【感想】室町戦国史紀行

宮脇俊三 / 講談社文庫
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • 源氏川苦心

    源氏川苦心

    「日本通史の旅」もいよいよ最終巻。扱ふ時代は、南北朝・室町・安土桃山時代。関ヶ原の戦いで幕となります。
    あくまでも歴史の流れに拘つて史跡巡りをしてきた宮脇氏ですが、流石に戦国時代となると各地の武将が群雄割拠、一筋縄では行きません。そこで戦国時代は各武将の動きや、合戦の跡を古戦場を巡つて歴史を辿るのです。それでもあつちこつち前後しますが。

    三英傑が登場するので、我が愛知県近辺に出没するのが嬉しい。「清州と桶狭間」「小牧、墨俣、岐阜」「長篠の戦い」「小牧・長久手の戦い」など。特に秀吉関係の出来事が多いので、断片的な秀吉伝の趣きがあります。最後には宮脇氏もうんざりしたのか、「もう秀吉とつきあうのはイヤになってきた」(お土居と名護屋城跡)と嘆きます。確かに晩年の秀吉は、朝鮮出兵など常軌を逸したとしか思へぬ挙措が目立ち、一部では気がふれてゐたのではとさへ言はれてゐます。まともに付き合ひたくはないよね。

    「鉄砲伝来」と「清州と桶狭間」の間で、四か月のブランクがあります。ブラジル旅行にて左足に悪性の菌が入り、入院と治療のため取材が出来なかつたとのこと。左足切断の危機だつたさうです。
    この後の宮脇氏は体力が落ち、そのせいか筆力まで勢ひを失つたやうな気がします。本書の最後で、その辺の事情も語られるのです。関ヶ原の項で、松尾山山頂を目指しますが、途中で息切れ。



    「前回、私がこの地を訪れたときは、雨に降りこめられて、泥んこ道だった。探訪を諦め、「あらためてハイキング・シューズでもはいて出直したいと思っている」と書いた。けれども、あれから一八年も経てしまったきょうは、天気も道もよいのに、私は登ることができない」

    紀行作家として、これほど無念なことはありますまい。読者もつらいのであります。で、「あとがき」で「日本通史の旅」終了宣言をするのです。



    昨年(一九九九)六月、関ケ原を訪ねたとき、私には史跡めぐりをする力がないことを自覚しました。石段の上に目指すものがあっても登れないのです。(中略)『小説現代』編集部は、江戸時代まで書き続けよ、と仰言ってくださっていて、涙が出るほどありがたいのですが、これでお別れにさせてください。

    まるで紀行作家引退宣言ともとれる、哀しい「あとがき」であります。実際、紀行作品としては本作が実質最後となつてしまつたのであります。
    しかし宮脇氏が遺した作品は少なくありません。折に触れて読み返し、末永く愉しむことにしたいと思ひます。ぢやまた。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-710.html
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    投稿日:2017.06.22

  • tko.m

    tko.m

    「古代史紀行」「平安鎌倉史紀行」と続く、鉄道紀行作家・宮脇俊三の歴史紀行3冊目。本シリーズの最終巻であると共に、氏のほぼ最後の作品となっています。

    史跡を年代順に愚直に辿っていくその真摯な姿勢は、最後までゆるぎなく一貫しており、歴史読本としても旅行記としても充分に読みがいがあります。ただ、「古代史紀行」辺りと比べてしまうと、やはり筆力の衰えを感じないわけにはいきません。

    現地に行ってみてこその独特の観察眼や、名も残せぬ民衆達へ寄せる思い。そういった氏の「味」が徐々に消え失せ、史跡の説明版の丸写しやタクシー(果ては読者の自家用車まで)の多用といった安直さが目に付くようになります。

    そして関ヶ原。脚力の衰えにより登れなくなってしまった石段を見上げた時に、はっきり自覚してしまった己の限界。ぷつりと途切れる文章。

    正直、どんな歴史的大事件よりも僕の胸を打ったのは、しぼり出すように書かれたあとがきでした。巨匠が自ら筆を置いた瞬間。およそ2年の後、氏は戻る事のない旅に出ました。

    作品としての評価もさることながら、宮脇俊三の一ファンとして大切に持っておきたい1冊です。
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    投稿日:2016.09.24

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