ドラッカー名著集12 傍観者の時代
P・F・ドラッカー(著)
,上田惇生(訳)
/ダイヤモンド社
この作品のレビュー
平均 4.4 (16件のレビュー)
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訳者あとがきに、「それぞれの世界に、通だけが知っているという超一流のものがある。なぜかは分からないが、通の間でしか知られていない。あたかも通たちが、門外不出、秘伝たるべきことを誓い合っているかのようで…ある。まさに本書がそのような本である。ドラッガー通の多くが一番好きな本と打ち明けてくれるものが本書だった。」とある。
自分はそれほどドラッガーを多く読んでいない。それでも、彼が出会った多くの人たちの物語に惹きこまれ一気に読了した。
ドラッガーの成長譚。真理のきらめきがある。これを基に物語を創りたくなる。若い人に読ませたい。もしドラ読んでないけど、、この本のエッセンスがあるものか、確かめてみよう。
以下は抜き出し。
・エルザ先生とゾフィー先生
ちょうどその頃私は、学校とは退屈な所であり、教師とは無能な者であるとの世間一般の常識を受け入れかけていた。エルザ先生とゾフィー先生のことを忘れたわけではなかった。
私は幸運にも、かのアルトゥール・シュナーベルが教えている現場に居合わせたのである。彼は、一流のピアニストとしての才能があるものだけを教えていた。シュナーベルの日程が何かの理由で混乱し、たまたま、すでにプロデビュー済みの友達の姉のレッスンを見られたというにすぎなかった。
レッスンの最初の一時間はありきたりだった。一か月前の前回のレッスンで宿題にされていたものらしかった。14歳だった友達の姉は抜群の実力を示していた。シュナーベルは彼女のテクニックをほめた。いくつかのフレーズを繰り返し弾かせた。もう少しゆっくりとか力強くとかいっていた。そのあたりは、まったく無名の私のピアノ教師の教え方とそれほど変わらなかった。
次いでシュナーベルは、次回までの宿題にするつもりの楽譜を取り出し、初見で弾かせた。再び見事なテクニックだった。シュナーベルはまたほめた。
そこでシュナーベルは、彼女が一か月間練習してきた二曲のソナタに戻った。「リリー、君はどちらも上手に弾いた。でも、君に聴こえるようには弾いていなかった。聞こえると思うものを弾いた。そういう弾き方はまやかしだよ。」
「いいかい、最初に私に聴こえるように弾くよ。君に聴こえるようには弾けない。それに君が弾いたようには弾きたくもない。なぜなら、あんなふうには誰にも聴こえないはずだからだ。いいかい、私に聴こえるものを弾くよ。それから、君に聴こえているかもしれないと思うものを弾くよ。」
彼はシューベルトを彼に聴こえるように弾いた。それからリリーに聴こえているかもしれないものを弾いた。突然リリーにもシューベルトが聴こえた。そのとき私は、彼女の顔にゾフィー先生の生徒の顔に浮かんだものと同じものを見た。そこでシュナーベルは「じゃ弾いてごらん」といった。
リリーはテクニック抜きで子供らしく素朴に、しかし自信をもって弾いた、そのとき私にシューベルトが聴こえた。私もあの表情をしたのではないかと思う。シュナーベルが私に向かってこういった。「聴こえるね。よしよし。聴こえるものが大事なんだよ。」
その後私はさほどの音楽も聴こえなかったので、音楽家にはなれなかった。しかし、私はあのとき、突然、何でも一流の物を探し続けることになるであろう将来の自分の姿を見た。
そして私は、正しい勉強の仕方、少なくとも私にとっての正しい学び方とは、うまくいっているものを探し、成果をあげる人を探すことだという事を知った。少なくとも自分は、失敗から学ぶことはするまいと思った。
私がそのとき一つの方法論を会得したことに気付いたのは何年もあとの事だった。それは、マルティン・ブーバーの初期の作品の中で、一世紀のある知恵あるラビの言葉「神は過ちを犯すものとして人をつくった。したがって人の過ちに学んでも意味は無い。人のよき行いから学ばなければならない。」を読んだ時だったと思う。
…
一流の教師はみな、違うことをする。違う教え方をする。ある教師に成果をあげさせる方法が、他の教師には役に立たない。そもそも試みもされない。なぜかは分からない。いまでも分からない。
…
ベニントン大学には、学生たちから最高の教師と目されていたフランシス・ファーガソンがいた。高名なダンテ研究者だったが、私のいう天賦の教師ではなかった。学ぶことのプログラマーだった。学生たちは、授業の後、目を輝かせて教室から出てきた。それは、ファーガソンが言ったり、したりしたことのせいではなく、ファーガソンのおかげで自分が言ったりしたりしたことのせいだった。
ゾフィー先生にはカリスマ性があった。エルザ先生には方法論があった。ゾフィー先生は悟らせ、エルザ先生は方法を与えた。ゾフィー先生はビジョンを描かせ、エルザ先生は学びへと導いた。ゾフィー先生は天賦の教師であり、エルザ先生は学習指導者だった。
この二つの教師像は、ソクラテスどころか古代ギリシャ人にとっての常識だった。歴史上ソクラテスは偉大な教師とされてきた。しかし本人は、教師と呼ばれることに少なからず抵抗を感じたに違いない。彼は学習指導者であって学ぶ者に対する案内人だった。
