星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン(著)
,池央耿(訳)
/創元SF文庫
作品情報
月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行なわれた結果、驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。生物学的には現代人とほとんど同じにもかかわらず、5万年以上も前に死んでいたのだ。いったい彼の正体は? 謎は謎を呼び、一つの疑問が解決すると、何倍もの疑問が生まれてくる。調査チームに招集されたハント博士は壮大なる謎に挑む・・・・・・。ハードSFの巨匠ホーガンのデビュー長編にして、不朽の名作。第12回星雲賞海外長編部門受賞作。/解説=鏡明/*本電子書籍は『星を継ぐもの』(創元SF文庫 新装新版 2023年7月7日初版発行)を底本としています。
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商品情報
- シリーズ
- 巨人たちの星シリーズ
- 著者
- ジェイムズ・P・ホーガン, 池央耿
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元SF文庫
- 書籍発売日
- 2023.07.07
- Reader Store発売日
- 2023.07.10
- ファイルサイズ
- 1MB
- ページ数
- 326ページ
- シリーズ情報
- 既刊5巻
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この作品のレビュー
平均 4.3 (66件のレビュー)
-
ハードSFの巨匠ジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』です
ハードSF…なんかエロい(おバカ)
いゃあーゾワゾワした
めっちゃSF!もうめっちゃSF!
SFってこういうことよってのをあらためて…感じました
SF好きを名乗りたいならば絶対に読んでおかなければならない一冊ですよ
確か国連総会で採択されてたはず
まぁ難しいけどね
難しいけど面白いのよ!
今回この名作を手に取ったのは翻訳者である池央耿(いけひろあき)さんが先日お亡くなりになったのを知ったからなんよね
SFやスパイ小説なんかを数多く翻訳された方で、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』は全部持ってました
ブクログ本棚にも池央耿さん翻訳本、何冊か登録されてます
お世話になりました
ご冥福をお祈りします続きを読む投稿日:2023.11.18
【感想】
本書は重厚なSF作品であると同時に新しい形のミステリ作品でもある。ストーリーの根幹はSFでありながら、SF特有の「世界の広がりを追体験していく」ような展開にはなっていない。むしろ世界は5万年…前に既に完成されており、その完成図に含まれる謎を科学的見地から解き明かしていく。パズルのピースを1つずつ拾って組み合わせる作業が本書のメインであり、そこに生じる妙を楽しむ作品となっている。
殺人事件を扱う普通のミステリであれば、主人公の視点から見た事件の叙述がそのままストーリーとなり、謎を解き開かす鍵は目撃者の証言、死体の状況、遺留品といった「作者が用意した証拠」になってくる。
だが、本書における「謎を解き明かす鍵」は、本書を手に取る前から既に知識として読者のそばに置かれている。それは「基礎的な科学理論」だ。解剖学、分子生物学、遺伝学といった様々な分野の知識が出てくるのだが、その下地となっているのは「定理」である。例えば「ウラン235の半減期は7億年」であり、進化論の原則上「別々の進化の系列がある一点に収れんすることは不可能」である。こうした定理は、地球と同一の宇宙に属しているならば、どんな星のもとであっても不変の事実である。このような動かしがたい理論をフル活用することで、得体の知れない異星人の体構造を確認し、居住環境を推定し、星の位置や形状を仮定していく。そのように刻々と謎を詰めていく様子が、普通のミステリとは異なる知的好奇心をそそられるのである。
また、ミステリである以上、読みながら理屈が合わないところが出てくる。私も「ルナリアンって結局どの星の生物なんだ?」とか「ミネルヴァの場所がなんかおかしくないか?」といった疑問が生じていた。そんなときは普通「登場人物が何かしらの嘘をついている」「筆者が狙って曖昧な叙述にしている」というアタリを付けて、ページを遡ったりする。
