【感想】言葉を離れる

横尾忠則 / 講談社文庫
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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ブクログレビュー

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  • afro108

    afro108

    このレビューはネタバレを含みます

     Riverside Reading Clubが「SOME RAPs, SOME BOOKs ラッパーと本に関するいくつかの話」というテーマで代官山蔦屋書店でブックフェアを開催しており先日行ってきた。そこでISSUGIがレコメンドする1冊として紹介されていたので読んだ。彼がこんなふうに具体的なインプットを提示する場面をほとんど見たことないので楽しみにしていたのだけど、現場主義のBボーイマインド溢れるさすがの選書だと読んで感じた。
     著者である横尾忠則は日本のアート界の第一人者であり、そんな彼がどのようなキャリアを歩んできたか、読書と本について交えながら語る内容となっている。タイトルどおりひたすら「本を読んでいない」「本を読むのが苦手だ」という話が繰り返され、その代わりに大切にしているのは自分のアウトプットだったり、行動した結果手に入れたものであると繰り返し主張している。彼の周辺人物である寺山修司の「書を捨てよ、町へ出よう」と主張としては近い。確かに読書でわかった気になっても実際には見てみないと分からないところも多いと思う。またコロナも明けようとしている今、現場の重要性や価値は以前よりも高まっていると読んでいて感じた。そしてこれはBボーイイズムでもあると思う。
     偉大な芸術家として順風満帆かと思っていたが、実際には多くの葛藤を経ていることを知れた。特にデザイナーから画家へのキャリアチェンジに関して相当苦労していた模様。周囲は彼のスタイルを絵画になっても評価していた。しかし、デザインと絵画の違いが彼自身には重くのしかかり深みにハマる中、彼にとっては「描く」ことしか解決する方法はなかった。つまり本の中に答えはないjust do it的な考え方。これには同意するが、そのjust do itに至る補助線としての本や読書を否定する必要はないと思う。実際本著はクリエイティビティに関する金言がたくさん収録されており、何か作っている人にとって悩んだりするときに支えになると思う。刺さったラインを引用しておく。アート系の本は読むとクリエイティビティが刺激されるので積極的に読んでいきたい。

    時代が未来を展望する時、ぼくは本能的に過去に遡りたくなるのです。というのはぼくにとっての未来は過去に存在するからです。

    何を描いているかじゃなくて、いかに描くか。何を描くかは昔で、いかに描くかは今日的で、でもでそれもダメで、いかに生きるかだと思うんですよ。

    役に立つことを一生懸命、これをやることで社会に還元するとかいうことは人生じゃなくて、実に役に立たないことを一生懸命やるということが人生なのかなということです。

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    投稿日:2023.02.14

  • 青木悠

    青木悠

    横尾忠則さんの半自伝のようなエッセイ集で、考え方や死生観に物の見方までが分かる。受動的でありながら縁と運にも恵まれて躍進していく姿が痛快。絵を描くことに主題や思索、感性まで無くそうとしているという話が興味深かった。いい加減に生きてきたと説明しているが、考えることがやめられず大真面目に遊んできたように思えた。続きを読む

    投稿日:2023.01.25

  • ざどだぞ

    ざどだぞ

    かの画家の、雑誌に連載された読書について、というよりむしろ半生についてのエッセイ

    運命に従い、全て肯定する様な生きた方
    その道程や交友関係や作品は凄まじいけど

    投稿日:2022.10.29

  • 115

    115

    横尾忠則、交友関係がアツ過ぎる…。練りに練られた文章って感じじゃないのが内容と照らし合わせて考えた時すごくいいなとおもった。

    投稿日:2022.09.26

  • コナン.O.

    コナン.O.

