サラゴサ手稿(中)
ヤン・ポトツキ(作)
,畑浩一郎(訳)
/岩波文庫
作品情報
「僕は貴族の生まれです.下僕には身を落とせません」──スペイン山中で族長がアルフォンソたちに明かす波瀾の半生.シドニア公爵夫人の秘密,厄介者ブスケロスの騒動,神に見棄てられた男の悲劇など,物語は次なる物語を生み,時に語り手も替えつつ,六十一日間続く.ポーランドの鬼才ポトツキが残した幻の長篇,初の全訳.(全三冊)
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商品情報
- シリーズ
- サラゴサ手稿
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波文庫
- 書籍発売日
- 2022.11.15
- Reader Store発売日
- 2024.02.22
- ファイルサイズ
- 6.1MB
- ページ数
- 442ページ
- シリーズ情報
- 既刊3巻
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この作品のレビュー
平均 4.4 (8件のレビュー)
-
騎士アルフォンソの手記の中に、彼に物語る人々の語りが入れ子入れ子で組み込まれていく物語。
語る人々は、幽霊だか人間だかわからん美女、ジプシー族長、カバラ学者、悪魔に取り憑かれた狂人、政略渦巻く上流社会…に属する人々、神に見捨てられた巡礼者、人のゴシップを掘り出しのし上がる厄介者…。彼らも民族も宗教も、キリスト教徒、ユダヤ人、スペインのイスラム教徒など多岐にわたる。
出てくる人たちはなぜか美男美女ばっかり(笑)。特に男性陣は「盗賊」「ジプシー老人」と書かれているので野性的なおっさんを想像していたら「美しい男」だの「少年の頃女装して人を騙してた」とか、なんかお耽美な人たちだな 笑
彼らが語る内容も多岐にわたる。地方に伝わる伝説、幽霊や化け物の伝奇譚、ロマンス、宗教の教え、宗教の違い、カバラ学術と哲学(カバラのほうが上位で哲学者と言われるのは心外らしい)、旅の楽しさ、地方の歴史、色ごと、政治工作…。直接は語られないのだが、アルフォンソが滞在している山間の自然描写も良い。
【第三デカメロン】(21日目〜30日)
アルフォンソは、エミナとジベデの存在を近くに感じながらもジプシー一団のもとに留まる。カバラ学者の妹レベッカは、天上のお告げよりも現世を大事にしたいと、カバラ秘術の勉強を辞めるといってジプシー一団に合流する。
二人はジプシー族長の話を楽しみにしている。
「第三デカメロン」は、ジプシー族長が語る話、の中に出てくる人から聞いた話、の中に出てくる人が語る話、と、入れ子入れ子入れ子方式。しかも話に出てきた人たちが「実は繋がりがあった」ことが判明するので、読者としては、自分が誰が誰に語った話を読んでいるのか把握していないといけないんですよね。
❐ジプシー族長:
異端審問に掛けられそうになったアバドロ少年(後のジプシー族長)は修道院から脱出する。大人たちがうまく取り計らってくれて二年間の謹慎で済むことになったので、物乞い少年としていたずらと自由の日々を謳歌することにした。
彼の考えでは「貴族の生まれである自分は、他人の下僕にはならない。物乞いは自分の身分を汚すことのない稼業だ。」物乞い少年時代の名前はアバリト。
以下はジプシー族長が出会った人たちから聞いた話。
❐シドニア公爵夫人:
(過去)両親の代から、自分の幼い頃の話。自分の乳母ラ・ヒローナ、その息子エルモシトとの幼年時代。父の親友シドニア公爵と結婚したが、エルモシトとの不義を疑われてしまったこと。
(話当時の現在)シドニア公爵はエルモシトを殺し、ラ・ヒローナがシドニア公爵を毒殺したこと。
❐女好きのトレドの騎士:
物乞いアバリト少年(ジプシー族長)の利発さを気に入り小僧として使う。目下の恋人はウスカリツ夫人。だが親友が死に、その亡霊から警告を受け、修道院に籠もった。
❐貿易商の息子ロペ・ソアレス:
(過去)貿易商のソアレス家と、銀行家モロ家の因縁話。祖父の時代から、なんかギャグですか?というような行き違いすれ違いを繰り返している。
(話当時の現在)しかし自分が恋したのはモロ家の娘イネスだった!そんなとき押しかけ従者(?)ブロスケスが現れたこと。
❐ブスケロス:
人の秘密を探りみんなに言いふらすことを何よりとして、そして成長した今は金持ちの太鼓持ちになり楽して暮らそうとしている。
彼の話は相当イライラするんだが、案外周りの人たちは便利に協力を求めている。「仕える」と言いながら偉そうで集ってくるやつってこの時代にそれなりにいたのかな。
トレド騎士が受けたと思った亡霊からの警告は勘違いだと分かり、トレド騎士は張り切って女遊びの道に戻ってくる!
