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牧野伸顕 / 中公文庫 (3件のレビュー)
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jun55
大久保利通の次男で、父、兄と共に幼少時に岩倉欧米使節団に参加し、米国で初等教育を受け、後に明治~昭和初期にかけて官僚、政治家として活躍する。 当時、まだ半人前の日本が国際社会の中でもバランスよく振る舞…い、評価を得ることができたのも、牧野のような国際人が要職にあったからだろう。 要職にあり、薩摩閥のエースであったにもかかわらず、また、首相にもなれる器であったが、天皇を右大臣、宮内大臣として支える等、裏方での活躍が大きかった。 特に、当時の唯一の元老、西園寺公望が、激動の昭和初期に、牧野が首相になり、政治家として短命に終わるよりも(暗殺のリスクも含めて)、裏方で国家を支えることを望んでいたようだ。(西園寺も国際人であった) 親米派でリベラル、との評価であるが、そう表現するとミスリードとなる可能性がある。 世界の潮流を理解し、その観点で物事を判断できる人物、と評することが正しいのだろう。 歴史的には、対米戦、敗戦と、日本は誤った道に進むことになり、牧野も後悔の念が強いと思うのだが、国家の軸を、世界の潮流に合った方向に向けていた様々な努力は無駄にはなっていないと思う。 上巻は、幼少期、西郷隆盛や大久保利通(父)、また伊藤博文のキャラクターに触れられている箇所もあり、大変興味深い。 以下抜粋~ ・(岩倉使節団について)この時のことについて特筆すべきは、初めて女の留学生が一緒に加わって派遣されたことで、これは黒田開拓使長官の建議に基づくものだった。この時米国に派遣された女子留学生の費用は開拓使が出した。(開拓使が雇っていた多くの米国人からの建議だったかもしれない) ・もし私が最初の計画通り独逸へ行っていたらどうだったろうか。独逸で勉強したために後々まで親独派になり、今では戦争犯罪人というようなことになっていたかもしれぬが、全く怪我みたいなことで米国に置いて行かれたために、いつとはなしに親米派で通ることになってしまった。 ・五代という人は、損得を顧みず実業界のために尽力したので、百万円ばかりの借金を残して死んだ。当時百万円の借金と言えば大した額である。 この時代に百万円の借金が出来たのは凡人には不可能で、それだけの信用があったのである。 ・(西南戦争)当時の実状はどうだったかと言うと、政府の態度はなかなか決まらず、、、 それが大久保が京都に出て来るとたちまち征伐に決したので林董さんは驚いたと言っていた。 ・英国のやり方はいつもそうで、まず個人が手を出し、既に一定の事実が出来上がってからそれを政府が引き取る。印度の開拓にしても、これはもと一商業会社が始めたことで、その事業に対して始め本国において相当な反対があった。このように日本のやり方とは逆に、国が常に国民の力で発展するのである。 ・伊藤(博文)さんは、相手が大臣だろうが、書記官だろうが、また老人だろうが、青年だろうが、そのようなことには一向頓着なく、そのような意味で非常に親しみ易くて、誰であろうと相手の言うことを熱心に聞き、また時には言っていることが間違っていることを遠慮なく指摘するという風だった。全く珍しいほど坦懐な人で、満州で遭難された時には一時世の中が真暗になった気がした。 ・英国は、家長制度で、財産の大部分は長男が受け継ぐことになっているので、次男三男は多くの場合豪州やアフリカなどに出稼ぎに行く。そしてその目的は、成功した暁には自分が育った実家におけると同じような品格(ジェントルマン)を備えた過程を造ることにあるので、英国が国としてあれだけ発展しながら国風を崩さないのは、こういう気分も手伝っていたのではないかと思う。 ・伊藤さんは終始洋書等を読んでおられ、もの解りはよく、記憶もよく、山県、井上など皆偉い人だったがそれぞれの型があったのに反して伊藤さんにはそれがなく、何でもござれという風で、好悪の感情によってではなく問題の如何で動く人だった。 ・(大戦時、京都、奈良は空襲に合わなかったが)米国の当局に対してこのことを進言したのは、岡倉の門人でランドン・ゥオーナーという人だった。 ・井上毅が文部大臣としてした仕事の中で特筆すべきは、井上が実施した実業教育だと思う。 ・顧みればこの事件(義和団事件)において日本が国際関係については信義を重んじて慎重に行動し、また一方その実力を示したために、列国間に信用を博し、東洋において有事の際に無視できない一大勢力たることを明らかにしたのであって、日英同盟もこの事情がその機運を助長したと思う。 ・日本がポーランドに施した恩恵について言えば、ロシアが戦争に負けた結果、ポーランド人は虐政から解放されて公民たる資格を獲得し、これは自力では到底望まれないことを他力によって付与されたのだから、これに対する感謝の念が想像以上に深甚だったことは了解できると思う。続きを読む
投稿日:2022.08.21
matsunokaori
日本の近代を生きた政治家の回顧録。なかなか、柔軟な考えの持ち主で、勃興期の日本の政治家がどう育成され、感じ、行動したのかが分かる良書。
投稿日:2022.06.05
中央公論新社
重臣として近代日本を支えた著者による、政治・外交の表裏にわたる貴重な証言。上巻は幼年時代より、イタリア、ウィーン勤務まで。〈巻末エッセイ〉吉田健一
投稿日:2018.05.30
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