【感想】死の第三ラウンド

ウィリアム・アイリッシュ, 田中小実昌 / グーテンベルク21
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • bukurose

    bukurose

    「死の第三ラウンド」(Death in Round 3)が一番か。
    ボクシングの第三ラウンドで、オデアは死んだ。しかも賭け試合で勝つことになっていたのに。かつてのチャンピオンで今はオデアのトレーナーになり汗ふきをしている俺がいた位置から銃弾が発射されていた・・
    ボクシングと賭け試合の熱気が伝わる。

    「墓とダイヤモンド」(One Night To Be Dead Sure Of)
    莫大な遺産を相続しずっと1人で生活していた女性が死んだ。お金は宝石に変えていた、その宝石に囲まれ棺桶に収まりたいとの遺言。それがちまたにもれ、悪者二人は葬儀の前に棺桶に入りこみ盗もうとするが・・ そううまくはいかないだろう、と察しはつくが、悪者のやりとりがおもしろい。最後は、やっぱりそうだよねえ、となる。

    「殺人物語」(Murder Story)
    小説家のおれ。”被害者自身の手による殺人”、という小説を書き上げ、出版社に送るばかりになっていたが、一服し新聞を買うと、「有名作家、奇怪な死亡」という記事が3面に・・


    「検視」(Post Mortem)
    ミード婦人の馬券が15万ドル当たったと男3人がやってくる。しかし夫人は馬券を買った記憶が無い。しかもミード氏はつい先日死んで、今は再婚しミセス・アーチャーなのだという。そしてアーチャー氏は夫人に陽に当たるようにと浴室で使う太陽光線機を買い与え、毎日忘れ物をし夫人が風呂に入る頃帰ってくるのだという。・・ここまで読むと何か先が見えてくるが、やや廻りくどい設定の殺人。


    「チャーリーは今夜もいない」(Charlie Won't Be Home Tonight)
    夜、薬局ばかり狙われる事件が多発。最近のは店員まで殺している。しかもその事件が起きた夜はキーン警部の息子チャーリーも決まって外出しているのだ・・ 


    「街では殺人という」(Town Says Murder)
    田舎にひっこんだ夫婦。隣人殺しの疑いを妻はかけられるが・・
    「田舎者が都会へ出てくると、幾日もたたないうちに、都会で生まれて育った人間みたいになる。ところがその反対の場合だと、なかなかうまくいかないものなの」という言葉が鋭い。

    他に
    「消えた花嫁」(”アリスは消えた”でコーネル・ウールリッチ短編集3所収)
    (All At Once,No Alice)

    1972.4.28初版 1975.3.28第6版 図書館
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    投稿日:2022.01.30

  • Tetchy

    Tetchy

    このレビューはネタバレを含みます

    アイリッシュの独特の設定、シチュエーションは短編でも遺憾なく発揮されており、ドラマや映画のネタに困ればアイリッシュを読めば、そこに斬新なアイデアが詰まっているとでも云いたいくらいだ。

    特に表題作はボクシング試合中の射殺事件を扱ったもので、映画『スネーク・アイズ』を想起させる。

    今回収められた7編は全て水準作であり、可もなく不可もないといったところ。
    これは前半のサスペンスが一級品であるのに対し、後半の結末、特に真相解明になるといやに陳腐な印象を受ける。

    まず最初の「消えた花嫁」はよくある失踪物だが、名作『幻の女』を髣髴させるほどのサスペンスで関係した誰もが花嫁など見なかったというあたりはホラーに近い。
    そのトリックは花嫁の父親である富豪が買収して偽証させたというなんとも安易なものであったし、なにより後見人のへースティングがアリスを殺そうとするのかがよく解らなかった。また主人公のジェームズの恋の盲目ぶりもあまりに間抜けすぎた。

    よく理解できなかったのが「殺人物語」。主人公の作家タッカーは何故自らの犯行声明を表した作品取っておいたのか?
    皮肉は結末はアイリッシュならではなのだが、ここら辺の登場人物の心理の掘り下げがもう少し欲しかった。

    「チャーリーは今夜もいない」は街で連続して起こる煙草屋強盗事件の犯人が実は捜査する刑事の息子ではないかというサスペンス物。これは途中で作者の意図が見えた。
    しかし意外だったのは悲劇的な結末ではなかったこと。私の予想では主人公の刑事が誤って息子を射殺し、また犯人は実は長男を殺した男だったという設定まで考えていたが、大団円で物語は閉じられる。短編と長編の違いというところだろうか。

    本格ミステリ色強いのは「検視」と「街では殺人という」の2編か。

    「検視」は馬券宝くじから始まる夫の殺人計画発覚ものだが、再婚した夫の犯行の証拠がいささか貧弱か。作者の隠れた意図が見え見えであるのは痛い。

    「街では殺人という」はアイリッシュの得意中の得意とでも云うべき、男と女の愛の友情物。弁護士がかつて惚れた女性の無罪を晴らすために立ち上がるというもの。この設定でかなり惹かれたが最後の列車の走行を利用した大トリックにはびっくりした。しかもそれがブラフであるから、さらに失望(まあ、真相は二度と再演できるようなものではなかったが)。作品のバランスが非常に悪いなと思った。

    今回最もアイリッシュ色が濃いのは「墓とダイヤモンド」だろう。
    孤独な老女の遺品であるダイヤモンドを街の悪党チックとエンジェル・フェースが盗もうと画策するクライムノヴェル物。これはまず冒頭の老女の孤独さがそれ1つで短編となっており、そこから悪漢たちのクライムノヴェル、そしてアイリッシュ特有のアイロニー溢れる結末。仕掛けは凝ってはいないもののその分シンプルで愉しめた。

    今回の作品は物語の構成はいいものの、最後のアイデアがいただけない。パルプ作家時代の早書きの特徴みたいなものが見受けられた。しかし、冒頭でも述べたように、設定は素晴らしい。現代作家も見習うべきだと強く思った。

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    投稿日:2021.09.03

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