【感想】中国の知恵 ──孔子について

吉川幸次郎 / ちくま学芸文庫
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • 猫吸い

    猫吸い

    ・孔子が生きた地獄
     筆者は『春秋左氏伝』を参照し、孔子の生きた周王朝末期の惨憺たる様相を描写する。中央の権力は衰え、諸侯は骨肉の権力闘争を繰り広げていた。殺戮と陰謀が渦巻き、血で血を洗うような環境であった。筆者は「それは人間の悪意を誇示する文献のように見える〈p.145〉」とまで形容する。しかし孔子はそのような時代背景の中で理想主義とも言える『論語』を残した。このことが孔子の強靭さを一層物語るのである。
     本書の魅力として、充実した時代背景の記述が挙げられる。この点で、入門書としての役割を十分に果たしていると言えるだろう。

    ・仁とは愛である
     地獄のような環境でも理想を説き続けた孔子の原動力は、人間の善意への楽観的なまでの信頼であった。その倫理観が「仁」=「人間の人間に対する愛情、それを意志をともなって、拡充し実践する能力」という言葉で表明されている。そしてこの人間志向の態度が、「怪力乱神を語らず」という合理主義へと繋がるのである。孔子は時代に何度も裏切られながらも、人間への信頼を捨てなかった。それは意固地になったからではなく、地獄が人間存在の有限性を認識させ、その限定の一つとして人間の善性を確信するに至ったというのが筆者の解釈である。
     本書を貫く筆者の孔子解釈は人本主義であり、それは昨今の混沌とした情勢の中でも十分に検討に値するものではないかと思われる。

    ・反禁欲
     孔子の中心的主張「仁」は文明の方向へ拡充される。そのために学問による幅広い知識と、政治による多数の同胞に対する働きかけが必要とされたのである。特に学問では文学と音楽が重要視されたことがユニークである。このような文化志向は禁欲とは結びつかない。日本では江戸時代の朱子学の影響で禁欲的な書物として『論語』が理解されてきたが、伊藤仁斎や荻生徂徠はそれに反して人間の欲求を肯定し、文化主義的な解釈を残した。筆者は彼らに影響されている。
     孔子が、学問ひいては音楽や文学を重視する思想をもっていたということを学ぶことで、教科書の上で無機的な存在だった『論語』という書物が、明るい印象を帯びる。ただの歴史上の偉人ではなく、血の通った一人の楽天的な思想家として孔子が浮かび上がってくる。
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    投稿日:2022.07.07

  • まりえ

    まりえ

    孔子と論語にまつわるエピソードがつづられており。
    弟子の話なんかも論語を引用しながら、ユーモラスに読みやすく書かれていて、論語を読んでなくても面白いと思う。
    むしろ、これを読んだあとに「『論語』読んでみようかな~」って気分になれます。時々読み返します。

    昔、新潮文庫版をもっていたんだけど行方不明なので、ちくま文庫で買い直し。。。
    苦手だった大学教授が勧めた本だったけど、これは面白かった。中学生にも3年くらいからいけます。
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    投稿日:2012.09.18

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