【感想】謎のクィン氏

アガサ・クリスティー, 嵯峨静江 / クリスティー文庫
(28件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
10
9
5
1
0

ブクログレビュー

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  • タカツテム

    タカツテム

    クリスティ作品の中でも異質さが群を抜いているハーリ・クィンを主題に据えた短編集
    この短編集の魅力は本来なら探偵役となるハーリ・クィンが推理もしなければ捜査もしない点。それどころか事件への関わりだって少ない
    なら、誰が推理を行うかと言えば人間観察が趣味のサタースウェイトとなるわけだ。ハーリ・クィンによって与えられた天啓を元に想像の輪を広げ事件の真相に気付く
    本作は一般的なミステリと大きく異なる構図を持っているからこそ、面白さも際立ってくるね

    そもそもからして、ミステリの短編集なんて或る一つのポイントに気付ければ真相も容易に気付ける構図となっている事が多い。その意味ではミステリの短編では必ずしも探偵が必要と言いきれないのかもしれない。素人探偵が活躍できる余地が生まれる
    だからってハーリ・クィンに導かれたサタースウェイトの振る舞いは特異としか言い様がないのだけど

    サタースウェイトは人間観察が趣味というだけ有って、気付くべきポイントにはおおよそ気付いている。でも探偵ならではの捜査・推理方法を持っているわけではないから事件に出会っても動き方を知らない
    そこでハーリ・クィンが示す天啓が役立つわけだ。探偵でもないサタースウェイトはハーリ・クィンの存在に拠って自分に何かしらの役割があると確信する。それによって事件との向き合い方を見定められる
    2人は相棒というわけでもないのに、まるでタッグを組んでいるかのように最良のパートナーとなっていくね


    収録されている短編の中では『死んだ道化役者』が一番好印象を受けたかな

    10年以上前に終わった話だった拳銃自殺。それが現場をモチーフとした絵画をきっかけとして過去への追憶が始まり、役者が揃い、そして真相へ到る。その上で恋の端緒も見え隠れする
    本短編集の魅力が詰まった話であるように思えましたよ
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    投稿日:2024.01.12

  • きなこ黒蜜

    きなこ黒蜜

    タイトルの通り、ハーリ・クィン氏が謎すぎる。ちょっとオカルト風味? 
    「面前でくりひろげられる、さまざまな人生ドラマを、間近に見物してきた」サタースウェイト氏は、トリックスターのクィン氏登場によって探偵役を演じることになる。変わった探偵役コンビで面白い。ポワロともマープルとも違う雰囲気だ。特に最初の「クィン氏登場」が好き。

    クィン氏の名前の元ネタと思われる「ハーリクイン(道化役者)」を検索したら、イタリア語で「アルレッキーノ」だという。サタースウェイト氏いきつけのレストランの名前が「アルレッキーノ」で、小ネタが知れてちょっと嬉しい。
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    投稿日:2024.01.11

