【感想】日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学

小熊英二 / 講談社現代新書
(57件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
25
19
5
1
0

ブクログレビュー

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  • かずくま

    かずくま

    読み返してみたら、ジョブ型や同一労働同一賃金の議論につながる歴史的背景が解説されてた。雇用慣行は、長年の積み重ねがあり、新しい制度を導入するには、時間がかかるのが分かる。でも、雇用慣行への挑戦は、必ずパラダイムシフトが起こすだろう。という希望につながる一冊だった。続きを読む

    投稿日:2023.12.03

  • eccoleseratte

    eccoleseratte

    出版社(講談社)のページ
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000321617
    内容・目次・試し読み

    「雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが、本書の主題なのだ」(序章)続きを読む

    投稿日:2023.11.13

  • UetakeHiroya

    UetakeHiroya

    このレビューはネタバレを含みます

    日本社会のしくみの成立について、述べられた一冊。それは、日本独自の国民性や文化で決められたものではなく、歴史的経緯の蓄積によって形成されている。

    終章では、社内のしくみは、どういう方向に変えるべきかについて、一般論ではあるが論じている。一部内容を引用する。

    "この世にユートピアがない以上、何らかのマイナス面を人々が引き受けることに同意しなければ、改革は実現しない。だからこそ、あらゆる改革の方向性は、社会の合意によって決めるしかない。
    いったん方向性が決まれば、学者はその方向性に沿った政策パッケージを示すことができる。政治家はその制作の実現にむけて努力し、政府はその具体化を行なうことができる。だが方向性そのものは、社会の人々が決めるしかないのだ。"(p.579)

    先日、国民民主党の玉木議員の社会保険に関連するツイート及びそれに対する意見を読んだ際に、「不利益を被る人・集団がいる場合における合意形成」が根本的な課題だと感じていたこともあり、納得のある内容であった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.11.12

  • Minmo

    Minmo

    某大学の社会学教授とお話しする機会があり、軽い気持ちで「まったくの素人にお薦めの社会学の本を教えてください」とお願いした。するとしばらくして、「悩みました」とメールがあり、数冊の本を紹介してくださった。これはそのうちの一冊である。

    かつて司馬遼太郎は「この国のかたち」という表現で、日本とはどういう国なのかを問い続けた。この、シンプルだが妙に頭に残るフレーズは、広く人口に膾炙して今に至る。そして、気鋭の社会学者である著者は、本書で「しくみ」という、これまた絶妙のワードを用いて日本社会を読み取ろうとするのである。

    彼が注目した(あるいはせざるを得なかった)のは近代日本の雇用・教育・福祉、なかでも雇用のあり方である。大学名重視、学位軽視、年功序列、大企業優遇、女性の不利な立場…日本はなぜこのような社会なのか、歴史をひもとき、海外との比較をし、非常に詳細なデータを並べて考察していく。日本の企業や官庁組織内は、戦前からの軍隊組織の影響が色濃く残っているという。

    著者は言う。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合知である、と。人々の合意により定着したものは、新たな合意が作られない限り、変更することは難しい。だが、難しいというだけで、変えられないものではないのだと。

    非常にエキサイティングで、付箋とマーカーだらけになってしまった。文体も平易でわかりやすい。
    ご推薦くださった先生に感謝。いつか、本書のお話を伺ってみたい。
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    投稿日:2023.08.09

  • オーク

    オーク

    Kindleで購入。久々に新書でも読むかと軽い気持ちで読み始めたが中々の大著。小熊英二は最近見た「三島由紀夫と全共闘」という映画にも出ておりどこか親近感を覚える。そして目を引くのは膨大な参考文献。丁寧かつ緻密な仕事をする人だという感想だが、流石にページ数が多すぎて途中で飛ばし読みしてしまった。
    本書は日本社会のしくみが成立した過程を、会社の雇用形態、賃金決定・人事評価のシステム、一般労働者、多数の国民の民意がどのように反映されたか、等の側面から詳しく説明している。

    以下ポイントを列挙

    ・大企業型が社会の構造を規定している。

    ・一つの企業内で活用できる評価の基準はあっても、他企業にも適用できるような共通基準は存在しない。

    ・他国においては、職種別労働組合や専門職団体の運動により共通基準が作られてきた。会社ではなく職種にアイデンティティを持つ。

    ・近代日本では一般企業に対しても官僚制の移植が顕著に見られる。背景には近代化における政府の突出した影響力がある。お上に頭が上がらない国民性。

    ・戦後の労働運動と民主化により、長期雇用や年功賃金が現場労働者レベルまで広まった。これが社会の二重構造を生み出したとの指摘も。まずは大企業と中小企業との二重構造(大企業は社員の平等を実現、そこまでの余裕がない中小企業)。現在は正社員と非正規社員との二重構造。

    ・日本では学歴の他に能力を評価する基準がなく、社内でのがんばりや人間性で昇進が決まる。

    ・昨今は非正規労働者の増加や成果主義の導入などの変化が見られるが、日本型雇用のコア部分は変わってはいない。

    ・日本もアメリカも二十世紀前半までは雇用主(資本家だ)の気まぐれで賃金等が決められてきた。しかし労働運動を通じて、アメリカは職務を記述書によって明確に規定し、同一職務には同一の賃金を支払うという「職務の平等」を志向した。一方、日本では職員(ホワイトカラーの上層)の特権だった長期雇用と年功賃金を労働者(ブルーカラー)にまで拡張させる「社員の平等」を志向した。
    その代償として、アメリカの労働者は職務がなくなれば一時解雇されることを受け入れ、ホワイトカラー/ブルーカラー間に階級的な断絶があることを受け入れた。一方、日本の労働者は経営の裁量で職務が決まることを受け入れ(無能が上に立つと辛い)、他企業との間に企業規模などによる断絶があることを受け入れた。
    日本においては社員は平等であるため、成長が鈍化し、また管理職比率が高まった企業にとって人件費負担が問題となり、外部の社員(出向、非正規雇用)を生み出した。

    ・どちらの制度にもメリットとデメリットがあり、いいとこ取りはできない。それぞれの制度が生まれるまでの背景や土壌も異なっている。最近の日本でも「高プロ」人材の導入等、制度改革を志向する動きもあったが、いずれもうまくいってない。他国の制度の長所のみ導入しようとしたからではないかと筆者は指摘する。
    またゲーム理論などを駆使して日本型雇用を分析しようとする動きにも筆者は冷淡だ。どこにも実在しない理想社会を基準に議論をしても、現実を動かすことはできない。これはあらゆる問題についても同じことが言えそうだ。
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    投稿日:2023.05.31

  • sor

    sor

    COURRIER JAPON
    著名人の本棚
    篠田真貴子さんの推薦図書より

    「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
    本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。

    会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
    また、どうやって変えていけるのか。
    私は、どんな風に変えていきたいのか。

    流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
    それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。

    本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
    が、福祉や教育に関する言及は薄い。
    筆者は、雇用に絞って論を展開した。
    物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。

    「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
    と筆者も述べている。

    かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。

    著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
    これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。

    勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。

    今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
    軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。

    大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。

    また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
    同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
    筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
    それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。

    社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
    答えを出すのは、著書を読んだ我々である。

    私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。

    さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。
    続きを読む

    投稿日:2023.01.08

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