トレド騎士やブスケロス達の仲立ちによりロペ・ソアレスと、イネス・モロは結婚することができた。
多くの人のおせっかいお芝居が真面目に不真面目に大袈裟というか、まあこの時代は他人へのおせっかいにより社会が成り立っていたんだな。
【第四デカメロン】(31日目〜40日目)
アルフォンソは、シャイフの手下たちが自分を取り囲み、みんなで自分をイスラム教徒に回教させようとしてないか?と思いながらも、まあ豪胆で若いので現状をそれなりに楽しんでいる。
シャイフとゴメレス一族のまとめ。
スペインのイスラム社会のシャイフ(宗教的・公共的な長老・首長)は、秘宝を守っているという噂がある。シャイフを守る主だった一族の一つがゴメレス一族で、シャイフの秘密を守っている。アルフォンソの母もゴメレス一族の出身。そして現在アルフォンソに近づいているのはエミナとジベデという二人の美女。
盗賊ゾト、ジプシー族長も、シャイフを守る一団のメンバーらしい。ユダヤ人のカバラ秘術研究ウセダ一族もシャイフ一団に関係あるみたい??
そんなアルフォンソと、カバラ秘術研究を辞めたレベッカは、ジプシー一団のキャンプにいて、族長の話を楽しんでいる。
以下族長の話。
❐フラスケタ・サレロ、またはドニャ・フラスケタ・カブロネス夫人、実はもう一つの名前がある。(ブスケロスが、彼女から聞いた話をトレド騎士とアバリト少年に話す):
(過去)独身時代の話。アルコス公という女装が似合う公爵に求愛されたこと。
(話当時の現在)それぞれ結婚したが、まだ会ってるってこと。だってフラスケタ・カブロネス夫人の夫は、隣の御夫人を信頼して目付役にしたんだもの。その御夫人がアルバロ公その人だって気が付かずにね!
