あの夏が教えてくれた
アレン・エスケンス(著)
,務台夏子(訳)
/創元推理文庫
作品情報
ボーディはミズーリ州の田舎町で暮らす15歳の少年。父を亡くし母親と淋しい日々を送っている。高校に馴染めず、友達は一人もいない。静かすぎるその町で、最近大事件が起きた。町最大の企業〈ライク工業〉に勤める黒人女性が、不審な失踪を遂げたのだ。そんなとき、ボーディが慕う隣人ホークを保安官が訪ねてくる。女性は実はホークの知人で、ふたりのあいだには噂があったという。思いがけない事件が、ボーディの日常に不穏な影を落とす―。現実に悩みつつ、少年は鮮やかに成長する。『償いの雪が降る』の著者が贈る、心震える青春ミステリ!/解説=古山裕樹
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商品情報
- シリーズ
- あの夏が教えてくれた
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元推理文庫
- 書籍発売日
- 2024.03.29
- Reader Store発売日
- 2024.03.29
- ファイルサイズ
- 1.2MB
- ページ数
- 398ページ
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この作品のレビュー
平均 4.5 (3件のレビュー)
-
ボーディは田舎町で暮らす15歳の少年。父を亡くし母親と寂しい日々を送っている。高校に馴染めず、友達は一人もいない。静かすぎるその町で最近大事件が起きた。町最大の企業に勤める黒人女性が不審な失踪を遂げた…のだ。捜査中の保安官が、ボーディが慕っている隣人のホークを訪ねてきた。女性はかつてホークの部下で、ふたりのあいだには噂があったという。思いがけない事件が、ボーディの日常に不穏な影を落とす――。現実に悩みながらも、少年は鮮やかに成長する。『償いの雪が降る』の著者による心震える青春ミステリ!
翻訳四作目。今回も良作。少年たちの一夏の冒険記かと思いきや、そうではありませんでした。続きを読む投稿日:2024.04.04
著者アレン・エスケンスは、元は弁護士であったが後に作家となった人である。2019年翻訳され話題となった『償いの雪が降る』から四作目となる本書は、ダブル主人公で描かれた第三作『たとえ天が墜ちようとも』…で主人公の一人を務める弁護士ボーディ・サンデンの少年時代を描いたものである。
冒頭に作者による注記があり、この作品は1991年に書き始められたが完成を見ず、その後既存の5作品(邦訳は3作品のみ)の後に、再度チャレンジして書き上げることができたという、ある意味、作家人生を賭けた渾身の力作であり難作であったらしい。
本書の主人公は前期の通り少年時代、つまり15歳のボーディ・サンデンである。と同時にこの作品の主人公はボーディの暮らす田舎町ミズーリ州ジェサップであるのかもしれない。最近、アメリカの古い時代を描いた小説のほとんどは人種背別や偏見をテーマにしているのではないか、と思われるくらい同じ課題にぶち当たることが多いのだが、本書はその中でもかなり先鋭的なくらい人種の壁や偏見を重視しているヘイトクライム小説と言って良いかもしれない。
主人公ボーディ自ら知ってか知らずか、偏見を心の中で温めて育っていたことが言動から垣間見られるが、本心は優しい少年である。彼は父を事故で亡くし、母と二人暮らし。飼い犬と隣人のホークという老人が少年の家族のような存在であり、自然たっぷりの田舎町で本来は幸せな少年時代を過ごしているが、学校の教室に唯一いる黒人少女へのクラスメイトの悪戯をきっかけにボーディは偏見との対立をスタートさせる。
同時に改装の進む向かいの空家に黒人一家エルギン家が引っ越してきたことがボーディの人間性をさらに複雑に進化させる。その一方でボーディは敵対的存在となるクラスメイトその他の集団の威嚇に苦しめられるようになる。大人たちの対立、家族単位での犯罪や、依存する地元企業での配置転換などが絡んで、ボーディは差別や対立という構図をさらに深く考え悩むようになるが、村のヘイト集団はその時間を許さず彼とエルギン家にじわじわと攻撃の手を伸ばしてくる。
物語の発端で語られる女性の失踪事件は、物語の進行にどう関わってくるのか中盤まで不明なのだが、後半部になるとその事件の実態も進展がありジェサップという田舎町の見えざるヘイト・クライムやその背後にさらに重なる利権や汚職の問題と絡み合ってボーディの日常を不穏に変える。
最初は弱々しい主人公であった少年が、隣人のホーク老人に導かれるようにして、母を守り助ける存在として、そして黒人少年トーマス・エルギンとの友情を深めることによって人種対立と闘い、成長してゆくのが本書の根幹である。
『全体はミステリ色でありながら、ほとんど冒険小説と言っていい。男の矜持。気位。そして人生の傷の深さと、再生へ向かう意志と友情。そうした人間的な深き業と逞しさとを含め、時にダイナミックに、時に静謐に描かれた、相当に奥行の感じられる物語である。最近、冒険小説の復権を思わせるこの手の小説が増えてきた。シンプルに喜ばしいことだ、とぼくは思う』
自分で書いたこの作家のデビュー作に関する感想が、実はその後のどの作品にも当てはまるので、本書にもこれを記しておきたいと思う。本書の15歳の少年は、その後の作品で法廷弁護士として主人公を勤めることになるが、そのきっかけになったのが本書の事件である。とりわけエンディングは読みどころである。熱い血の通ったこのような小説を、一人でも多くの世界中の読者に読んで欲しいと願ってやまない。続きを読む投稿日:2024.05.07
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