インフルエンス・インシデント Case:01 男の娘配信者・神村まゆの場合
駿馬京(著者)
,竹花ノート(イラスト)
/電撃文庫
作品情報
人気女装配信者「神村まゆ」として活動する男子高校生・中村真雪は、ある日SNSを悪用したストーカー被害に遭ってしまう。 そこに手を差し伸べたのは、優秀だがエキセントリックな大学教授・白鷺玲華と助手をつとめる女子大生・姉崎ひまりだった。「お願いします。僕を守っていただけませんか」「任せて。お姉ちゃんたちが助けてあげるから!」「まずSNSの原理である『六次の隔たり』の考え方に基つけば――」「教授ストップストップ!」「・・・・・・あ、あの。そもそも、なぜ僕はずっと膝の上に乗せられているんでしょうか?」 女教授と女子大生と女装男子(インフルエンサー)が、インターネットを起点としたさまざまな事件(インシデント)に立ち向かう!
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商品情報
- シリーズ
- インフルエンス・インシデント
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 電撃文庫
- 書籍発売日
- 2021.03.10
- Reader Store発売日
- 2021.03.10
- ファイルサイズ
- 11.6MB
- シリーズ情報
- 既刊3巻
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この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
-
話の切り口や傾向そのものは非常に現代的。その為に問題の解決策や帰結点なども現代的なものを期待してしまうけど、本作の集約はむしろ古典的と言うか時代を問わず共通する要素であるように思う
作中において、玲華…や黒幕は天上人のように事態を俯瞰して見解を述べる。それらは問題の本質を理解する上では助けとなるけれど、どちらかと言えばひまりや真雪が手にした答えの方が個人的には好感が持てる
けれど、こうした視点で物語を見てしまう事は本作が持つ隠れた罠のようにも思えて、読み終わった後は少しムズムズとした気持ちにさせられてしまったよ
今巻では100万人を超えるフォロワーを持つ配信者『神村まゆ』を巡る構図となっている
彼を取り巻くように数多の人間がインターネット空間に集まってくるのだから、そこには様々な人間の歪みが見えてくる。そもそもからして彼自身がいわゆる男の娘として配信しているのだから、それも一種の歪みと捉えることも出来るのかもしれない
『神村まゆ』に群がるファンなど多数の視聴者、商品をレビュして貰いたいメーカー。それらは許容範囲としても視聴者の中にはアンチは混ざっているし、真雪を狙うストーカーや誘拐犯なども登場する
ポジティブな感情を惹き付ける彼はそれと同じくらいネガティブな感情も惹き付ける
だからこそ、彼がネットを介さずに拠り所とする玲華の研究室が穏やかな居場所に映るわけだね
教授としての線引きはしつつも一人の人間として教え子を気にかける玲華。まゆの大ファンとして当初から真雪に対して好印象を持っていたひまり
特にひまりの心情や言動は注目に値するものだね
彼女は過去に大切な友人をネットの炎上で失った経験を持つ。だからか、大切なものは何か?大切なものを守るためにはどうすれば良いか?を常に考え続けている
その為に自分がファンとして夢中になる真雪が目の前に現れても、『神村まゆ』として扱い続けるなんてことはしないんだよね。真雪への印象を更新し続け、結果的に中村真雪の姿を捉え続ける
そこには最初の出会いが『神村まゆ』ではなく真雪としてのものだったから、というのも在るのだろうけど、真雪に対してファンとしてではなく年上のお姉さんとして接しようとした点も関係しているのだろうな
それが少しずつ閉じこもっていた真雪を変えていく流れは良いね
家庭環境から人との繋がりや肯定をインターネット空間に求めた真雪が助けられた経験からひまりに魅了されていく
そこには人に慣れていないが故の多少の間違いも含まれていたのだけど、ひまりの影響を受け、ひまりのように人を助けたいと思うようになり、それが真雪の新たな原動力となっていく工程は理解できるものだね
本作の後半で描かれる劇場型誘拐事件
犯人たちの動機や行動は非常に自分勝手であり同情の余地はない。けれど、そこに社会から排除された者達の普遍的な恨みが煮詰められている為に様々な耳目が集まるようになっている
そこには議論も怒りも嘲りも、関心も無関心も集まってくる。たった一人の配信者を誘拐しただけで驚くような状況が作り上げられようとしていた
だからこそ、その状況を非常に原始的で単純で、そして思い遣りに溢れた方法で解決する流れは好ましいね
現場に到着したひまりは玲華の口車に乗る形で犯人に対して自分が抱えてきた鬱屈、そして悩み抜いた答えを口にする。けれど、あの場で口にした言葉よりも、自分は答えを持っているという感覚が何よりも大事なのかもしれないと思えた
だから最終的にひまりに助けられた真雪も自分なりの答えを得られたのだろうね
これで最初の物語は終わったのだけど、黒幕が表に出てくることはなく、また真雪や蓮水が抱える問題が全て解決されたわけではない
なら物語として幕を下ろすべきタイミングでは無かったのかと言えばそうではなく、肯定できない自分や後悔する想いを抱えた真雪や蓮水が答えを見つけるまで努力し続けると決めた。それが一つの終幕と呼べるのかなと、そう思えるラストだった続きを読む投稿日:2021.08.16
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