ソクラテスのソフィスト批判は、ソフィストたちが教える事を重視し、何を教えるかが重要であるとしたところにあった。ソクラテスはそのような考えを傲慢とした。ソクラテスは教える事の出来るのは、学ぶことについてであり、何かを学ぶのは生徒であるとした。大事なことは学ぶことであり、教えることであるとするのは思い上りであるとした。デルファイの神託が、彼をギリシャ一の賢人としたのはそのためであった。
…
天賦の教師と学習指導者にはもう一つ共通するものがある。やむことのない責任感である。第二次世界大戦の直後、エルザ先生の不遇を知った私は、タイプで打った手紙を付けて支援物資を送った。恥ずかしいので肉筆はサインだけにした。
早速先生から流れるような筆致の礼状が来た。「私が教えられなかったピーター・ドラッカーですね。私は読める字を書けるようにしてあげられませんでした。」天賦の教師と学習指導者という一流の教師にとっては、馬鹿な生徒も怠け者の生徒もいない。教えることができたかできなかったかがあるだけである。
・ポランニー一家と「社会の時代の終焉」
50年代半ばに会った時にはすでにこう言っていた。「毛沢東は孔子みたいになると思っていた。その可能性は十分あったと思う。でも権力を選んでしまった。結局はスターリンと同じになってしまうんだろうね。」
彼らは才能に恵まれてはいたが、歴史上の大物とはならなかった。いずれも重要人物というよりは興味深い人物であるにとどまった。だが、彼らの挫折にははるかに重要な意味があった。それは、ホッブズとロック以来の300年とまではいわなくとも、フランス革命以来の200年にわたって、西洋が追い求めてきたものそれ自体が意味のないものであった可能性を示すものだったからである。それは、唯一の世俗の宗教、完全な社会あるいは良き社会の探究の失敗であった。
…
「無謬の社会」の探究が、いまだに世界を非寛容なものとし、自由を奪い、終末戦争の危機を招きかねないほどに幅を利かせている今日、そのようなことははるか先のこととも思われるかも知れない。しかし、ちょうど16世紀から17世紀にかけての、カトリックとプロテスタントの融和を目指した哲人たちの失敗がその50年後の「宗教の時代」の終焉を予告したように、資本主義と共産主義を超える社会を求めたポランニー一家の人たちの挫折もまた、やがては「社会の時代」の終焉を予告するものだったという事に十分なりうるのではないだろうか。
・怪物ヘンシュと子羊シェイファーの運命
いかなる条件においても人が悪と取引してはならないのは、悪が平凡だからではなく、人が平凡だからである。ヘンシュのように、自分の野心のために悪を利用しようとするとき、人は悪の道具とされる。そしてシェイファーのように、より大きな悪を防ぐために悪を利用しようとするとき、人は悪の道具とされる。
・マーチャント・バンクの世界
フリードバーグは人を見抜く力を持っていた。イングランド銀行副総裁の紹介状をもったある会社の設立発起人が訪ねてきた。いくつかシティの大手のマーチャント・バンクが契約にサインしていた。趣意書は完璧だったし、発起人の経歴も立派だった。大手保険会社の財務担当役員だった。
二人の共同経営者リチャード・モーゼルとロバート・モーゼルは有頂天になった。大手金融機関のプロジェクトに誘われるのは初めてだった。しかしフリードバーグは「危ない」といって話に乗らなかった。モーゼル兄弟が会社を辞めると脅しても譲らなかった。
三か月後、その発起人は大手マーチャント・バンクから50万ポンドを手に姿を消した。「どうしてわかったのですか」。みなが聞いた。「最初から見え見えだ。誰も分からなかったとは信じられないね。彼は、何にでも答えられるように準備してあった。まともな者は、そのような準備はしてこないものだ。必要が無いからね。」
「設立後五年間、売り上げと利益は共に10%の伸びを見込んでいるね。これは設立発起人からの数字だね。売り上げと利益の両方の伸びを約束する経営者は、嘘つきか馬鹿のどちらかだよ。たいていは両方だ。」
(ヘンリーおじさんの知恵)
「というわけで、合理的でない客などというものはいないんだ。ものぐさな店があるだけだ。客がこちらの思ったような行動をとらなかったとしても、不合理だなどといってはいかん。教えてやろうなどとはとんでもない事だ。それは、こちらの仕事ではない。こちらの仕事は客を満足させて、またいらしていただくことだ。」
「客が合理的でないと思ったら、外へ出て、外から、客の目で店と商品を見てみることだ。客の方が合理的だということが、すぐわかるはずだ。彼らの世界は、こちらの世界と違うんだ。」
「客と正面からやりあってはいけないよ。しかし、クレームは正面から取り上げて、調べなければならない。」
「財務諸表なんか見てもしょうがない。どうにでもなる。チェーンの連中と会ってきたよ。頭のよい人たちだった。でも、商品は、客のために買い付けているのではないようだった。店のために買い付けていた。間違いだよ。それじゃ客は来なくなるし、売り上げは落ちるし、利益も上がらなくなる。」
(財務の天才)
「説明しなければならないようでは間違った提案です。誰もがこれだと言ってくれるような簡単なものでなければなりません。」続きを読む投稿日:2011.12.25
フロイトやトルーマンなどの歴史上の人物について、ドラッカーがリアルタイムで語っていることが新鮮に感じられた。
内容は、ドラッカーの経歴の中で出会った人たちとのエピソード。面白い本でした。投稿日:2019.03.13
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