十津川警部シリーズ 一九四四年の大震災――東海道本線、生死の境
西村京太郎(著)
/小学館文庫
作品情報
太平洋戦争の悪行が70年後に暴かれる!
浜名湖の湖岸にある「フジタ浜名湖地震津波研究所」のビルが炎上し、そこから男の焼死体が発見された。男は、主宰者の藤田武。妻の美里には、何のために武が死んだのか分かっていた。
時代は一気にさかのぼり、太平洋戦争の末期。武の祖父徳之助は、「フジタ地震津波研究所」をつくり、息子の健太郎とともに研究をしていた。
米軍による日本本土への空襲が勢いを増す中、敗色濃い戦時下に政府、軍部が国民に強いたものは、言論統制、報道管制だった。その圧制下にあって大地震・津波の襲来を予知し、警鐘を鳴らそうとしたのが藤田親子だった。
ついに、1944年12月7日に大地震が東海地方を襲った。後に言われる昭和東南海地震である。これが次の大地震を誘発すると警告する藤田親子を、当局は拘留し迫害した。そして、翌年1月13日には三河地震が起こったのだった。しかしながら、徳之助は鉱山に、健太郎は沖縄戦線に送り込まれ、徳之助は行方不明に。それを命令したのが、川崎憲兵隊長だった。
戦争での悪行を暴くために、戦後、藤田健太郎と武は、それぞれの時代に動き始めた――。
※この作品は、『一九四四年の大震災――東海道本線、生死の境』(単行本版)の文庫版となります。
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商品情報
- シリーズ
- 十津川警部
- 著者
- 西村京太郎
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 小学館
- 掲載誌・レーベル
- 小学館文庫
- 書籍発売日
- 2019.06.01
- Reader Store発売日
- 2019.06.06
- ファイルサイズ
- 1MB
- シリーズ情報
- 既刊19巻
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
-
〇現代に自殺を遂げたフジタ家の末裔の抗議の死。表現の自由を訴える作家の矜持もうかがえるか
フジタ浜名湖地震津波研究所が焼けた。夫・武の決意の自殺に気づいた美里は、夫が引き継いだ武の祖父・徳之助の告発…文を読み始める。
藤田家は、先祖代々浜松に根を下ろしもともとは魚を大名屋敷に届ける仕事だったが、戦争になってから、その運命は変わることとなる。
祖父・徳之助のころは、ときは太平洋戦争。船が徴収されたときと前後して水産加工会社を作るも、それも国に軍需工場として買収される。
ちょうど時を同じ折、静岡県沖にやってくる地震や津波について問題意識を持っていて「フジタ浜名湖地震津波研究所」を建てることとした。
徳之助は研究所での成果をふまえ、住民へ津波・地震に関する啓もう活動を行うが、しかし、徳之助は軍部から活動を停止させられた。それに反発した徳之助や、武の父に当たる健太郎は、必死に街の様子を記録し続ける。
「現代の科学」という雑誌に考えが掲載できることになった徳之助。では、なぜ武が引き継ぐような告発文を書かざるを得なかったのか??
***
表紙には「十津川警部シリーズ」と書いてあったが、一行くらいしか十津川警部の文字は見当たらない。
ほとんどが、美里が読んだ告発文ーー武、健太郎、徳之助が守り続けたーーの内容を語りだす形式で話される。
筆者として、文化人として、あるいは文学に生きた人間として、あるいは戦争を生きた人間として、書かざるを得なかった、おそらく書きたかったではなかったのかもしれないテーマだったと思う。
戦時中における文学・報道表現は、戦意喪失の名のもとに著しき規制が敷かれた。わたしの知っている限りでも、芥川賞作家の石川達三『生きている兵隊』は、まさにその一例だと思っている。(もっと有名な人もいるのだと思うが、個人的な興味があり最もはやう触れた当時の文学がこれだった)
そのようなことを思い返しながら、筆者はフジタの名を借りて表現したのだとも思う。
フジタ一家が実在していたとしたら、あの時代にあって、体制に屈せず、人々を救うことだけを信じ続けて地震・津波の怖さを唱え続けた勇気に敬意を表したいと思う。続きを読む投稿日:2019.10.07
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