…なんか楽しそうだな(笑)。
他の人の話で、夫は自分の妻が不義を「疑われた」というだけで、自分の名誉をなくされたとして妻を追放する事が出てくる。それならお互いに結婚してるけどじ、女装した恋人と夫の前でデートするの★って、むしろ前向きだ(笑)
❐フラスケタの夫のカブロネス氏(ブスケロスが、彼のことをトレド騎士とアバリト少年に話す):
妻にベンナ・ブロスという伯爵からラブレターが届き気が気でない。そこでベンナ・ブロス伯爵殺害を依頼したが、その幽霊に悩まされる。でも実はベンナ・ブロス伯爵やら殺し屋やら司法官やらは、アルバロ公がカブロネスを錯乱させるために仕掛けた<観念的存在P233>だった。しかもカブロネス氏が見たと思った幽霊は、実はたまたまそこに現れたブスケロスで、この出来事によりブスケロスとフラスケタ・カブロネス夫人が知り合った。
❐カブロネス氏が知り合った、神に見捨てられた巡礼者のブラス・エルバス(ブスケロスが、彼のことをトレド騎士とアバリト少年に話す):
父のディエゴはすべての知識を100巻の書に記して出版して有名になろうとしたが、ギャグのような不運続き、いや本人には大真面目なんだが、とにかく肝心なところで行き違いまくってその書物は破壊された。ディエゴは無神論者になり自死した。<人々は、われに霊があると言い、われは肉体を犠牲にしてまで、その魂と取り組んだ。(…中略…)あとには何も残らないだろう。われはこのまま亡びる。生まれてこなかったの大人軸、世に知られぬままで。虚無よ。お前の餌食を受け取るが良い。P271>
息子のブラスは、サンタレス家の未亡人イネスと二人の娘セリアとソリアと知り合う。そして「ゲヘナのベリアル」といういかにも怪しい名前(地獄の悪霊、みたいな)を名乗る貴族に気に入られ金やら媚薬やらをもらう。まあ想像通りの展開になり、ブラスは悪魔に魂の契約をしてしまう……
…と思ったら、天使が現れ「神に見捨てられた印を持つ者を救いなさい」と言葉をくだされる。
だから巡礼になった。そしてカブロネス氏に「神に見捨てられた印」を見つけた。昔救ったトラルバ騎士分団長の話をして、カブロネス氏にも巡礼を勧める。
…あれ?ベンナ・ブロス伯爵に取り憑かれているようなこと言っているけれど、ブロス伯爵って「観念的存在」じゃなかったっけ(ーー)??
❐トラルバ騎士分団長:
巡礼守護隊にいた頃の風習とか、国によって兵士の気質の違い。遊ぶ女性を巡ってフールケールという男を決闘で殺したが、彼の亡霊に取り憑かれてしまった。ブラスが彼を巡礼に行くように説得し、亡霊から解放された。良かったね。
※なおこの話は、トラルバ分団長が神に見捨てられた巡礼者に話し、その話を神に見捨てられた巡礼者がカブロネスに話し、その話をブスケロスがトレド騎士とジプシー族長に話し、その話をジプシー族長がアルフォンソたちに話している、という状況です。本文でも<トラルバ分団長はここで話すのをやめた。いやむしろ、神から見捨てられた巡礼者が、ここで運団長の話をカブロネスに語るのをやめたのだ。そして巡礼者は次のように、自分自身の物語を続けた。P331>って書いてある(笑)。わけわからんかもしれないけれど、これが案外読みやすいってどういうことよ(笑)
ここまでで、トレド騎士の恋人ウルスカツ夫人が、実はフラスケタ・カブロネス夫人だと明かされる!!
カブロネス氏は巡礼で死んだ。未亡人フラスケタ・カブロネス夫人はスペインのサラマンカで暮らし、女装の恋人アルバロ公はロンドン大使になった。(ん?別れたの?)その後フラスケタは再婚してウルスカツ夫人となった。
ここでジプシー族長本人の話に戻る。
ブスケロスは、自分の親族の女性をジプシー族長の父親であるドン・フェリペ・アバドロと財産目当てで結婚させる。ドン・アバドロは、ブスケロス一族に精神を喰い尽くされたかたちで死ぬ。ジプシー族長は物乞いのアバリト少年から貴族の子息ホアン・アバドロに戻り、自分の相続分だけ受け取り、マルタ騎士団員に序列される。
第四デカメロン終盤は、青年騎士なったジプシー族長(ホアン・アバドロ)の恋物語。かつて交流の合ったトレドの騎士とは対等の立場で友情を結んだ。そしてアビラ女公爵へ崇拝と恋を捧げるようになる。この恋愛進行は手が込んでいて読んでいてちょっと楽しい 笑。続きを読む投稿日:2023.07.11
そろそろ、誰が何を語っているのかメモをとったほうが良いかもと思いつつ族長の話を聞く日々。そして解説を見るに1804年版も読んでみたい
投稿日:2023.06.16
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