  • オズ

    オズ

    クイン氏登場
    クリスティが生み出した探偵の中でもかなり特異な人物であり、シリーズ化はされていない(短編集のみ)がかなり好きな作品になった。
     自動車事故により年跨ぎの夜にとある屋敷に現れた謎の人物。過去、この家で家主が自殺しており、その真相は未解決ねままであったが、十年の後、過去を振り返ればいらないものが削ぎ落とされ、真実のみが見通せるものだと謎のクイン氏は話し一座と共に過去の事件の記憶に潜っていく。独特な手法により、過去の事件の真相を見事に解き明かす。結末もクリスティ的だ。
    窓ガラスに映る影
    クイン氏の物語はサタースウェイトで始まる。そして一作目に続き、お化け屋敷が話題だ。アンカートン夫妻が暮らすグリーンウェイズ荘。その館の窓には過去に暮らしていた大佐の影に見えるシミが現れて人々を不幸にする。遥か昔から窓ガラスを変えてもそのシミは必ず現れて何かしらの不幸が起きる。今回もガラス窓を取り替えたのにも関わらずシミが現れその後、銃声が聞こえ二人の男女の死体が発見される。また、とある婦人が銃を握っている様から事件は簡単なものと思われたが。そんな中でたまたま主人と約束をしていたクインが姿を現し事件の真実を導き出す。
    〈鈴と道化服〉亭奇聞
     サタースウェイトとクインは運命的に出会う。とある田舎にて車がパンクしてしまい短い時間、宿屋で食事をする事にしたサタースウェイト。そこで偶然クインと再会し、宿屋のある地区で起きた不思議な失踪事件について見解を話す。物事は過去になればなる程余計なものが削ぎ落とされて真実が見えやすくなる。失踪事件の結末についてはクリスティ得意の人物の入れ替わりを駆使したトリック、面白い物語だ。
    空のしるし
     今回はサタースウェイトが冒険を強いられる。とある男が有罪になるが、サタースウェイトは判決に納得出来ない。彼の行きつけのレストランでクインと再開し事件の詳細を告げる。事件後、お手伝いさん一人がカナダに渡っており、サタースウェイトはクインに後押しされて、カナダまで出かける。彼女を見つけ、話を聞き出し、ロンドンへ戻り、クインと再会。サタースウェイトはクインに真実を告げ、クインは彼に助け船をだしながら真実に辿り着く。少しクインと言う人物の印象が変化した作品。
    クルピエの真情
    こういった作品を短編の中に入れてくるのは驚いたが、いいスパイスだ。ロマンス作品も出しているクリスティならではだし、二組のカップルについてとある仕掛けを施すサタースウェイトとクインはとても人間臭い一面があるのだなぁと感心する(クルピエと伯爵夫人について何かした様な描写は無いが、クインがクルピエを連れて来たことが仕掛けの様に感じた)とても平和な作品であり、こういうものだけだと疲れてしまうが短編集の一編で、しかもクインのシリーズの世界観がわかってくるタイミングなのでとてもよかった。
    海から来た男
     余命宣告を受けた男。自身は孤独であり、断崖絶壁を訪れるがサタースウェイトと出会う。サタースウェイトは自身がこの土地に来た事を後悔していた。そんな折り、男性と出会い、会話をしながら彼が自殺を仄めかしている事に気づき諭そうとするが手ごたえはない。男は昨日も別の人物に止められており、二日続けて上手くいかなかった。一方でサタースウェイトはこの地にある屋敷がどうしても気になってしまい、ついつい勝手に家のドアを開けてしまう。そこで女主人に呼び止められ、事情を伝えると、家に招かれ不思議な話を聞かされる。
     自分の人生が将来、とある時点で誰かの人生を変えるかも知れない。神という演出家が出番を最後にしているかも知れないし出番自体がないかも知れない。というのはミステリには珍しく胸に刺さる教訓だ。そして、今作もハッピーエンドで幕を閉じる。終盤にようやくクインも登場するが、サタースウェイトの冒険であるだろう。
     闇の声
     女男爵というのは初めて聞いたが、基本は男性が爵位を継ぐものだが、稀に女性が継承することもあるらしい。何度も結婚し、自由奔放に生きる女性。反対に堅実で真面目な娘。娘が住んでいる屋敷で交霊会が開かれ、過去に船の事故で亡くなった叔母より、何かを返せとお告げがある。サタースウェイトは彼女達を知っており、とあるテストをしてみたが、本人達しか知り得ない事を知ってた。結末はクリスティお決まりパターンだったが、現状に至るまでのプロセスに現実味が無く、リアリティの面では難しい作品だ。犯人の結末も雑に感じてしまった。
     クインはサタースウェイトの事を面倒になったのかなぁ(笑)何か裏がありそうだ。
    ヘレンの顔
    オペラハウスでサタースウェイトとクインは再会する。クインは探偵役というよりは超優秀なワトソンなのかも知れない。余りに美しい女性を見つけて二人が興味を持ち彼女と連れの男性の後を追いかけていく様には笑ってしまうが、それ程の美女だったのだろう。彼女達にもう一人の男性が加わり、サタースウェイトは嗅覚を発動するが、クイン曰く何かがあった場合、それはサタースウェイトの事件だと告げて何処かに消えてしまう。
     女性をめぐり男性同士トラブルがあり、サタースウェイトが彼女の救済にはいる。後々結ばれる側の男性と別れを告げられる側の男性。そして女性に訪れる危機。トリックはある程度有名な知識なのだが、実際ラジオでできるのかは難しいところだ。
    死んだ道化役者
    第一作目のパロディになっており、今度はサタースウェイトが客人達を促し過去の殺人事件の真相を探る。いつの間にかクインも現れており、ワトソン役を演じる。きっかけが面白く、とある画廊で出会った絵画。サタースウェイトが知っている屋敷を舞台にクインそっくりな人が倒れている構図。彼が購入した後にそれを買いたい夫人とモデルの屋敷の夫人も招待し十四年前の事件の謎解きが始まる。解決はその場にいた人達に委ねられ、クインはいつの間にかに消えていなくなっていた。
    翼の折れた鳥
     ロンドンのとある屋敷で交霊会が開かれ、偶々部屋に居合わせたサタースウェイトはクインからのお告げだと言われたものを聞く。その日、サタースウェイトは郊外の屋敷に招待されていたが、寒さ等不快なものを避ける為に断っていたのだが、お告げに因果を感じ招待を受ける事に。
     招待先の屋敷で起こる殺人事件。サタースウェイトは面識のある警察官と話しながら謎を解明していく。ウクレレのトリック描写は丁寧で、分かりやすい。
     ますますクインの正体が謎に満ちてきた。
    世界の果て
     クインのシリーズは不思議な出会いの物語なので、事件の土台がそれに由来していても不思議には思わない(偶然の出会いの筈が、計画的事件等)がギャップは感じてしまう。今回も伯爵夫人、若手の女流画家、舞台女優達がそれぞれ偶然に会合する訳だが、実はそれぞれにとある窃盗事件絡みの接点があり、その真相こそがそれぞれの人生の道筋を照らす。今回もクインは目立たないが、サタースウェイトを導いた。
    道化師の小径
     結末はよくわからなかったが、サタースウェイトとクインの物語はひとまず落ち着く事になる(クインシリーズがもう一編あるのは知っていて、楽しみだ。また、ポアロシリーズにサタースウェイトが登場していた事は完全に忘れていた)
    とあるダンサーの話。人々を魅了する様なダンサーだが一方でバレェを捨てることが苦にならない程の愛情を持って結婚している。とある興行が開かれる予定だったが、ダンサーが事故で怪我をしてしまい、急遽婦人とクインが代役を務める。
     結末はとても寂しいが、悲哀の物語として素晴らしい。

