【感想】戦始末

矢野隆 / 講談社文庫
(3件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
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ブクログレビュー

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  • もー

    もー

    このレビューはネタバレを含みます

    戦国期のしんがりの事例(?)についてまとめた著書かと思って購入したが、様々な合戦の撤退戦を題材にした小説だった。
    "退き佐久間"のように撤退戦に関する異名を持つ武将も登場しないようなので、読み始めはちょっと拍子抜けしたが読み進めるうちに面白くて全く気にならなくなった。

    後衛は後方警戒だけでなく、後詰めや全体を押し上げる役割もあって優れた状況判断が要求される。部隊で2番目に強い(信頼できる)やつが最後尾を行くと言われるくらいに大事な位置だ。
    特に、勢いに乗る敵を抑える殿の役目は重要であるが困難でもある。崩れれば全軍が潰走することになり追撃でとんでもない被害が出うる。殿が活躍するのは敗戦後なので敵は勢いに乗って疲れも忘れて士気が高い。対して自軍は敗戦で士気も落ち疲労も色濃い。本能から逃げ出したい気持ちも強い。これを抑えるのは至難の業だ。
    そういった場面での心理をいろいろな人物で描いている。基本的に負け戦だが、そこで死に花を咲かせるために奮い立つ者、恐怖の中死んでいく者、生き残るために発奮する者、皆戦に生きる"武将"であるが、十人十色、様々な反応が描かれる。
    ショートストーリーの集まりだが全体を通して秀吉の立身出世から関ヶ原までの時間軸で描かれており、各話は緩い繋がりをもっている。前の話の登場人物が後の話で出てくることもある。

    高橋紹運の話を読み始めた時は「(戦死時の戦は)撤退戦ではないぞ」と思ったが、戦の“始末”ではあるので表題とは矛盾しなかった。
    撤退戦ではないが「優勢に迫る敵の前で劣勢の味方(本隊)の盾となり退かぬ」という姿勢はしんがりであるとも言える。

    勇ましい死に様だけでなく、情けない様子や自信が砕け散る絶望、敗戦の悲哀を上手く描けていると思ったので、著者の他の作品も読んでみたくなった。

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    投稿日:2024.04.14

  • Ryohei

    Ryohei

    矢野隆という作家は、合戦シーンや勢いのある描写に定評があるのかと思っていたが、本作は各人物の心情変化にスポットを当てており、重厚な心理小説の形を取っている。

    多くが殿軍を務める戦国武将を描くが、いずれもその大役を疎み、弱気で臨むという姿が、当たり前ではあるものの、新鮮で面白い。

    ①禿鼠の股座:秀吉の金ヶ崎の退き口。弱気の秀吉が、己への自信を根拠に反転するという心情変化が面白い。股間の「モノ」と心情を連動させる辺り、非常に作者らしい。

    ②夢にて候:長篠の戦いでの馬場信春の殿戦。回想が多く、小説世界に入りにくかった。

    ③勝政の殿軍:賎ヶ岳の戦いの柴田勝政の殿戦。頭で賢く考えるが、思い通りにいかず状況を恨む、柴田勝政の矮小さが目立っただけ…

    ④四方の器:小牧・長久手の戦いにおける堀秀政の桧ヶ根の戦い。秀政の心情を器の水に例える目の付け所と、唯一の功績であっても晴れない秀政の心情が興味深い。

    ⑤孤軍:高橋紹運の岩屋城の籠城戦。断トツで好きな話。理を尊びながらもそれ以上に義を信じる高橋紹運と、同じ理を第一に考え理の元に動く子・立花宗茂の対照的な父子の信頼関係が良い。最後の宗茂の涙のシーンは心揺さぶられた。

    ⑥丸に十文字:島津義弘の関ヶ原における島津の退け口。義弘の決断に至る過程は置いておき、徳川への禍根を、約250年後に明治維新という形で晴らしたという持っていき方が面白い。

    ⑦我が身の始末:関ヶ原敗戦後の石田三成。最後は殿戦ではなく、敗戦後の自己分析。自身の失態を理への過剰な信用とする分析は面白かったが、話としては冗長の感があった。
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    投稿日:2020.05.04

  • 豊太郎

    豊太郎

    決戦シリーズのこの作者の作品は読んでいたので、短編集ではあるがじっくり読んでみたくて手にした。
    戦国小説では戦の末、勝敗が決まると敗者は当然、打ち破られるか逃げるか自滅する。そこに焦点を当てた小説である。
    それぞれが各自の想いを持ってその場で対応し行動する。
    その心の内が味わい深い。「殿軍」の意味も分かった。
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    投稿日:2020.01.28

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