左川ちか詩集
川崎賢子(編)
/岩波文庫
この作品のレビュー
平均 4.5 (4件のレビュー)
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左川ちか(1911.2.14~1936.1.7)
北海道出身の詩人。
19歳で最初の詩「昆虫」を発表。
え!?これが最初の詩なの?
さぞや詩壇は沸いたことだろう。
けれど病に倒れ、24歳で亡くなった。…
knkt09222さんのレビューから読みたくなり、すぐさま購入。
表紙も素敵だった。
よくよくレビューを拝読してから挑んだのだけど、難しかったなー。
ただ、突如放り込まれる冷徹さにドキリとさせられる。
「青白い夕暮れが窓をよぢのぼる。
ランプが女の首のやうに空から吊り下がる。」
であるとか、
「夕暮が遠くで太陽の舌を切る。」
であるとか、
「その時私の感情は街中を踊りまはる
悲しみを追い出すまで。」
であるとか、
鋭い感性に心が揺さぶられる。
左川さんは見たこともないような切り口で、情景を切り取る。
幾つかの詩の"踊る"とか"まわる"、"ステップを踏む"という文字が目に留まる。
足掻きながらも懸命に"生きること"を"踊る"と表現しているのだろうか。
踊り狂うことで、"生"を実感しているような。
加えて、緑色と青色が沢山登場する。("殻"も何度か登場する)
別の資料で、左川さんは"視力が弱くて、春先は必ず眼をいためて通院していた"と知った。
それについては『暗い夏』でご本人も明記している。
弱い視力で見渡す緑や青の世界は、彼女に様々な別の景色を見せたことだろう。
けれど時にそれら緑や青の押し寄せる波に、左川さんは溺れそうに見える。
緑と青の関係は………?
調べると、色弱の人は緑色が見えにくくても青色は認識できるとのこと。
「両側の硝子に燃えうつる明緑の焔で私たちの眼球と手が真青に染まる。」
とは、そのことか?
『暗い夏』は少しだけヒントを与えてくれたけれど、まだまだ分からない。
『春』
「亜麻の花は霞のとける匂がする。
紫の煙はおこつた羽毛だ。
それは緑の泉を充たす。
まもなくここへ来るだろう。
五月の女王のあなたは。」
冷徹な表現がないこの詩にホッとしてしまい、初めは美しく穏やかな春の光景だと思っていたが、違うのだろうね。
だって前述を踏まえると、
春がくれば眼が悪化して緑は認識できなくなってしまう。
きっと紫も。
女王の権力は絶対的だ。
猛威を振るう女王に逆らうことは出来ず、
ハッキリと認識出来るのは黄色や青色、茶色になってしまう。
そのことを詠った詩に思えてきた。
春になると見えなくなる緑色。
視界の中で存在感を増す青色。
だからこそ、彼女の詩には意識的に緑や青が多く登場するということか?
Wikipediaには"死や衰えのメタファーを用いるのが特徴"とあった。
例えば、
「料理人が青空を握る。四本の指あとがついて、次第に鶏が血をながす。ここでも太陽はつぶれてゐる。
たずねてくる空の看守。日光が駆け出すのを見る。」
などがそれにあたるのか。
これらのフレーズは『死の髯(ひげ)』と『幻の家』とで繰り返される。
『幻の家』が改作とのことだが、刊行者の覚え書によると「思うところあって二者とも収載した」とのこと。
『海の天使』と『海の捨子』でも、また別のフレーズが繰り返される。
こちらも改作なのだろうか?
"私"と詠まれている詩もあるが、"彼女"や"少女"という言葉が使われている詩も多々ある。
"彼女"や"少女"も左川さんのことではあるのだろうけれど、三人称を使うことで、彼女たちは左川さんの代弁者として詩の中に存在するのか?
先日読んだ宮沢賢治の詩は、リズミカルだった。
声に出して読みたいくらいに。
左川さんの詩は、リズムを保たない。
だからその分、私は1つ1つの言葉を噛み締めるようにしっかり読んだ。
これが本当に19歳~24歳の女性の詩なのかというくらい、
成熟した人間を思わせる詩だった。
中澤系の歌集を読み終えた時にも似た、すごいものを受け取ってしまった感。
『詩集のあとへ』という百田宗治さんの文章の、「林檎の枝はみな左川ちかのように天の方に手を延ばしている」という文章も良かったな。(こちらは百田さんの言葉)
川崎賢子さんの解説の中で、左川さんが恋心を抱いていた相手が、お兄さんの親友であり文学上の師でもある、伊藤整さんだと知った。
失恋したのは彼に対してなのかな?
また左川さんの『海の捨子』だが、
伊藤整さんの詩に『海の捨児』があることも知る。
すごいな。
師に真っ向から挑んでる。
また、"殻"についても解説で触れられていた。
"精神と身体の二元論。み(身・実)の側面と、から(空・殻)を内包するからだとしての側面"とのこと。
この解説、全体的にすごかった。
充実の内容。
最後に読んだ方がいいとは思うが、解説を読むと改めて詩集を読み返したくなる。
疑問符ばかりのレビューとなってしまったけど、とても好きな詩集となった。
読み返す度に深みを増していく自分でありたい。
以下、好きな表現を幾つか。
「人々は空に輪を投げる。
太陽等を捕らへるために。」
「刺繍の裏のやうな外の世界に触れるために」
「春が薔薇をまきちらしながら
我々の夢のまんなかへおりてくる。」
「夢は切断された果実である」
続きを読む投稿日:2023.09.28
りんごは赤くて丸い果実に決まっている、と思って見渡す現実よりも、置いた場所によって変わる色合い、実は赤くなかったり、切らなきゃどんな中身なのか分からない。
周りの自然現象や、自分の感情を楽しく、空想的…に捉えても良いのだなと、読んでいて嬉しく思いました。
若くて瑞々しい感性に惹かれます。
ちかさんは早くに旅立ってしまったけど、遺された詩が彼女自身で、昔の女性の、今より役割や、らしさが重視されていただろう中で、本当の自分はこうなんだ、と生き生き語っているような詩が魅力的です。
最後の方に記載されている小文は、特にこれからも大事に読んでいきたいと思いました。
難しい時もあるけど、余白を感じる心を大事にできたら良いなと思いました。
景色、物事、感情など、身の回りにあるものを直線的に伸ばしてみたり、平行線や垂直線を引いて拡げて見るような感覚の世界。
そんな風に、少し視野を広げて読書したり、生きていけたらなぁ、と思います。
完成された世界よりも、たとえ破綻していても将来性を感じるものの方に魅力を感じるという意見に勇気づけられました。続きを読む投稿日:2024.03.25
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