この作品のレビュー
平均 3.5 (12件のレビュー)
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著者の後藤明(1954年~)は、南山大学教授の文化人類学者、考古学者。
本書は、これまで、世界中の神話の類似点から様々な文化の伝播や系譜論が唱えられてきた中で、近年注目されるようになった、世界の神話の…系統は大きく二つの流れに分けられるという「世界神話学説」について、世界各地の神話を比較しながら解説するとともに、その中で日本の神話がどのように位置付けられるのかを分析したものである。
内容は概ね以下である。
◆世界神話学説とは、米国のマイケル・ヴィツェルが唱える、世界の神話は大きく「古層ゴンドワナ型神話」と「新層ローラシア型神話」の2つのグループに分けられ、それは、遺伝学、言語学或いは考古学による人類進化と移動に関する近年の成果と大局的に一致するというもの。
◆ゴンドワナ神話群は、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが持っていたもので、出アフリカによって、南インドからオーストラリアへ渡った集団が保持する古層の神話群で、「人類の原型的な思考」ともいえる。ローラシア神話群と異なり、世界は既に存在しているものとして語られ、また、一つ一つの物語が関連して発展していくという形をとらず、個々の神話の間に関連性が見出せないものが多い。
◆ローラシア神話群は、既に地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中核として生み出され、様々な集団の移動によって各地に伝播した神話群で、「人類の最古の物語」ともいえ、ヨーロッパ、シベリア、インド、東アジア、アメリカ大陸に広がる。世界の無からの創造を語り、最初の神、特に男女神の誕生、更には天地の分離を語り、大地の形成と秩序化、それにともなう光の出現、火や聖なる飲み物の獲得、原初の竜退治などのテーマが連なり、その後に続く、神々の世代と闘争、半神半人の時代、人類の出現、更には、後に貴族の血脈の起源へとつながり、最後には、しばしば現世の暴力的な破壊と新しい世界の再生が語られる。起承転結や因果関係をもった本来の意味での物語性が強く、我々にも理解が容易である。
◆日本神話は、ゲルマン、北アジア、朝鮮、インド、ポリネシアなどの神話と類似性があり、大局的には、ユーラシアに広く分布するローラシア型神話群に属している。ただ、日本列島はホモ・サピエンスが東南アジアから北方アジア、アメリカ大陸へと移住する経路にもあたっていたため、ゴンドワナ型神話の痕跡もあり、それにより、日本神話の複雑さ・多様性が生まれた。
◆ゴンドワナ型神話は、「物語」という営みが生まれる以前に存在していた「思考」であり、そもそも人間と動植物や自然現象を区別しない時代、人間もその一員として森羅万象や動物・木々や花々とともにささやき合っていた時代の「神話」である。即ち、進化思想であり自民族中心主義につながりかねない危険性を孕んだローラシア型神話とは異なり、ゴンドワナ型神話は、対等の関係或いは互酬制、調和と共存こそが世界の神秘であり、人類を含む地球上の生きとし生けるものの叡智であることを教えてくれる。
現在世界各地には、人種も民族も文化も言語も異なる多数の人々が存在するが、原型的な思考、最古の物語を潜在的には共有しているということには、大いなるロマンを感じるし、争いの絶えない今日の世界においても、一筋の希望に繋がると思いたいものである。
(2017年12月了)続きを読む投稿日:2017.12.27
神話学という名の人種差別??
後藤明『世界神話学入門』講談社現代新書. 2018.
-比較神話学ほど怪しい学問はない・・・とは先日先輩とふとそんな話になったのだが、
2010年代以降Harv…ard大学のMichael Witzelが提唱している「世界神話学」なるものを勉強しないといけないなあと思い最近彼の本を買ったものの、とにかく長くて読む気がしなかったのだが、今回日本語で簡単にその内容を紹介している本があったので早速手に取って読んでみた。(日本語で安価で手に入るのは本当にありがたい)
今までの神話学とは一線を画するところは、それは現代のDNA解析技術を用いて人類の移動の軌跡と、神話の様々な類型の分岐をたどるというものだ。
それによると世界の神話体系には、
ローラシア型:ヨーロッパ、アジア、エジプト、メソポタミア、日本、中国、アメリカ先住民
ゴンドワナ型:アフリカ、ドラヴィダ系南アジア、東南アジア、オセアニア、南アメリカ末端部
があるらしい。
ローラシア型の神話は、世界の無からの創造、最初の神、男女の神の誕生、天地の分離、大地の形成etc,
ゴンドワナ型 そのような神話的思考が欠如している?世界は最初から存在する。
しかしなんとなくこのような類型は非常に恣意的なものに思われる。例えば、インド東南部のドラヴィダ集団の神話で、ゴンドワナ型として語られているものだが、
空にプークとその妻ユークが住んでいた。そのとき地上は水に覆われていた。エビとカニがそれを干拓しようとし、エビは触角を使って水に漂っているゴミや草や葉を集め、カニは深く穴を掘った。すると水が穴の中に流れ込み、その下から地面が現れた。エビはゴミの山を積み上げて山を造ったが、地面が柔らかすぎたので、太陽と月が熱で乾燥させた。プークとユークは天から見ていて大地が不毛で乾燥しているのを知った。プークは妻に言った。「緑のものはなにもない。木や草が生えるように水をやりなさい」。しかしユークは「どうやって地上に水をやるのか」と抗った。怒った彼女は腰巻きをめくりあげて陰部を露出した。すると彼女のその部分が太陽のように輝いて空を照らした。プークも怒ってパイプを水の筒の上に打ち付けると雷が起こった。すると雨が降って地上に草木が生えてきた。
無からの創造、とまではいかなくても、我々がインド神話でよく見る「原初の水」の神話にかなり似ている気がするし、無からの創造なんていうのもそれなりに時代を下らないと見られない。にかなり近いと思われる。ゴンドワナ型かローラシア型かという分類体系は非常に曖昧で研究者の要約の仕方や訳語の選択による、というのが正直な感想だ。
著者自身冒頭でも言っているように、神話学の殻を被った人種差別であるという批判もあるようだが、まさにその通りであると思われる。結局ヨーロッパや、ヨーロッパ人的に興味そそるアジアやアメリカ先住民の文化を「科学的」な方法で分けているだけのように思われる。これを読んでからWitzelの大著に取り掛かってみるかと思っていたものの、そんな気も失せてしまった。
2010年代のいつだったか、Witzelが来日した折に、関西外国語大学で講演していたのに参加したが、その時もよくわからんなあという印象だった。
Witzel自身の言葉をしっかり分析していないので、自分自身で確かめないといけないのは確かだが、神話学を専門にしていない以上は読まなくてもいいかな、という気になってきた。そして日本語で大体の内容や問題点を把握できるのはありがたいものだ。
もちろん理論的に賛成できなかったからとはいえ、読んで後悔だったというわけではない。一番の収穫は世界のいろんな神話を知ることができたことだろう。特にガーナのアシャンティ族の神話の至高神がオニャンコポンという可愛いお名前だとは知らなかった。これはこれからのいろんなネタに使えそう。続きを読む投稿日:2020.10.14
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