日本の電機産業はなぜ凋落したのか 体験的考察から見えた五つの大罪
桂幹(著)
/集英社新書
作品情報
かつて世界一の強さを誇った日本の製造業。
しかし、その代表格である電機産業に、もはやその面影はない。
なぜ日本の製造業はこんなにも衰退してしまったのか。
その原因を、父親がシャープの元副社長を務め、自身はTDKで記録メディア事業に従事し、日本とアメリカで勤務して業界の最盛期と凋落期を現場で見てきた著者が、世代と立場の違う親子の視点を絡めながら体験的に解き明かす電機産業版「失敗の本質」。
ひとつの事業の終焉を看取る過程で2度のリストラに遭い、日本とアメリカの企業を知る著者が、自らの反省もふまえて、日本企業への改革の提言も行なう。
この過ちは日本のどこの会社・組織でも起こり得る!
ビジネスパーソン必読の書。
【主な内容】
第一章 誤認の罪 「デジタル化の本質」を見誤った日本の電機産業
第二章 慢心の罪 成功体験から抜け出せず、先行者の油断から後発の猛追を許す
第三章 困窮の罪 円高対応とインターネット・グローバリズムへの乗り遅れ、間違った“選択と集中”による悪循環
第四章 半端の罪 日本型経営の問題点――経営者、正規・非正規、ダイバーシティ、賃上げ、エンゲージメント――はなぜ改善できなかったのか
第五章 欠落の罪 人と組織を動かすビジョンを掲げられない経営者
第六章 提言 ダイバーシティと経営者の質の向上のためには
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この作品のレビュー
平均 3.9 (16件のレビュー)
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部下をリストラした自らの会社人生を顧みて、本著を敗者の書いた本と述べる著者。その序文でグッと引き込まれる。世には成功者のノウハウ本が溢れる。しかし、失敗こそ教訓だと。アメリカ企業にはエグジット・インタ…ビューという制度、退職する社員との面談がある。本著は、謂わばエグジット・インタビューのような本だ。
電気産業が直面した課題の一つは、製品の均一化。例えば4Kテレビならどの製品も似たり寄ったり。物量と低コストに要求が変わる中、過剰品質で高コストな体質を転換できず、海外勢に弱みを突かれた。過剰に多機能を追求し、良いものは売れるという信仰が製品のシンプルさも損なう。やがて人員整理によるコストダウンや選択と集中を断行。
選択と集中が実行される組織ではあらゆる余裕が奪われ、金銭的、人的余裕に加えて時間的、精神的余裕も失われる。その中でイノベーションが迫られるが、全てにおいて余裕が無い中では難しい。どんどん追い詰められる。
今や電気産業だけでは無く、あらゆる業種で過剰品質や付加価値信仰に日本は囚われている気がする。その意味でも学び多い著書だ。何をすべきか。先に失敗したものから学ぶ事こそ教訓だ。続きを読む投稿日:2023.10.27
●=引用
●その一方で、業績を大きく改善するためには、イノベーションが必要だ。新しい製品やサービスを生み出し、ヒットさせる必要がある。ところが、予算が乏しく、人手も足りず、おまけに結果を急かさせる組…織でイノベーションを起こすなど無理な話だ。組織に余裕がなければ、画期的な製品やサービスは生まれない。
●普通の企業ならば、市場性の見えない限り製品化には動かないものだ。ところが、同社には十五%カルチャーがあった。勤務時間の十五%を自分の好きな研究に充ててよいとする社内ルールだ。かの技術者はこのルールに則って先が見えないまま開発を進め、二年の歳月をかけてポストイットを製品化させたのだ。3Mが十五%カルチャーを重視する背景には、優れた新製品を開発するには大量のものを試し、うまくいったものを残すしかないという経験則があった。イノベーションを予測するのは難しく、やってみないとわからないという考え方だ。
●計画的にイノベーティブな製品を開発するのは難しい。NAND型フラッシュメモリーやポスト・イット、電卓も、一つ間違えば日の目を見る機会さえなかったかもしれない。これらの成功例に共通しているのは、それぞれの組織に余裕があることだ。傍流の研究を続けさせて東芝、個人の裁量を許した3M、黙ってお上に従うことをよしとしなかったシャープ。どの組織にも、時間的、金銭的でなく、精神的な余裕を感じる。もし、それぞれが「選択と集中」の徹底されていた組織であったならば、異端の技術者は排除されていただろうし、出来損ないの接着剤に時間を費やすことは許されず、通産省に認められなかった事業は棚上げになったはずだ。このように、イノベーションと「選択と集中」は、親和性が低いのだ。
●ビジョンとは、組織が目指すべき具体的な未来像だ。優れたビジョンには、未来像だけでなく、時間軸も明快でなければならない。いつまでに、何を達成するかが明らかなのだ。
●それは、日本企業における圧倒的な議論の不足だ。儲かる、儲からない。売上が計画に届く、届かない、といった数字の議論には日々熱心なのだは、馴染みのない新しい技術の可能性を探ったり、新興勢力の影響を予測したり、物事の本質を探ったりする議論は不足していた。少し厳しい言い方をすれば、正誤がハッキリした安易な議論には熱心なのだが、意見の対立を生んだり、当事者の見識が問われたり、組織が目を背けている問題にあえて焦点を当てたりする議論を、無自覚のうちに避けてきたのだ。
●さらに、エンゲージメントが低下した社員は、議論の場でも積極性を失う。(略)反対の意思があっても、あるいは優れたアイデアがあっても、「まあいいか」と口を閉ざしている社員の姿だ。日本では珍しい話ではない。ただ、このような状況に陥れば、言うまでもなく活発な議論など期待できない。続きを読む投稿日:2024.02.18
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