保育とは何か
近藤幹生(著)
/岩波新書
作品情報
財政難のあおりを受け,また,国の度重なる政策変更によって翻弄される保育政策.待機児童問題は依然,深刻であり,幼児をめぐる環境は厳しさを増すばかり.しかし,その間も子どもは成長する.この「待ったなし」の問題において,私たちは何を優先すべきなのか.乳幼児期保育・教育の現状を歴史の中から見直し,ありうべき保育像を模索する.
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商品情報
- シリーズ
- 保育とは何か
- 著者
- 近藤幹生
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2014.10.21
- Reader Store発売日
- 2015.01.22
- ファイルサイズ
- 2.9MB
- ページ数
- 208ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (10件のレビュー)
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「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」、さて具体的にどうしよう?
待機児童ゼロ作戦。これだけを聞くと、保育園を増設することにより、働く親が子供を安心して預けられる環境を作る、ということだと思ってしまう。
が、実際のところは保育園において定員を超えて園児を入園させ、
…正規の保育士を増やすのではなく、短時間勤務の保育士を増やすことであった。
以前、堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)というシリーズが話題になったが、
そこにある根本的な問題は「民営化」や「効率化」が生み出す弊害であった。
かのルポタージュはあまりにも衝撃的な内容であったが、
『保育とは何か』と題する本の最初の10%くらいでそれと同じ構造的問題が見えてしまったことは、また衝撃だ。
何故、そこからなのか。民営化が、効率化が、保育に何をもたらすのか。
保育は「効率」を求めるものなのか。
だから、「保育とは何か」を考えなければならないのだ。
なるほど、この順で論じることは筋が通っている。
幼稚園と保育園の違いは何か、
「子どもの権利条約」とは何か、などの基本的な知識の整理があり、
具体的な保育所の取り組みの中で、法律や権利条約がどのように作用しているか、
そして、内閣府の行う子ども・子育て支援新制度が保育をどのように変えるのかを論じる。
著者は保育者・園長をつとめ、現在は大学教授である。
そのような立場から、「子どもを社会が育てる」時代にあるということ、
それゆえ、「保育者の専門性が問われる」と主張する。
それはマニュアル通りにやることではない。
著者が小田中聡樹氏の文章から引用した中に、フランスの詩人アラゴンの詩の一節がある。
「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」
とても良い言葉だ。
ただ、そういう心を持った人間を養成するにはどうしたらよいのかについての
具体的な提案は乏しく、少々観念的になっている。
岩波新書としてはややページ数が少ない方なので、あと数十ページかけて
保育士や幼稚園教諭の養成課程がどのようなもので、そこにどのような課題があるのかを
論じていれば、もう少しよかったであろう。
続きを読む投稿日:2015.01.28
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この著作は、現代の保育にまつわる様々な問題について、網羅的に知ることができる
1冊である。内容は、待機児童問題、保育の現場で起こっていること、優れた保育園の実例紹介、子ども子育て支援新制度について、…過去と現在の社会の変化による保育の変化、保育士の置かれている状況など。豊富な参考文献が下支えとなっている良書である。
良書というのは、良きブックガイドになっていることも多いが、本書はまさにそうで、本書をきっかけに手に取る本を増やしていけば、より保育についての知見を深めていくことができるだろう。
著者は大学教授であるが、約30年に渡り保育士、園長を経験したスペシャリストでもある。だからこそ、第3章の「保育実践の輝き」で紹介される実例は、著者の人脈やフィールドワーク、現場を知るプロだからこそ着目できる保育園の豊かな実例に彩られている。
私自身が一番の読みどころと感じたのは、第5章で紹介される1970年代の子どもたちの姿である。ひたすら外遊びに明け暮れる子どもたちの様子が綴られる。最近ベネッセが行った意識調査では、約4割の保護者が、芸術・運動よりも勉強をしてほしいという結果が明らかになっているという。(インターネットで1万6千人が回答)。そういう意識が反映されているのか、子どもが外で思い切り遊ぶ姿というのは、都心においては、あまり見かけなくなっている気がする。
豊かな学びの土台には、遊びがあると著者は主張する。
現代は、電子機器が普及し、幼い頃からスマホに馴染む子どもがたくさんいる。
昔のように遊べる場所が激減し、危機意識から子どもを外で自由に遊ばせることに制限ができている現実もいたし方ないのかもしれない。
しかし、著者は直接的には述べていないが、社会でリーダーシップを取る人は、概ね子ども時代から遊び呆けてきた人だということを改めて認識したほうがよいと思う。
AIが本格的に登場し、生き残る職業、消滅する職業などど恐ろしい比較論も身近になってきている。機械が様々な面で労働を代替するからこそ、人間は人間にしかできないことに注力していくべきだと思う。
幼少期に外に出て遊ぶことというのは、社会にどのようなルールがあり、どんな危険があり、どんな楽しいことがあるのか。子どもだからこそもつ豊富な感性の元、喜怒哀楽の要素を身を持って知る又とない機会なのではないか。
実態を知らずに知識や情報を詰め込まれる子どもと日夜外に出かけていき様々な実物と出会っていく子どもと。どちらがたくましく育っていくだろうか。
極端な例かもしれないが、フィールドワークをする作家の書いたものとネットで調べたり、本で読んだ内容だけでものを書く作家。どちらのほうが面白いものを書くだろうか。
保育を考えることは、どういう社会を描いていくかを考えることに他ならないと思う。
藤井四段を見て、モンテッソーリ教育や将棋に関心を持つ親は多い。これは、自分の子どもには、社会を生き抜いていけるだけの知性を身に付けてほしい思いの表れだろう。
親が考えるべきは、子どもがのびのび遊ぶためにはどうしたらよいかを考えることかもしれない。続きを読む投稿日:2018.03.03
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