【感想】ぼくの大好きな青髭

庄司薫 / 中公文庫
(7件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
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ブクログレビュー

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  • koshouji

    koshouji

    ───レビューではありません。この本にまつわる思い出です。

    1977年、大学1年の夏、僕は仙台の実家に帰ったのも束の間、とんぼ返りで東京に戻り、学生会館のサークルの部室でギターを弾きながら歌っていた
    多くの学生が帰省して人のいなくなった南青山の学生寮で9時過ぎに目覚めると、飯も食べずに、特に目的があるわけでもないのに大学に行き、夏休みで誰も来なくなった部室に毎日のように入り浸っていた。夕方には早稲田通りの古本屋を一軒一軒覗きながら、高田馬場までの道のりを散歩がてらのんびりと歩いた。

    ある日、僕と一緒にそのサークルに入部した女の子が部室の扉を開け、顔を覗かせた。   
    僕の顔を見ると驚いたように目を丸くして
    「あれ、〇〇君、何してるの?」と訊いてきた。
    「寮の友達はみんな田舎に帰っていないし、暇なのでここに来てギター弾いてる」
    「ふーん」
    その後、どんな会話を交わしたのか記憶は曖昧だが、最近どんな本を読んだ? という話になった。
    そこで、僕も彼女も庄司薫の大ファンで、発売されたばかりの「ぼくの大好きな青髭」を読んだということが分かった。

    庄司薫は、五木寛之と並んで高校時代の僕に多大な影響を与え、東京行きを決意させた二大作家の一人だ。
    (大学1年の夏休みは、作品の舞台になった日比谷高校や山王神社にも行ってみた)

    突然、彼女が言った。
    「小説とおなじことしようよ」
    「何それ?」
    「紀伊國屋で待ち合わせして、2階のブルックボンドでお茶を飲もう」
    たしかに、小説の中には主人公の薫くんがそんなことをする場面が出てくる。
    「面白そうだね」
    それから、二人で新宿の紀伊國屋書店に行く日と時間を決めた。数日後、僕らは本当にそれを実現することになる。
    僕にとっては、女の子と二人で親密にお茶を飲むという一般的に“デート”と呼ばれる、生まれて初めての経験でもあった。
    今でも紀伊國屋書店に喫茶店「ブルックボンド」はあるのだろうか?

    手元にある『ぼくの大好きな青髭』の帯(昭和52年7月25日発行の初版本)にはこう書かれている。

    ───若者の夢が世界を動かす時代は終ったのか。月ロケットアポロ11号の成功の陰で沈んでいった葦舟ラー号。熱気渦巻く新宿を舞台に現代の青春の運命を描く───薫くんシリーズ完結編!

    :庄子薫の芥川章受賞作「赤頭巾ちゃん気をつけて」についての小さなトリビア

    この作品は芥川賞受賞の翌年、ベストセラーとして話題になったことで映画化され、主人公の「薫」は岡田裕介、女友達の「由美」を森和代が演じた。
    この二人は後に、小椋佳のデビューアルバム「青春」とセカンドアルバム「雨」のレコードジャケットに、“現代の若者”を象徴する二人の男女として登場している。
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    投稿日:2015.08.23

  • 777na

    777na

    中学生くらいの時に、家にあった母の本をさらさらっと斜め読みしたのが、薫くんとの出会い。

    久々に会った薫くんは、変な格好で本屋に向かっていた。何してん。そこから当時の若者たちの最先端(!?)な濁流に呑み込まれていく。

    今の政治的無関心とか、まぁそこそこ自分が楽しければいいや、とは違う。若い人たちが何かできる!とがむしゃらになって夢を追い、敗れ…日本変わったな!平熱が低い私には、たまにはこういう暑苦しいのが必要か。

    ライトノベルはこんな感じで始まったのかなぁ。薫くん独特の言い回しやこだわりがくどいけど、憎めない1冊だ。
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    投稿日:2013.08.08