だが、本書はそうした仕掛けを「科学のシンプルさと宇宙の複雑さ」に巧みに紛れ込ませ、謎を深めることに成功している。鍵は全て「基礎的な科学」の範疇にあるのだが、読者は自らが住む地球の常識に囚われ続け、複雑なストーリーを勝手に作り出してしまう。定理がある。それは間違っていない。ならば「人類史から見た宇宙の常識」が間違っているのではないか、という発想にたどり着き視点を変えないといけないのだが、これが何とも上手くできないのである。常識に囚われない柔軟な発想がいかに大切か、ということをあらためて知ることができた。
本書のラストにはこの宇宙の種明かしがされるのだが、正直かなり突拍子もない話が待っている。普通のミステリでいうなら「犯人は鍵のかかった部屋の扉を幽霊のようにすり抜けたのだ!」みたいなトンデモな結末だ。だが、こうした荒唐無稽な落ちも本書が「SF」というくくりの中で進行してきたおかげで、意外すぎることなく、逆にスッキリ腹落ちするような読後感を得られる。とてもよく練られた構成だと感じた。
従来のミステリの型に囚われない多面的な一冊。SF、ミステリの両方が好きな人はぜひおすすめである。
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【メモ】
歴史上のこの一時期を通じて、20世紀の置土産だったイデオロギーや民族主義に根ざす緊張は、科学技術の進歩によってもたらされた、全世界的な豊饒と出生率の低下によって霧消した。古来歴史を揺るがせていた対立と不信は民族、国家、党派、信教等が渾然と融和して巨大な、均一な地球社会が形成されるにつれて影をひそめた。すでにその生命を失って久しい政治家の理不尽な領土意識は自然に消滅し、国民国家が成熟期に達すると、超大国の防衛予算は年々大幅に削減された。新しい核爆弾の登場は、要するにいずれはそこに至るであろう歴史の流れを速めたにすぎなかった。軍備放棄はすでに全世界の合意に達していた。
軍備放棄の結果だぶついた資金、資源で大いに潤った活動分野の一つが、急速にその規模を拡大しつつある国連太陽系探査計画(UNSSEP)であった。すでにこの機関が掌握すべき責任事項のリストは厖大なものに脹れ上がっていた。ほんのいくつかの例を挙げただけでも、地球、月、火星、金星、太陽の軌道を回るすべての人工衛星の運行管理、月ならびに火星の有人基地建設とその運営、金星の軌道を回る実験室の打ち上げ、ディープ・スペースへのロボット探査船打ち上げ、外惑星への有人飛行計画の立案と進行管理等々といった具合である。かくてUNSSEPは各大国の軍備縮小の度合いに見合った速度で規模を拡大し、あぶれた技術者や頭脳を吸収したのである。同時にナショナリズムが退潮し、各国の正規軍が解散すると新世代の若者たちはその冒険欲のはけ口を国連宇宙軍(UNSA)の制服勤務の部署に求めた。新しいフロンティア開拓を目指して太陽系を縦横に宇宙船が飛び回る興奮と期待の時代がここに幕を開けたのである。
「第一に、チャーリーはこれまでに建設されたいかなる基地の人間でもないということ。いや……というより」コールドウェルは意味ありげに声をふるわせて、ゆっくりと言った。「現在われわれが知っている世界のいかなる国の人間でもないのです。それどころか、チャーリーがこの地球という惑星以外の住人でないとは言い切れないのです」
「何者であるかはともかく……チャーリーは5万年以上前に死んでいるのです」
チャーリーの種属はどこかで人間型の進化を遂げたのだ。このどこかが地球であるか、ないしは地球以外の場所であることは自明の理である。初歩的な論理の原則から言っても、それ以外の可能性は考えられない。ハントは記憶の底を浚い、地球上の生物の進化を説明する理論について知っている限りのことを思い出した。何世紀にもわたるこの分野の涙ぐましい研究努力にもかかわらず、現在確立されている考え方では説明しきれないものがなお残されているのではあるまいか?数十億年という時間は想像を絶する長さである。不確実性の深淵のどこかで、現代の人類が登場するはるか以前に進化の過程を経験しつくして滅亡した別の人類が存在したかもしれないと考えることはあまりにも馬鹿げているだろうか?
5万年の昔、今ではルナリアンで通っている一群の宇宙人が月面に立っていた。彼らがどこからやってきたかは当面の問題ではない。それはそれでまた別の話である。ちょうどその頃、豪雨のように隕石が降り注いで月の裏側を覆いつくした。隕石は月面にいたルナリアンたちを抹殺したのだろうか?
おそらく抹殺したに違いない……しかし、その異変はどこであれもともと彼らが住んでいた惑星には何の影響もおよぼしはしなかったであろう。現在月面にいるUNSAの遠征隊が残らず死に絶えたとしても、長い視野で見れば地球に何の影響も与えはすまい。だとすれば、他のルナリアンたちはどうなったのか?
