ことばの歳時記
山本健吉(著者)
/角川ソフィア文庫
作品情報
季節のことばとは、私たちの住むこの風土を認識することば。たとえば「春一番」「青葉潮」「やませ」――季節感だけではなく、喜怒哀楽に満ちた生活の知恵をも感じさせる。古来より世々の歌よみたちが思想や想像力をこめて育んできたそれらの「季の詞(ことば)」を、歳時記編纂の第一人者が名句や名歌とともに鑑賞。生活習慣や気候が変化する現代においてなお、感じることのできる懐かしさや美しさが隅々まで息づいている。解説・宇多喜代子(目次)【春】春 その一/春 その二/立春/春めく/水温む/春一番/フェーン/東風/霞/末黒の薄/若草/たんぽぽ/黄色い花/夜の梅/椿/桜鯛/魚鳥の季節/春暁・春昼/日永/麗か・長閑/春の蝶/蛙のめかり時/囀/雨の名風の名/花曇/花 その一/花 その二/花 その三/春の暮/三月尽【夏】新緑/深山霧島/山時鳥 その一/山時鳥 その二/青葉潮/筍流し/卯の花腐し/雨の文学/薫風/あいの風/やませ/南風/雲の峰/風知草/落し文/麦秋/万緑/底幽霊/泳ぎ/河童/鵜飼/涼し/花火/真夏日/赤富士/夜の秋【秋】踊/月/雁/秋がわき/野分/青北風/虫/虫のいろいろ/ごりと鰍/鶉/鵙の草ぐき/うらなり/蔓たぐり/物のあはれ/身に入む/馬・鹿 その他/鹿・猪/猿の親子/高西風/紅葉/秋の暮【冬(附・新年)】時雨/狸と貉/虎落笛/冬籠/息白し/雪/味の讃歌/討入りの日/去年今年/初春/雑煮/富士への讃歌/探梅/厄払い 歳時記について 解説『ことばの歳時記』のこと 宇多喜代子
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商品情報
- シリーズ
- ことばの歳時記
- 著者
- 山本健吉
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 角川ソフィア文庫
- 書籍発売日
- 2016.11.25
- Reader Store発売日
- 2016.11.25
- ファイルサイズ
- 0.8MB
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この作品のレビュー
平均 4.5 (2件のレビュー)
-
歳時記の季語を、歳時記の編纂者が随筆風に解説しつつ関連する俳句を紹介していく内容だが、あまりに高踏的なので途中からなかなかノリについて行けず読み進むまでに時間がかかった。上皇が音読しているというから、…それもそのはず。
一旦慣れれば面白く、著者の興味が国語だけでなく、風土の方にもあり、民俗学に近い記載が多いことがわかる。雅語よりも市井の人々の暮らしの中で使われた言葉や、漁師の風の呼び方の方に肩入れしている。2020年の梅雨は長く、8月になった途端に真夏になったけど、こういう自然の上で生活しているんだなと妙に実感を持てた。
「末黒の薄」、「蛙のめかり時」、「卯の花腐し」など、由来の怪しい言葉があったりするのを知るのも楽しい。
季語の感覚がなければ分からない日本の小説も多数あったんだろうと思う。も少し勉強したい。
続きを読む投稿日:2020.08.06
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山本 健吉
1907年~1988年。長崎生まれ。本名、石橋貞吉。父は評論家・小説家の石橋忍月。慶應義塾大学国文科卒。改造社に入社、「俳句研究」の編集に携わる。文芸評論家として古典から現代文学…に至るまで幅広い評論活動で知られる。『芭蕉』で新潮社文学賞および日本芸術院賞、『古典と現代文学』で読売文学賞、『いのちとかたち』で野間文芸賞を受賞。1969年、日本芸術院会員。1983年、文化勲章受章。『俳句鑑賞歳時記』、『俳句とは何か』(共に角川ソフィア文庫)、『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫)など著書・編著多数。
三月四日(昭和五十三年)、越路吹雪の第二十五回リサイタルの初日。一曲歌ったあと、彼女の挨拶の言葉の中に、 てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた という安西冬衛の「春」の詩がさしはさまれた。ようやく寒気がゆるんで、春の雨らしい暖い雨が降り、如何にも春の到来を思わせる日で、こういう日の挨拶に、季節にたがわずこんな春の詩をさしはさむ彼女の機知に感心します。
落し文 富安風生氏が「動物学者が落し文の名で呼ぶとは、動物学者もしゃれている」と書いているのを見て、はてなと思ったのだ。動物学者がこんなしゃれた名をつけることがあるかしら。動物や植物にしゃれた名をつけるのは、たいてい子供であるらしい。子供でなくても、生活の上で始終そのものに触れている、なみの生活人のウイットであるらしい。ダンダラチョウという美しい蝶を、動物学者がそういう名前で呼ばれているのを知らないで、たまたま岐阜で発見したからと言って、ギフチョウと名づけ、それが 通名 になってしまったような例がある。岐阜だけにいるとはかぎらないから、科学的にも正確な名前でなく、ダンダラチョウという名前に気づいたら、改めたらよいものを、台帳のようなものに登録されてしまったらどうにも動かせないらしいのである。これで、昔ながらの名前は、俗名だということにされるのである。 落し文などという名前は、決して動物学者の感覚ではない。これは、ゾウムシ科に属する小形の甲虫で、雌が産卵のさいに、栗・楢・樺・櫟 などの葉を横に嚙み切り、切られた尖端に一個ずつ卵を生みつけ、きれいに巻いて筒状の 揺籃 をつくる。それが巻かれたまま地上に落ちているのを、小鳥の仕業に見立てて、「時鳥の落し文」とか、「鶯の落し文」とか言っているのである。 落し文というのは、ただ落した手紙ということではない。元来はっきり言いにくいことを、だれが書いたとも分らぬように文書にして、道や廊下などに落しておくことだ。平安時代からあったことで、つまり 落書 である。それが門や塀や高札などに書かれると、落首・落書 になる。 落し文は多く結び文だった。そして、あのゾウムシ科の甲虫の仕業によって地に落ちた筒状の枯葉は、この結び文に似ていた。
そういう信仰が古くからあって、日本人の雪をよろこび、「雪見」などと言って、それを鑑賞する態度が導き出されてくるのだ。 雪は今でも、私たちを童心にかえらせる何物かがある。雪は思郷、回想をさそう種です。
それは、あらゆる日本人にとって共通の経験であり、共通の知識である。ある場合には、共通の美意識、共通の思想を形成する種ともなる。日本列島は東西に長く、ほぼ北緯三十四度から六度ぐらいの線における季節現象が標準となる。だいたい京阪地方を中心に、西は瀬戸うちに沿って九州北部に至り、東は東海道を経て東京とその周辺に至る地域で、それ以外の地域の季節現象は、標準からの若干のずれとして意識される。古くから文化の栄えた地域が中心になるのは、 止むをえない。「霞」とか「時雨」とか言っても、大和盆地や山城盆地にことに顕著な季節現象として、ひとびとの意識に焼きつけられ、美化されたのであった。続きを読む投稿日:2023.11.13
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