【感想】ピカソは本当に偉いのか?

西岡文彦 / 新潮新書
(28件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
2
18
5
1
0

ブクログレビュー

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  • kofsan

    kofsan

    以下の質問に答えている。
    1.ピカソの絵(「アビニョンの娘たち」を中心として)は本当に美しいのか、どこがうまいのか
    2.見るものにそういう疑問を持たせる絵がどうして偉大な芸術とされるのか
    3.そのようにどうしてこれほどの高値がつくのか?
    4.ピカソのような絵は誰でも書けるのではないか
    5.そう思わせるような絵を偉大とする美術界はどこかおかしいのではないか
    6.そういう絵にこれほどの高値をつける美術市場もどこかおかしいのではないか。

    作者はこれにこのように答えている。(以下ネタバレ)
    1.ピカソの絵は、それ以前の美術の基準に照らせば美しくない。しかし、ピカソの絵は、超絶なデッサン力に支えられており、非常にうまい。
    2.ピカソの絵は当時求められていた前衛芸術であり、衝撃によって人々に従来の基準への疑問を抱かせることを狙っていた。
    3.ピカソが現れた時代、それ以前の教会を飾ったり貴族の家を飾るという実用性のある美術と異なり、美術館に入れるための絵が求められており、美術品自体の主張が必要とされていた。ピカソの絵はその需要に応えていたから、高値がついた。
    4、ピカソの作品は、高い技術と巧妙な市場戦略に支えてられており、亜流の作家では真似ができない。
    5.ピカソの絵は、絵がもっぱら美術館に飾られるものになったと言う文化の変化に対応するものであり、その方向をうまく追求しているために偉大とされている。
    6.美術が儲かるとする投資家、画商、オークショニアの力により美術市場が支配されているため、高値がついている。また、新しい作家を育てるよりも、既に定評のある作家の作品の値を上げる方が、投資として効率的であると言う戦略に基づいて、ピカソの絵の価格が上がっている。
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    投稿日:2024.04.02

  • ハナハル

    ハナハル

    色々勉強になりました。
    絵については神童で、若くして名声を得て、
    その富も名誉も落ちないまま、
    女をとっかえひっかえしながら、
    長寿をまっとうした、という
    ゴッホやゴーギャンとかと全く違い
    芸術家的な破滅ストーリーが全く無いピカソ。
    それはそれで偉大すぎます。
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    投稿日:2023.07.22

  • 上限のツキ

    上限のツキ

    19世紀の革命期以降、美術の評価の舞台は王族貴族のアカデミーから市民の世論になった。こうなると作者の声高な主張や作品の衝撃度が勝敗を分け、アトリエは世間に衝撃を与える作品の試作や実験の場所となる。ピカソの『アヴィニョンの娘たち』はその代表ともいえるものでいわば「新理論の論文」である。
    更に写真の登場によって写実的な絵画は衰退し近代美術は「反写実」に向かった筆触(タッチ)の強調やさらに個々の画家が独自にそのスタイルを工夫することで自らを主張した。スーラの点点やセザンヌの平筆タッチ(p.123~)
    近代以降の写実的でない美術の個々の解説は何度読んでも腑に落ちなかった。というよりはなぜこんな絵を描こうと思ったのかが理解できなかった。このようなマーケティングの視点(どの層をターゲットにしたか)ともいえる解説によりやっと腑に落ちた。

    絵画が高額で取引されるのも需要と供給という市場原理に則っただけで画商の勝利であっても画家の勝利ではない(p.178)も頷けた。一度できたスター(ピカソほか)の名に乗っかったほうが価値を高められると。
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    投稿日:2022.03.24