なぜそれ以後掻き消すように姿を消してしまったのだろう?月で起こったことよりも、もっと広範囲にわたる大規模な異変があったのだろうか?その大規模な異変こそが、月に隕石を降らせたそもそもの原因だろうか?
第2の異変が隕石を降らせ、同時に他の惑星のルナリアンたちを絶滅させたのだろうか?それとも、2つの事件は何ら因果関係を持ってはいないのだろうか?いや、そうとは考えられない。
●解釈
(a)ルナリアン生存期間中ないしはその前後に主として月の裏側において高度に発達した兵器が使用されたと思われる。ルナリアンが戦闘に関与している可能性が濃いが、それを証明する材料は発見されていない。
(b)ルナリアンが戦闘に関与していたとするならば、それはルナリアンの母惑星を巻き込む大規模な宇宙戦争であり、ルナリアン絶滅の原因であると想像される。
(c)チャーリーは月面に孤立した大がかりな探検隊の一員であった。月面にルナリアンが居住していた明らかな痕跡があり、遺留品、遺跡は裏側に集中している。その後、隕石の集中落下によって事実上いっさいの痕跡は抹消された。
はたしてルナリアンとミネルヴァンが同一人種であるか否かという疑問は解決されぬまま、今また新たな謎が加わったのである。ガニメアンはどこから出現したのか?ガニメアンはルナリアンやミネルヴァンとどこかで繋がりがあるのか?
「そもそものはじめからわたしが一貫して主張してきたとおり、古典的な進化論は十全かつ揺るぎないものです。ルナリアンが地球からの植民者であったという考えは結論として正しかったのです。ただし、その結論に至る過程が事実と食い違っていましたが。地球上をいくら捜してもルナリアン文明の痕跡が発見されるはずはありません。もともと地球上にはそんなものはないんですから。それに、人類とはまったく別の進化系統を辿ってルナリアンが出現したという考えも否定されました。ルナリアン文明は、人類および地球上の全脊椎動物と同じ起源から、ミネルヴァで独自に発達したのです。その祖先は、2500万年前に、ガニメアンの手でミネルヴァに運ばれたのです」
ハントは船体側面の各所に設けられた展望ドームで多くの時間を過ごした。1つだけ彼がよく知っているもの、すなわち太陽を見つめているうちに、ハントは少しずつ自分の存在に加えられつつある新たな大きさ、深さを理解するようになった。太陽の永遠の輝きや、生命の源泉であるつきることのない温もりと明るさは彼に安心感を与えた。ハントは古代の航海者たちのことを思った。航海術が未発達であった頃の船乗りは決して陸地が視界から消えるところまでは行かなかった。彼らもやはり、安心立命の拠りどころを必要としていたのだ。しかし、遠からず人類は未知の深淵に舳先を向け、銀河系外星雲へ渡ろうとするであろう。そこには彼らに安心を与える太陽はない。島宇宙に至る途中の海には星一つない。銀河系宇宙自体、無限の空間の中ではぼんやりとした影の薄い存在でしかありはしないのだ。
その深淵の果てにはいかなる未知の大陸が待ち受けているだろうか?
