【感想】竜のグリオールに絵を描いた男

ルーシャス・シェパード, 内田昌之 / 竹書房文庫
(16件のレビュー)

総合評価:

平均 3.5
2
3
6
1
0

ブクログレビュー

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  • おかゆ

    おかゆ

    どの話も常に淡々とかつどんよりしたテンションで、結局全部グリオールのせいだよね!になってしまうが確かにここまで大きな存在が常に傍らにあるなら自然とそういう思考になってしまうだろうな…と思った。あと結構すぐセックスするか一歩手前の展開になるのはお国柄なのだろうか…。続きを読む

    投稿日:2024.04.27

  • すいびょう

    すいびょう

    【感想】
    竜という生物は多くの物語において、強大な力を持つ「魔物」として君臨し、人間と対峙してきた。しかし、本書に出てくる竜の「グリオール」はもはや生き物のレベルではない。「神」だ。
    グリオールは魔術による一騎打ちで何千年も前に身動きを止められた竜である。高さは750フィート(230メートル)、全長は6000フィート(1.8キロメートル)もあり、彼の体の上には森林といくつもの村ができている。グリオールの身体が作る生態系は複雑怪奇であり、都市をまるごと破壊できるほどたくさんの寄生生物が生息している。グリオールは封印されたものの実際には死んでおらず、心臓はまだ脈を打ち、絶え間なく霊気を出し続けている。その霊気は人間の精神を感応させ、周辺の住民を洗脳・支配し、きわめて微妙で目立たない影響をおよぼすことも、きわめて入り組んだ出来事をあやつることもできる。まさに「神」に近い不滅の存在、それがグリオールという竜なのだ。
    グリオールはもはや自然そのものであるため、魔法や武器で倒すことは不可能である。そこで、グリオールの身体に絵を描きながら、絵の具に含まれている毒で4,50年ほどかけてジワジワと殺していく、という壮大なプロジェクトが動き出した。これが本書の第一篇「竜のグリオールに絵を描いた男」のあらすじだ。

    ただ、本書の読みどころはそうした「人間vsグリオール」の戦いにあるのではなく、むしろ、人間自身の営みにある。全長2キロにおよぶ竜は、その身に複雑な生態系が出来上がるほど自然と一体化してしまっている。そのため、竜の鱗や体表をはぎ取って暮らす人々や、グリオール周辺の自然に根差した集落、絵描きプロジェクトのために作られた村など、全てがグリオールを中心に息づいている。そうした「竜と暮らす人々の日常」の細かい描写には目を見張るものがあり、竜というフィクションの上に人間達のリアルな生活が巧みに投影されている。

    そしてもう一つの読みどころは、グリオールに精神感応された人間達の描写である。本書において、グリオールの支配から逃れられる者などおらず、誰もが彼の作る幻影を見る。グリオールの絶対的な存在の前では、人間の意志、倫理、道徳といったものは簡単に消え去るため、人々は怯え、無力感を覚える。逆に、その強大な力を利用したカルト宗教や原始共同体が出来る。

    本書の核となるのはグリオールだが、根底に通ずるのは「人間の矮小さ」だ。それは現代小説であれば太陽や自然、神などの巨大な存在に対して抱く感情であり、フィクションでありながらどこか近しさを覚える部分もある。だが、本作品はそのモチーフを「竜」に求めることで、より神秘的で幻想的な世界を描き出すことに成功しているといえるだろう。

    壮大でありどこか儚げな世界観。それがグリオールの存在する物語だ。

    ――グリオールの意味やシリーズ全体、個々の物語の内容について議論するのは別の場に譲ろう。ただ、自由と支配、意志と強制、環境と人間、社会と個人、行為と責任という、我々の存在の根源に関わる問題を、生々しいイマージュとして提示し、ここまで切実に身近に感じさせる小説は滅多にあるものではない。グリオールという存在を設定することでそれが可能になっていることは言うまでもない。ファンタジィとは本来このように作用する。そしてシェパードの作品のどれにも通底する性格でもある。どの小説にあっても、超自然的存在やシチュエーションは、あまりに大きすぎるので直視するのを普段は避けている問題を、あらがいようもなく、突き付けてくる。無理強いするのではない。夢中になって読んでいると、ふとあるとき、目の前に置かれていて、「嘘つきの館」のホタのごとく、そこから眼を離すことができなくなっている。問題から眼を逸らすことをできないようにしてしまうのが、シェパード作品の魔法なのだ。
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    投稿日:2024.01.10