    横尾忠則(1936年~)氏は、著名なグラフィックデザイナー、版画家、画家、作家。ニューヨーク近代美術館(MoMA)で現存のデザイナーで初めての個展開催、パリはじめ世界各地のビエンナーレでの受賞、ベルギー国立20世紀バレエ団のミラノスカラ座公演での舞台美術担当など海外でも活躍し、毎日芸術賞、紫綬褒章、紺綬褒章、旭日小綬章、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞等を受賞・受章。また、初の小説集『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞(2008年)、本エッセイ集で講談社エッセイ賞を受賞(2016年)。
    本書は、月刊誌「ユリイカ」に「夢遊する読書」と題して2011~14年に連載(途中2年ほど連載休止)されたエッセイ18篇と、語り下ろしの1篇をまとめて2015年に出版され、2020年に文庫化されたもの。
    内容は、連載のタイトルの通り、横尾氏の読書との関わりが通底するテーマとはなっているが、むしろ、横尾氏の半生を振り返った自伝的エッセイ集として読めるものである。
    私は、ノンフィクションやエッセイが好きで、各種のノンフィクション賞、エッセイ賞を受賞した作品を多数読んできており、本書も、その流れで手に取ったもので、横尾氏のグラフィックデザイナー・画家としての実績等については、不覚にもほとんど知らなかったし、普通の会社員である私にとって、芸術家の世界・生活というのは最も想像し難いものの一つであったが、本書を読んで、ある意味驚きの連続であった。
    特に、(若い頃の)「来るもの拒まず」という著者の姿勢がもたらした、幅広い分野での活躍と、様々な著名人との交流(登場するのは、三島由紀夫、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ、寺山修司、モーリス・ペジャール、ジャンニ・ヴェルサーチ、黒澤明ら限りがない)、そして、それらから派生した数々のエピソードは凄まじい。
    また、美術(芸術)に興味のある、或いはその道を志す人にとっては、横尾氏のキャリアや考え方は一つの参考になるものなのであろう。横尾氏のいう芸術とは、ひと言で言うなら「極めて肉体的なものであり、言葉で表せないもの」ということになろうか。
    更に、もう一つの読みどころは、自己肯定感の強い横尾氏が、70代後半になって、話したり聞いたりすることに不自由を感じるようになり(連載の17篇までと18篇の間が2年空いたのはそのため)、自らの老化・死を否応なく意識するようになって綴った、最後段の生死観の部分であろう。結論的な見解が述べられているわけではないが、波乱万丈の人生を送ってきた芸術家が、どのような思考プロセスを辿るのかは興味深い。
    世界的なグラフィックデザイナー・画家が半生を振り返った、興味深い自伝的エッセイ集である。
    (2022年9月了)
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    投稿日:2022.09.06

  • shiho-k

    shiho-k

    画家の横尾忠則によるエッセイ。
    まず、最初に彼があまり読書をしないということに驚いた。自身の哲学を持っているように思ったからだ。
    感覚的な芸術家ゆえか、言葉を信用していないところがあり、言葉にすることですべてが嘘になってしまうとすら考えている。
    とにかく、言葉に対して否定的な価値観を持っていることがよく分かった。
    コピーなんていうのは嘘八百だと一刀両断している。
    確かにコピーというのは往々にして商業的な宣伝である。
    けれど、クリエイターを否定する彼の考えには賛成できない。
    彼の考える芸術やアートとは対極にあるものであったとしても、同じクリエイターに対する敬意というものがないと感じた。
    また、私は読書することはとても大切なことだと思っている。
    本を読むことで様々な価値観を得たり、自身で体験するのが難しいことなどを追体験できたり、人間性を高めたりするのにとても重要な行為だと思うからである。
    彼のような天賦の才を与えられた人には、言葉はあまり近くにない方がいいのかもしれないけれど。
    とはいえ、芸術鑑賞や自然の中にいるときには、「言葉を離れる」ことはとても大切だと思う。
    全体的には、やはり感覚だけでなく、哲学的な思考を持った人だと思った。
    フレーズに書き留めた箇所は、そういった彼の考えがよく表れていると思う。
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    投稿日:2022.04.08

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