今からおよそ2500万年の昔、ミネルヴァの大気中の二酸化炭素濃度が急激に高まったのだ。何らかの自然現象によって岩石の化学組成中のガスが放散されたか、あるいは、ガニメアンの活動に何かそのような現象を惹起するものがあったのであろう。ガニメアンが異星生物の種をそっくり移入した理由もこれで説明される。その最大の目的は、二酸化炭素を吸収し、酸素を生成する植物で惑星を覆い、大気のバランスを回復することであったに違いない。動物はエコロジーの均衡を維持し、植物の成長を助けるために狩り出されたにすぎまい。しかし、この試みは失敗に終わった。惑星固有の生物は新しい環境に適応できなかった。そして、抵抗力のある異星生物が競争相手のいなくなった新世界で盛大に繁殖したのだ。
「論理的に考えて、2つの月が実は同じものであったとする以外に説明はあり得ません。われわれは長い間、ルナリアン文明は地球で進歩したのか、それとも、ミネルヴァで進歩したのか、その答を捜し求めてきました。しかし、今わたしが述べたところから、それがミネルヴァであったことは明らかです。われわれは、まったく相矛盾する2通りの情報群があり、一方を取ればルナリアン文明は地球で進歩したことになり、今一方によればそれが否定されると考えてきました。これは、データの解釈の誤りです。それらの情報は地球について語るものでもなく、ミネルヴァのことを伝えるものでもありませんでした。それは、地球の、もしくは、ミネルヴァの「月」に関する情報だったのです。一部の事実はわれわれに地球の月
について教え、また別の事実は、ミネルヴァの月を指し示していました。まったくそれとは意識せずにわれわれが2つの月は別のものであるという考えに執着している限り、この並立する事実の矛盾は決して解消し得ないのです。しかし、厳密な論理のしからしめるところとして、われわれが2つの月は同一であるという考えを導入する時は、あらゆる対立矛盾背反はたちどころに雲散霧消するのです」
「星を失った月がどのくらいの期間太陽に向かって移動を続けたかはわかっておりません。何か月か、あるいは何年にもおよんだかもしれません。それはともかく、ここで自然界にままある、万に一つの偶然が働きました。月の太陽に向かって接近してゆく道筋が地球の傍を通ったのです。地球は時間のはじまりからその時までずっと、孤独に太陽のまわりを回り続けていました」
「そうです。くり返して言いますが、地球はそれまで孤独だったのです。おわかりと思いますが、わたしの考えに従って、われわれに許された唯一の可能な解釈を取るならば、その解釈から導き出される結果も受け入れないわけにはいきません。つまり、この時点、今からかれこれ5万年前まで、惑星地球には月がなかったのです。2つの天体は互いの重力場が重なり合ったところで綱引きを演じました。そして新しい共通の軌道に安定して、以来今日まで、地球は宇宙の孤児であった月を自分の衛星として、あたかも親子のような関係を保ってきたのです」
「きみは頭からそう決めてかかっているんだ……皆そう思い込んでいる。習慣的にそう思っているんだよ。人類は歴史を通じて、一貫してそう考えてきた。まあ、無理もないがね。人間が地球で育ったことを疑う理由は何一つありはしなかったのだから」
ダンチェッカーは肩をそびやかし、まじろぎもせず一同を見渡した。「ここまで来れば、もう見当はついているのではないかな。わたしはね、これまでに検討した証拠から、人類は地球上で進化したのではない、と言っているのだよ。人類はミネルヴァで進化したのだ」
「結論から言って、彼らはその試みに成功したと考えないわけにはいかない。氷河期の苛酷な世界に降り立った彼らがその後どのような体験を重ねたかは、しょせん知る由もないだろう。が、以後何代もの間、彼らが滅亡の瀬戸際で細々と生き続けたであろうことは充分想像できるね。彼らは知識や技術をことごとく失ったに違いない。しだいに彼らは原始人の生活に立ち帰った。4万年あまり、彼らはただ生存競争を戦い続けたのだ。そして、彼らは生き延びた。生き延びただけではない。彼らは地球に根を降ろして、子孫を殖やし、やがて広い地域に住み着いて栄えるようになった。現在、彼らの子孫は、彼らがかつてミネルヴァを支配したと同じように、この地球を支配している……諸君や、わたしや、他の全人類だ」
「人間が地球上の他の動物となぜこうも違うのか、諸君は一度でも考えてみたことがあるかね?脳が大きいとか、手先が器用であるとか、その種の違いなら誰でも知っている。いや、わたしが言いたいのは、もっと別のことなのだよ。たいていの動物は、絶望的情況に追い込まれるとあっさり運命に身を任せて、惨めな滅亡の道を辿る。ところが、人間は決して後へ退くことを知らないのだね。人間はありたけの力をふり絞って、地球上のいかなる動物も真似することのできない粘り強い抵抗を示す。生命に脅威を与えるものに対しては敢然と戦う。かつて地球上に人間ほど攻撃的な性質を帯びた動物がいただろうか。この攻撃性ゆえに、人間は自分たち以前のすべてを駆逐して、万物の霊長になったのだ。人間は風力や河の流れや潮の動きを制御した。今では太陽の力をさえ手懐けている。人間は不屈の気概によって海や空を征服し、宇宙の挑戦を受けて立った。時にはその攻撃性と強い意思とが歴史に血塗られた汚点をしるす結果を招くこともあった。しかし、この強さがなかったら、人間は野に放たれた家畜と同様、まったく無力だったに違いないのだよ」続きを読む投稿日:2024.05.20
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