  • bknato

    bknato

    このレビューはネタバレを含みます

    再読どころじゃないな。再々読、再々々読くらいはしてるかも。
    薫クンシリーズ最終作。

    「若者、いかに生きるべきか?」と問いかけてきたシリーズの
    総決算にふさわしい、ちょっとビターな作品です。

    舞台は新宿。夏のとある1日。
    薫クンは付けヒゲに虫カゴ、虫取り網なんて珍妙なカッコで
    紀伊国屋に現れます。
    今なら「なんのコスプレよ? ここアキバじゃないんだけど」
    「わー。ヤバイ。ヤバイ人がいる。突然刺されたりすると怖いなー。
    近づくまい」あたりの反応でしょうが、小説の時は1969年。
    ヒッピー文化まっさかりの新宿では、
    「ハンパな個性に自信を持っちゃって! この田舎者がっ」
    という視線になるみたい。
    冷たい反応という点では現代とあんまり変わりません。
    で、読者としても「薫クンやっちゃったねー」なんて
    ニマニマ読んでいると、すぐさま、そんな薫クンの格好には
    「友達」と呼ぶにはあまりに遠く、印象の薄い同級生の自殺未遂が
    関わっているらしいとわかり、あわてて姿勢を正し、ぐーっと物語に
    引き込まれるというワケです。

    1969年の新宿といったら、そりゃあもう、
    若者の熱気がすごい場所だったのだろうと容易に想像がつきます。
    学生運動が【犯罪】になってしまった連合赤軍の立てこもりが
    1972年ですから、
    「僕らが世界(政治・国)を変えられる!」と若者が信じていた
    最後の時代なのでしょう。
    だからこそ、そこで描かれる若者の夢と挫折には否応なく
    説得力があるわけです。

    実際の世相でもあるアポロ11号の月面着陸と
    大西洋横断中に沈没してしまったパピルス製の葦舟ラー号を
    対比させることで、
    商業や経済をにぎり、情報を操作をする大人の社会と
    純粋な夢や理念で立とうとする若者のコミューンを表す。
    その着眼点のわかりやすさ、見事さ。
    あの薫クンの饒舌文体とあいまって本当にほれぼれしちゃう。
    サラサラ書いているように思えて、本当に緻密な小説なんだと思います。
    だって、この本が完成したのって1977年なんですよ。
    今という時代に起きていることが結局なんなのか?
    熟考を重ねて、さらに小説という形に構築しなおすのに、
    ほぼ10年かかったわけです。そりゃ緻密にもなるわ!

    青髭とはナニモノなのか? そんなナゾを残したまま物語は進み、
    疲れきった薫クンが見知らぬ女の子と夜中の新宿御苑に
    忍びこむシーンは本当に美しい。
    薫クンは、心がぺちゃんこになったり、あるいは猛り狂ったり、
    もう何もかも「いやんなっちゃう!」ギリギリの状態を、
    理性と知性をフル稼働させて持ち直し、健やかな心を取り戻していく。
    そのたくましさこそが「若さという名の美しさだな」といつも感服して
    読了します。
    そして本を閉じた時に『ぼくの【大好きな】青髭』というタイトルが
    目に入り、その深い意味を感じて、また泣くという・・・


    たぶん何年後かにまた読むと思います。

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    投稿日:2012.02.24

  • takeshi7

    takeshi7

    20年以上前の高校3年生の時に、それまで運動部で
    本などろくに読んでいなかった僕に友人が
    「赤ずきんちゃんー」を貸してくれて一気に4部作を
    読みました。その後の僕の人生観に影響を与えて
    くれたし、4部作のなかでも青髭が一番好きです。
    当時は、庄司薫を読んでいる人はそれなりにいたけど、
    最近はほとんどいないのが残念。
    是非、若い人に(高校生くらいの人に)、 赤から順番に
    読んで欲しいです。だまされたと思ってでも。
    続きを読む

    投稿日:2012.02.11

  • shirobe55

    shirobe55

    四部作で一番面白い。他人を見ているつもりで他人に見られている、という構図が秀逸。普段暴れ回る小林や由美が、主人公の故郷みたいな優しい印象になっている所も好きです。

    投稿日:2011.09.01

  • rena

    rena

    薫くん四部作読了!4巻の中でこの巻が一番濃かったなぁ。サカナヤって何よ!?内田樹先生の「邪悪なものの鎮め方」に、邪悪な状況を生き延びるには「ディセンシー(礼儀正しさ)」、「身体感度の高さ」、「オープンマインド」とあったけど、これって薫くんのような気がしたよ。続きを読む

    投稿日:2010.05.06

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