    今作は実はクィンがワトソン役、サタースウェイトが探偵役と捉える方がしっくりとくる。優秀なワトソンが人間観察が得意なサタースウェイトにヒントを出して解決に導く。更に作中通して何か超世界的な雰囲気を纏い、独創的な作品にしている。ある意味でクリスティの他作とも違った世界観をしており、シリーズの長編を読んでみたかった願望がある。ポアロシリーズに続き、クインのシリーズも誰か描いてくれないかなぁ。
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    投稿日:2023.09.20

  • クーコ

    クーコ

    ポアロとはまた一風変わった作風。

    突然現れるクィン氏。
    彼自身が謎を解く訳ではないけれど、出会った人に大きな変化を与えるクィン氏。
    幻想のような不思議なミステリーです。

    投稿日:2023.04.14

  • daifukuomochi

    daifukuomochi

    このレビューはネタバレを含みます

    サタースウェイト氏、いいキャラだった 三幕の殺人の前に読めてたらさらに楽しめたな〜読み直すべき?
    クィン氏のことをいつも気にしていてちょっとのことですぐ連想したり、会えたらテンション爆上がりなのよかった

    でもほとんどの話が難しくて理解できなかった… 最後の話クィン氏がピエロになって踊りだすのが一番謎だった どういうことなの すぐいなくなっちゃうし

    ラジオを聞いてほしいって言ってくる話がおもしろかった

    友達が中学生の頃アガサ・クリスティにハマって、歌声で窓ガラスを割りたいと修行しだしたのはこの短編集のせいだったのかも

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    投稿日:2022.06.07

  • tanaka9999

    tanaka9999

    2004年発行、早川書房のクリスティー文庫。12編。謎のクィン氏と人生の観察者サタースウェイト氏の物語。短編だけに、登場人物の関係を理解する必要がある。西洋の人はどうも登場人物の把握がうまくいかない。しかし、把握さえできれば不思議な雰囲気があり、かつ明かされる真相も結構意外であり、かなり面白い。

    収録作:『クィン氏登場』、『窓ガラスに映る影』、『「鈴と道化服」亭奇聞』、『空のしるし』、『クルピエの真情』、『海から来た男』、『闇の声』、『ヘレンの顔』、『死んだ道化役者』、『翼の折れた鳥』、『世界の果て』、『道化師の小径』
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    投稿日:2022.05.21

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