【感想】重光葵 上海事変から国連加盟まで

渡邊行男 / 中公新書
(3件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
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  • sasha89

    sasha89

    重光葵は戦後の政治家としてよりも戦前・戦中の外交官としての
    方が存在感があるんだよな。

    本書は重光葵の回想録や手記からの引用が多用されているので、
    人物を描くと言うよりも重光の目を通した外交史の一面というとこ
    ろかな。

    1932年の上海事変後には駐華公使として中国との停戦協定締結
    の為に奔走する。締結間際の天長節の式典での爆弾攻撃で右脚
    を失うことになるのだが、手術直前に停戦協定に署名する。

    駐ソ公使としてモスクワに赴任した時には日独防共協定直後という
    これ以上ないほどの悪いタイミングだし、吉田茂の後任として駐イギ
    リス大使として赴けば日独伊三国同盟締結。

    ヨーロッパ情勢を分析して「日本はヨーロッパの戦争に介入しては
    いかん」と再三日本へ書き送っていた重光にしたら、「何してくれて
    つんだ、松岡外相」って心境だったのだろうな。

    それでもイギリス・チャーチル首相との関係は良好だったようだから、
    これはひとえに重光の人柄があったのだろうと思う。

    重光行くところ難題ありって感じの外交官生活なのだが、どこに赴任
    していようと国際感覚とバランス感覚を失わず、軍部主導に傾いて
    いくことを軌道修正しようとしていたのが分かる。

    それが東條内閣・小磯内閣で外相になった際の、スウェーデンを通し
    ての和平交渉の模索だったのではなかろうか。

    歴史に「もし」は禁句だけれど、この時の和平交渉が後任の東郷外相
    に継続されていたらなら終戦はもう少し早かったのかもしれない。東郷
    外相はソ連ルートを模索していたが、結局ソ連に拒否されるのだから。

    そして、重光葵と言えばミズーリ号上での降伏文書調印だが、これも
    各人が責任の押し付け合い。軍部は「軍人にとっては自殺に等しい」
    と言い、政治家は「政治生命の終焉」ととらえた。

    重光自身は近衛文麿が適任と思っていたようだが、その近衛も「陛下
    に聞いて来るね」と言って責任逃れ。結局は昭和天皇のご意向で重光
    と梅津大将に大命が下るのだが。

    戦中も何度か昭和天皇へ海外状況などを報告している重光だから
    こそ、昭和天皇の信任も厚かったのかもしれない。

    「不名誉の終着点ではなく、再生の出発点である」

    降伏を不名誉ととらえた多くの軍人・政治家と、重光の捉え方が大きく
    違ったのも興味深い。

    外交官の視点での太平洋戦争なので、重光葵の生い立ちにはまったく
    触れられていないのが少々残念。「欠点がないのが欠点」と言われた
    人となりが知りたくなった。
    続きを読む

    投稿日:2017.08.24

  • 777Gooodman

    777Gooodman

    外務大臣として、無条件降伏の文書に署名を残し、戦犯として巣鴨で服役、その後、戦後の国連加盟に際し、国連総会の場にて、外務大臣として演説をされた重光さんの伝記。一読の価値あり。
    更に、重光さんを良く知りたい方は、
    湯河原にある、重光さんの記念館へどうぞ。

    http://contra99.ojiji.net/

    ドイツ空襲に見舞われている戦時下の倫敦にて、あのチャーチル首相と並んだ写真を見ることもできます。
    続きを読む

    投稿日:2012.03.27

  • のり

    のり

    和平に調整役として東西に奔走しつづけた
    老練外交官の足跡。
    日本の降伏文書に調印した首席全権として
    有名な重光葵は、戦前・戦後を通じて、和
    平の調整役として東西を奔走しつづけた人
    であった。その足跡を、残された膨大な手
    記、回想録を基に辿る。
     序 章 
     第一章 隻脚公使
     第二章 外務次官、対華問題
     第三章 雪のモスクワ
     第四章 霧のロンドン
     第五章 戦時の外相として
     第六章 ミズーリ号への道
     第七章 巣鴨獄窓日記
     第八章 改進党総裁、保守合同
     第九章 日ソ交渉、国連加盟、終焉
     あとがき

    本書は、副題にもあるとおり、上海事変か
    ら国連加盟までの、重光の足跡を辿った本
    である。著者は「重光の真面目は戦前・戦
    中期の外交官、政治家としての活動にあっ
    たと思う。戦後の政治家としての重光は不
    遇であった」と言い、本書でも戦後政治の
    部分はわりに薄くしたという。という訳で
    戦後の政党政治家としての重光を知るには
    不十分かもしれないが、あらましを辿るこ
    とは可能である。

    伝記は、本人の手記とは視点が異なり、視
    野も広がるのが面白い。有名なわりにその
    人物を知らなかったが、終戦時のキーマン
    であったことがわかり、認識を新たにする
    ことができた。
    続きを読む

    投稿日:2012.01.09

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