漂う異種交流譚。ダーレスがラヴクラフトの模倣だと抗議したとされる作品だが、どちらかと言うとラヴクラフトの創作の師であるポーやマッケン寄りの印象がある。)

    『爬虫類館の相続人』(ラヴクラフト&ダーレス/1954)
     古物収集家のわたしは、プロヴィデンスにある古い館を一目見て気に入り入居を決める。興味本位でかつての館の持ち主の経歴を調べると、どうやら不老長寿の研究に熱心に取り組んでいたようで――。
    (プロヴィデンスを舞台にした狂科学者もの。研究の一環でクトゥルーや深きものなどの調査をしたと思われる描写はあるが、神話色は薄い。)

    『開かずの部屋』(ラヴクラフト&ダーレス/1959)
     祖父の遺言を果たしに、生前に祖父が住んでいた家を訪れたアブナー。そこにはかつて伯母が軟禁されていた部屋があった。祖父はなぜ自分の娘を恐れ、軟禁したのか。アブナーがその扉を開けたことで再び起き出した、祖父が恐れていた事態とは――。
    (『ダニッチの怪』と『インスマスの影』をかけ合わせたような、ハイブリッドかつ神話作品としては王道のホラー。主人公がウェイトリー家の血縁者という設定にすることで、両作品の後日談的な仕上がりにもなっている。それにしても、ラヴクラフト&ダーレスものはダニッチを舞台にした作品が多い。)

    『第七の呪文』(ブレナン/1963)
     亡くなった叔父の遺品から魔導書を見つけたエミットは、自身の欲望を満たすために悪霊を召喚しようと画策する。首尾良く準備を整え、第七の呪文を唱えて悪霊を召喚したエミットだったが――。
    (傲慢な主人公が詰めの甘さゆえに自滅する典型的因果応報譚。同名の旧支配者と外見が異なるが、一定の手続きを経て召喚するとこの姿で現れると考えてもいいだろう。)

    『妖虫』(キャンベル/1964)
     私は酔った勢いから、妖しい伝承が噂されるゴーツウッドの森の探索をすることになってしまう。そこで木に似た怪物に追われた私は、金属の円錐体が聳え立つ空き地に辿り着く。はたして、その円錐体から現れたのは――。
    (キャンベル版『闇に囁くもの』といった趣のSFホラー。これを読むと、時々起きる正気を疑うような事件の遠因はこいつらではないか、とつい思ってしまうかもしれない。)

    『異次元通信機』(キャンベル/1964)
     道に迷った先で、音源が見当たらないにも関わらず、様々な音が奏でられる平原にたどり着いた大学生たち。視界の先にあった小屋を探索すると、住人のものらしき日記と大型のテレビのような機械を発見する。はたして、ここで何が行われていたのか――。
    (奇妙な通信機を通して行われる、悍ましい異界との接触を描いた作品。前半に感じられる不気味ながらも幻想的な美しさが、後半の悍ましい現実をより際立たせる。)

    『暗黒星の陥穽』(キャンベル/1964)
     オカルティストのテイラーは不老不死を求めて資料を漁り、とある異星にある金属が必要なことと、その異星に行く扉が近くにあることを知る。はたして、その扉をくぐった先にあったのは――。
    (傲慢な若者が目的のために異星まで冒険をするSFホラー。傲慢さ故にわざわざ深淵まで赴き、わざわざ深淵を覗くまでの過程はいっそ清々しいまである。)

    『ポーの末裔』(ラヴクラフト&ダーレス/1966)
     川のほとりにある廃屋が不審火によって消失する。当事者を主張する若者が警察に送った手記に書かれた、事件の顛末とは――。
    (フィニイの『盗まれた街』を彷彿とさせるSFホラー。真相が明らかにならないまま結末を迎える展開は、神話らしさを狙ってのものかもしれない。異星人の造形が某種族との類似を伺わせるが、同じ作者の『異次元の影』を読めば得心するはずだ。)

    『魔界へのかけ橋』(ラヴクラフト&ダーレス/1967)
     二十年前に失踪した大叔父の家に移り住むことになったわたし。地元の雑貨店でその旨と自身が大叔父の身内であることを店主に伝えると、彼はあからさまに嫌悪感を示す。家の掃除と整理の最中に謎の地下空間を発見したことを契機に、大叔父の失踪の謎を探り始めたわたしは、川の側に石造りの橋の残骸を発見する。その橋桁の一本には奇妙な五芒星形の印が刻み込まれていて――。
    (ダニッチを舞台にした妖術師もの。『ダニッチの怪』との繋がりを感じさせる内容だが、神話色は薄い。)
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    投稿日:2023.08.22

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