時間と言語を考える―「時制」とはなにか―
溝越彰(著)
/開拓社 言語・文化選書
作品情報
時制は出来事の時間的な配置を記すだけの仕組みなのだろうか。どうということのない構文に見えながら実はやっかいな問題をはらむ英語の現在完了や進行形と時制との関わりという言語学的なテーマから、言語習得、文学、さらには世界観との関わりという心理的・文化的なテーマまで射程を拡げた多面的な考察を通して、時制というシステムの本質的な機能と言語から見えてくる時間意識を探る。
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商品情報
- シリーズ
- 時間と言語を考える―「時制」とはなにか―
- 著者
- 溝越彰
- 出版社
- 開拓社
- 掲載誌・レーベル
- 開拓社 言語・文化選書
- 書籍発売日
- 2016.06.01
- Reader Store発売日
- 2018.06.20
- ファイルサイズ
- 0.8MB
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この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
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時制やアスペクトという文法の捉え方を一旦置いておいて、様々な言語の色々な用例から「時間」について考え、改めて英語(や日本語)の時制について捉え直すという本。哲学や心理学、文学の領域に自由に入り込んで…考察が行われ、全体としては斬新な本、という印象。
これまで「時制」という項目を取り上げた文献について、「これらはいずれも事例や現象の記述と解説が主な内容であり、なぜそのような仕組みになっているのか、その『メカニズム』の説明には踏み込んでいない。時制なんて出来事の時間を表すだけの単純な仕組みにすぎないように見えながら、関連する『アスペクト』(相)を含めて、分かっていないことだらけである。」(p.vi)、ということで、「大風呂敷を広げていくつかの大それた提案も行うため、推論(speculation)も多い。本書のタイトルに『考える』とあるのはこのためである。」(同)だそうだ。「試論」的なもので、他の文献ではそんな話聞いたことない、というものが多いが、それでも確実な文献を参照しながら述べられているので、説得力はあるし、むしろそういう捉え方が理にかなっているのではないかと思った点も多々あった。
まず時を捉える時に「相対的/絶対的」という視点。これは絶対あると思う。分かりやすいのは「完了形は過去の一点を表す語句とは使えない」というのは有名な受験英文法のルールだが、「それはなぜか」ということが説明されている。I have come here two days before.は言えるらしい(p.40)。beforeは相対的、agoは直示的(絶対的)で完了形は「相対的に過去を表す構文」だからだそうだ。さらに完了形は「『現在の状況に照らして真である』ということを表す文法形式」(p.41)で、つまり「話者の発話態度として、『現状を見なさい、そうすれば私が行っていることの正しさが分かるはずです』という表現形式」(同)ということだ。よく「現在に引き付けて述べる」とか「現在との関連を感じさせる時に使う」とか、中2でもそんな解説をしたりするが、著者のこの言い方は結構分かりやすい、かもしれない。
ちなみに完了形に関しては、別の文献でhave goneが「アメリカ英語では『経験』を表すこともあるという」(p.44)ことが述べられており、have beenとhave goneの違いを生徒に問うのもある程度の慎重さが求められることが分かった。同じように「Comrie(1985:26)によると、アメリカ東部の英語では過去完了が『遠い過去』を指すようになってきているという。言い換えると、絶対的な時制の性格を帯び始めているということになる。」(p.51)という記述もあった。その文献から35年近く経っている今は過去完了は一体どうなってるんだ、と思う。ちなみに、「Ritz(2012:899)によると、オーストラリアの口語英語では、現在完了に過去の特定時点を表す副詞が使われるようになってきている。」(p.52)らしく、こうなってくるとむしろ受験英語のある特定の問題群は全部成立しないようになってきてしまうのでは、と思う。
次に「未来進行形」について、結構「そうなる予定」で使う、というのは強調して教えたし、「未来進行形をんと使えるのが英語の上級者の指標だ」なんて偉そうに生徒に言ったこともあるのだが、"I won't see you"ではなく"I won't be seeing you"という方が、同じようにI'll be driving in that direction any way.と言う方が、I'll drive...よりも「相手に負い目を感じさせることがない」(p.72)、という一種の「丁寧表現」として使う、というのはもっと強調して教えても良いかと思った。確かに、won'tとかwillとか言われると角が立つ。あと進行形と言えば「一時的な状態」と教えるが、The Ferris wheel is revolving at a rate of 15 minutes per revolution.(その観覧車は15分で1回転している)(p.78)のような進行形はどう説明するのか、というのは痛い指摘だ。これも「『一時的状況』というニュアンスは、あくまでも『ある時点や出来事に相対的』という進行形の基本特性から鋭的に出来る含みであり、このような特性のない単純現在形と比べて、その継続時間は短いと判断されることが多いというだけのことである。第3章で見た現在完了に伴う『現在との関連性』と並んで、構文の本質的な機能おこから副次的に派生される含みとを混同してはならない。」(p.79)という部分がグサッと来た。やっぱり記述英文法、の記述のレベルで「副次的」なものが他と等価に並んでしまう、ということもあると思う。それとここでも「相対的」という視点が必要らしい。つまり、p.166でも述べられているが、「英語の進行形は、出来事そのものではなく、『相対時制』として、その出来事によって特色づけられる『時間の特質』を表す」(pp.166-7)もので、「英語の進行形をアスペクトを表す形式であるとみなすことには無理がある」(p.166)ということだ。もうこうなってくると、大学で学んだ英文法もなかなか考え直さないといけない奥の深いものになってくると同時に、分かった顔をして中高生に説明するのもどうかと思えてきてしまった。
話は変わって、言語習得の話で、「時制体系習得の完成には時間がかかることも事実である。Wagner (2012:465)は、それは、出来事の時間的な特性が分からないというような『理解力』の問題ではなく、『情報処理』の負担の問題である可能性を示唆している。」(p.159)ということで、これは外国語の教育を考える時、例えば生徒のミスについて、それは文法事項を理解してないから、というよりは一挙に色々なことを考えてアウトプットできないから、という理由の方が大きい気がする。
最後に世の中の言葉には「証左時制」とか「引用時制」とか呼ばれるものがあるらしい、と言うこと自体も興味深いが、これに関連してIt is said that...とかHe is said to be...の"be said"の形について、「人づての情報ではなく、自分自身の煮え切らない発話態度を表すことも多く、(そう言いたいが)内容の信憑性に自分は責任を負わないというようなぼかした言い方としても使われる」(p.181)というのは指摘された気づいた。
ということで、色々勉強になる英文法の本だった。異色というか斬新というか、聞いたこともないような言語の例が豊富に出てきたり、「時間論」の話や「昔話の手法」など、興味が持続すれば面白い内容。(19/04/07)続きを読む投稿日:2019.04.07
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