- 最終巻
このて 右【イラスト入り】
朝丘 戻(著)
,丹地陽子(イラスト)
/ダリア文庫e
作品情報
【ファン待望の長編小説、下巻!】「ハナ少年」の正体を知った一人(かずと)は自分たちが夢見た幸せを叶えるため、彼ともう一度生きていくことを決意する。しかし彼らの道程にはいくつもの困難があった。様々な人間と接する中でそれぞれ違った「正しさ」と衝突し、懊悩するふたり。お互いが求める幸福にも齟齬を感じ始め、離れていきそうになる心を繋ぎとめながら、現実とむきあい続ける。そして一人が持つ「消す力」の更なる側面も明らかになり、しかも、その力を持つ者は一人(かずと)だけではないと気づいて・・・・・・。護る者を得て再び人生へ歩みだした男と、夜の闇をも照らす光り輝く少年の、花々が咲きほこる極彩色の愛の未来は――。 丹地陽子先生の美麗なイラスト入り♪
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商品情報
- シリーズ
- このて
- 出版社
- フロンティアワークス
- 掲載誌・レーベル
- ダリア文庫e
- 書籍発売日
- 2022.09.22
- Reader Store発売日
- 2022.10.22
- ファイルサイズ
- 2.3MB
- シリーズ情報
- 全2巻
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.5 (2件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
レイプ犯グループへの「制裁」を企てたことから窮地に追い込まれ、一人の力を用いて心中を図ったふたりの行く末は…? というところから始まる下巻。
レビューの続きを読む
過去に戻された歩和は一ヶ月間、存在しないものとしてこの世から消えていたが、一人に『本当の名前』を呼ばれたことで姿を取り戻す。
どうやら、名前を呼ぶことが『消された』存在をこの世へと呼び戻す手段のようで…?
歩和の消えていた間、性暴力のターゲットは新人アルバイトの綾乃へと成り代わっていた。
『一度目』で過ちを犯した一人たちは、もどかしいほどの正攻法で卑劣な犯罪へと立ち向かうことになるが、ここからも上巻をものともしない激動の不幸のオンパレードが二人を襲う。
『虐げられる側』だった歩和がいままでの朝丘キャラとは異なった、素直で優しいいい子ちゃんでなく、剥き出しの怒りをぶつけるキャラクターだったことが印象的。
登場人物皆が不安や恐れや孤独や痛みを抱え、やり場のない感情から取るべきではない手段にでてしまう。そしてその矛先を向けられた時、いままで一方的に傷つけられていた側だった歩和は全てを消してやりたいと怒りに震えるが、自らの力の責任に向き合うべきだと覚悟を決めた一人は必死に歩和を止めようとする。
正直、この会社にはまともな奴がいねえのかよとあまりの非道さ身勝手さに怒りすら込み上げてきましたが、人間の狡さ弱さ身勝手さの心理をこれでもかと暴き、歩和の言葉で彼らの内面が剥き出しにされていく様の壮絶な筆致や、そこから自身の弱さや偏見、人の数だけある正しさに向き合い、折り合いをつけようとする様は読み応えがありました。
二人で幸福を得ようと色彩豊かな愛で彩られた道を歩み始めるも、さまざまな欲望は容赦なく彼らを傷つける。
そこに立ち塞がるのは、世間から押しつけられる正しさや偏見との戦いだ。
互いに手を取り合い、理解を重ね合いながら安らかな愛を育んでいきたいーささやかなその願いを叶えるためには、立ち向かわなければいけないものがあまりにもたくさんある。
人間の理不尽と悪意をこれでもかと見せつけられる展開にはうわぁ、となりますが、決してただのいい子ではなく、時に怒りをぶちまけながら根気強く一人と対話を重ねていく歩和の姿や、厳しさと優しさを持って力になる継父の姿には引き込まれた。
ここまで書くのか、という作家としての覚悟と、それを送り出すレーベルの思いの強さをすごく感じさせられた。
四六判の上下巻、人を選ぶタイプの癖のある作風と、難しいところのある作品ではありますが、注目されてほしいなぁと個人的には思わされた作品でした。
人間は身勝手で横暴で美しくないが、それでも、だからこそ美しい愛に焦がれるのかもしれないと思わされた。投稿日:2022.10.02
ふたりが出会い、恋をして結ばれてめでたしめでたし。では終わらないストーリー。
ある日突然かずとの前に現れた、半年前に亡くなった飼い猫のハナを名乗る少年。陽だまりのようなあたたかな好意を寄せてくれる少年…に、正体はわからないまでもかずとは惹かれていく。
「俺の本当の名前ははないあお」その名前を聞いた瞬間にかずとは全てを思い出し…。
ぴったり組み木みたいに完成されたふたりでも、言葉にして伝え合わなくては時に歪み、隙間があき、形が合わなくなることもある。「幸せになってはい、終わり」ではなく、幸せでい続けることの難しさ。変わることに対する恐怖が裏に見え隠れする。
同じ場所に立ち、同じ感覚であることに安堵するかずとは、歩和の中の「強さ」に違和感を感じる。
「苦しませないとは言わない。苦しい時は一緒。ふたり一緒の共犯者」幾度となく交わされるふたりの共通認識が理想的でもあり、脆く危うい幻想的でもあり、疑心暗鬼にも囚われて、物語終盤まで常に薄気味悪い不安がつきまとう物語だった。こんなに大恋愛をしているのに、急激に冷める描写まで挟み込む作者様の“心理描写を描き切る”姿勢には毎度感嘆してしまいます。丁寧な作風がとても好きな唯一無二の作者様だと思っています。
最終的には大団円。危ういまでのふたりの同一感が消え、健康的な共に歩むふたりが存在していました。
読後感は良いです。
途中のもやもやに負けずぜひ完読いただきたい、圧倒的に“読ませる”作品です。続きを読む投稿日:2023.08.22
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