  • るこ

    るこ

    ファンタジー。中・短編集。
    『ジャガー・ハンター』を読んだ時の印象と同じく、文学的。
    文学的な内面描写とファンタジーとの相性が良いかは疑問だが、特徴的な作風であることは確か。
    冒険小説的な要素の多い「鱗狩人の美しき娘」と、サスペンス調の「始祖の石」が好き。他2作も十分満足の出来。
    この作品に限らず、竹書房文庫の本は装丁がとても良い。
    美しいイラスト。肌触りも好み。
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    投稿日:2023.01.05

  • 枝乃

    枝乃

    このレビューはネタバレを含みます

    連作短篇集。動かぬ巨竜グリオールの上に暮らす人々が、数奇な運命に翻弄される。表紙に惹かれ、のどかな異世界ファンタジーを期待して読み始めたら、どんどん雲行きが怪しくなり……。巨竜の異様に不気味な存在感と、妙に生々しい人間側の傲慢さや身勝手さをたっぷり突きつけられる。性的・法的な禁忌も絡み合い、一つのジャンルに収まりにくいダークファンタジーで、かなり読む人を選びそうです。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2020.12.19

  • kirimisakana

    kirimisakana

    このレビューはネタバレを含みます

    凡作。読める文章ではあるが、面白くない。

    タイトルからすごくワクワクしたのに、期待外れだ!
    と星1をつけないだけマシだと思っていただきたい。

    純文学という装いで提示されたら、別の評価をする。
    『エンタメ』として提示されたら、精々が凡作。と言うよりほかはない。
    具体的に評価できないポイントは『キャラクター』と『筋立て』の2点。

    ・キャラクターの描写が、ワークショップで習った技法なりに頑張ってるんであろうけど、血肉の通った人として読み取れない。外見以外の表現が、常に第三者視点であり、キャラがでてこない。
    ・キャラクターの内面の変化や人格が、訳文で読む限りにおいて、『作者が神の/現代人的な視点から描写した言葉』であって、『そのキャラならこういう言葉遣いでこう述べるだろう気持ち』で表現されていない。

    ・筋立てがもう……純文学すぎて、わあもう。
    第1話:このタイトルで、どうやればここまで、「下らない人間の野心やいざこざを、だらっと描いてて、なんか政治の都合で工事中断したら竜も(原因不明のまま)死んじゃう。」という内容で終わらせ切れるのか。謎である。

    第2話:神秘の竜の探索が全然、驚きも感動もなく描かれてて、平凡な人生の延長線上にある、やっぱり平凡で全く打ち解けない『何か』のように、退屈に描写できるのもある種才能を感じる。
    しかもギミックとして登場する『蔓草』が、デウス・エクス・マキナすぎて面白くない。

    第3話:法廷ドラマも、うん……、法廷ドラマですが……別にグリオール要らなくない?
    あらゆる人のあらゆる行動が『竜グリオール』の影響下にあろうがなかろうが、「いずれ考えるのを止めて動かねばならない」のだとしたら、この話に背景画として描かれた竜は惰性で登場しているに過ぎない。
    なお、ミステリ的な意味で評価すると、あらゆる部分に無理がありまくりで、話が破たんしないかどうかが、はらはらする。

    第4話:変身したい男の苦しい言い訳が、「グリオールに影響されていた」なら、彼を吊るしたい人々の「グリオールを吊るすわけにはいかないから、お前は代理ね!」も通るという。不条理な社会の軋轢を最前線で人間に仮託した話と言えば言えるだろうが、これファンタジーで銘打ってやるべき話だっけ感がぬぐえない。

    なので、エンタメ作品としては凡作。
    文体はねちっこいというか細かくて重厚だが、キャラがイマイチ生きてる感じしない。評者的には好きになれないタイプなので、
    「背景美術が荘厳な劇場で演じる大根」
    という評価。
    純文学的なテーマを追求するにも、キャラクターが生きてないわ世界に入り込みづらいわ、なので星3つとした。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2020.08.14

  • ヨイヨル

    ヨイヨル

    感想はこちらに書きました。
    https://www.yoiyoru.org/entry/2019/10/04/000000

    投稿日:2020.05.02

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