  • touxia

    touxia

    著者は、版画家で多摩美大の教授である。『絵画の読み方』など、多数の本を出している。ピカソについて知りたかったので、読んだ。
    ピータードラッガーはいう「問題が解決できないのは、正しいに問いに間違った答えを出すからではなく、問違った問いに、正しい答えを出そうとするからである」
    この題名の作り方が、明らかに失敗している。「正しい問い」を作れなかった。ピカソが偉いのかどうかを問うても、ピカソに対する正しい答えを見出すことができない。
    「偉い」とは、①普通よりもすぐれている。②人間としてりっぱですぐれている。③偉大でである。
    ということなので、この3つ項目で、4人の愛人と2人の妻がいたことを著者は問題としていて、人間的に立派と言えないと断罪している。ピカソは、芸術において大きく変化を与えたので優れていると言える。このことから、題名の問いからみると偉いと言えないが、偉大ではある。
    さらに著者は、3つの問いをする。
    ①ピカソの絵は本当に美しいのか?どこがうまいのか?②どうして偉大な芸術とされるのか?③ピカソの絵にどうしてあれほどの高値がつくのか?
    相変わらず、設問のレベルが低い。この先生の視点の「常識」さに呆れてしまう。
    著者は言う『美術という「美しさ」を追求するはずの世界において、この「わからなさ」を特色とする画家に破格の評価が与えられる理由は、あまり説明されていない』とって、結局うまく説明できていない。『美術といえば、その名の通り「美しさ」というものの結晶ないしは高度な「技術」の結実したものである』絵を美術という言葉で限定することによって、狭窄視している。
    芸術の先生ではなく、美術の先生となって、「ピカソの絵は美しいとは言えない」と主張する。
    ふーむ。1907年の『アヴィニオンの娘たち』をどう評価するのか。ピカソが『青の時代』(1901−1904)『桃の時代』(1904~1907)から、『アヴィニオンの娘たち』を描いたのか?
    この絵が生まれたのは、文脈が重要だ。ピカソは、ギリシャ生まれのエル・グレコを尊敬しており、1614年の『第5の封印の扉』の構図に似ている。また、ポールセザンヌの1906年『水浴者』の構図にも似ている。また、その当時名声を浴びていたアンリマチスの1906年『生きる喜び』にも対抗している。『アヴィニオンの娘たち』は、バルセロナのアヴィニオン通りの娼婦の5人。左にエジプト人もしくは南アジアのような顔と衣装、真ん中の二人がスペインイベリア風の風貌、右の二人がアフリカの仮面をしている。プリミティズムであり、官能性とセクチュアリティーを持っている。ピカソは、『破壊の集積』と語っている。説得力のある野蛮な力で、独創的である。
    評論家のアドレ・サルモンは『アヴィニオンの娘たち』のことを 「爆弾のような衝撃」と言った。
    ピカソは絵画の伝統や常識を破壊した。この絵には、従来の常識である美しいということを目的としていない破壊性を持っている。また、『アヴィニオンの娘たち』の習作が600枚もあったという。ピカソのこの絵にかける執念もすごかった。
    イギリスの美術史家、『キュビズムのエポック』の著者ダグラス・クーパーはいう。
    「《アヴィニョンの娘たち》は、一般的に最初のキュビスムの絵と呼ばれている。これは誇張ですが、それはキュビスムへの主要な最初のステップだったが、それはまだキュビスムではない。この作品の破壊的で表現主義的な要素は、離散的で現実的な精神で世界を見ていたキュビスムの精神にさえ反しています。それにもかかわらず、この作品は、新しい絵画的形式の誕生を記録している。ピカソは暴力的に既成の慣習を覆し、その後に続くすべてのものは、この作品から派生したため、キュビスムの出発点として語るにおいて合理的な作品でもある」という評価をしている。
    さて、著者の美術という枠組みを破壊したもの、ルールを変えたものをルールで論じても仕方がないのである。
    また、高額という視点から見れば、ピカソの絵だけが高額ではないアートの世界が生まれている。
    ピカソの生涯作品数は、油絵で、13,000点、版画、素描、陶芸で130,000点。実に膨大な数に上る。
    1973年にピカソが91歳で死んだ時に、ピカソの手元にあったものが70,000点あったという。
    その時の遺産の評価総額が約7500億円 (その当時)。現在では、10倍以上の価値がある。
    1932年の「ヌード、観葉植物と胸像」は百号(160cmx130CM)で、100億円。1号あたり1億円。
    画商が誕生することで、絵は教会の飾り物ではなく、ビジネスとして成り立つようになり、画家によって価格が決まり、1900年頃には、アメリカの振興があり、絵画バブルの中に、印象派の絵やゴッホ、そしてピカソの絵が高額で取引されるようになった。
    ピカソは、「瞬時に人を魅了する力、大きくて黒い瞳を持つ魔術的な力」があった。ピカソは衝撃的な作品で世間の耳目を集め、声高にその芸術性を主張しながら、理論面と経済面で有力な援護者を探す。作品を展示することができるアトリエを持ち、そこで実験的、先鋭的だった作品を見せる。
    ピカソの絵は投機目的で買われた。ピカソの絵は「交換価値」が高い絵とされた。多くは貧乏な画家だったが、ピカソは若い時から絵が売れた。またピカソをほめる有名人も多かった。アトリエは、画商の隣のところにあった。
    ピカソは、絵を描くアーティストと絵を売るマーケッターの両方の才能をもち、カリスマ的存在となることで、ブランド化に成功したのだ。ゴッホは、マーケッターになるほどのコミュニケーション力がなかったと言っていい。ピカソは、「執拗に相手の嫉妬を喚起するような撹乱的な人間操作の名手」とも言われ、6人の女性を間を、渡り歩くことで活力を得ていた。愛した女さえも「芸の肥やし」とした。
    ピカソは、一生、そして毎日24時間、芸術に捧げた。
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    投稿日:2021.12.30

  • なりすけ

    なりすけ

    ピカソを見る前には、歴史を知らないといけない。
    ピカソを知らないといけない。
    今、絵を見に行きたい。

    投稿日:2018.04.28

  • aki

    aki

    このレビューはネタバレを含みます

    「自分語り性」と「前衛性」
     美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家はいないらしい。そんな彼の「偉大さ」を問い直すといった内容だ。ピカソファンとしては改めて彼の「偉大さ」に敬服することとなった。ピカソの作品は、油絵だけで1万3千点、版画や素描や陶芸など、油絵以外の作品は13万点を超える。
     16世紀の宗教改革を契機として、絵画の買い手が教会から市民となる。主題を失った画家たちが描き始めたのが市民の肖像や市民生活の一場面や静物や都市景観や田園風景といった世俗的な題材で、風景画や静物画といったジャンルはこの時期のオランダで生まれた。画商のおこりもオランダである。(17世紀)そして、18世紀終わりのフランス革命で絵画彫刻が王侯貴族というスポンサーまでをも失い、市民経済(市場)に頼るしかなくなる時期に、印象派という前衛絵画が登場する。印象派絵画が「アメリカ値段」で取引されるなどして絵画バブルが起こる。そこに現れたピカソは、絵画史上初めて登場した「最初から投機目的で買われる絵画」を象徴する存在となった。美術史の流れの中でのピカソの存在を捉えることができた。

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    投稿日:2018.03.24

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