増補改訂 境界の美術史 ――「美術」形成史ノート
北澤憲昭(著者)
/ちくま学芸文庫
作品情報
現在の美術を作り出した「境界」が引かれ、社会に浸透していく過程を、制度史的視点から捉えた画期的論集。近代において「美術」概念や日本画をはじめとする諸ジャンルは、いかにして形づくられ、純化へと向かっていったか。衝突や動揺を引き起こしつつも、五感の秩序における視覚の優位、工業社会の到来、固有の造型芸術への意志、これら三つが推進力となって「美術」は成立した。だが、その境界は画定し切ったわけではない。裂け目を孕みながら、未完の運動体として今もわれわれの目の前にある。『眼の神殿』と対をなす本書は、新たな作品創造と歴史記述の可能性へと読者を導く。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (1件のレビュー)
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「美術」と言えば、美術館の展覧会や画廊に飾られている作品を大体イメージするのではないかと思うが、少なくとも日本に関しては、「美術」という概念は明治時代になって西洋から受容されたものであると著者は言う…。その「美術」という概念が意味するところを知るために、「美術」という”言葉”の成り立ちを追求していく。当初今日の「芸術」の意味を担う言葉としてその歴史を開始した「美術」という語が、現在の視覚芸術の意味へと絞り込まれてゆくその形成過程を、多くの資料を元に読み解いていく。その中でも特に、工部美術学校や東京美術学校の開設、内国勧業博覧会の開催、そして「文展」の創設などが、制度=施設史として注目されることとなる(この辺りは、序章及びⅠ「国家と美術」の各論文)。
Ⅱ 「性と国家」では、西洋美術との出会いを通して新たな表現として登場してきた裸体表現を巡る問題などが論じられる。
Ⅲ 「美術の境界ージャンルの形成」では、「日本画」、「工芸」、「彫刻」といった概念やジャンルの成立を辿ることで、その中身や各ジャンル間に階層秩序が成立していった要因などが論じられる。
今では自明なものとして意識に上ることもないことが(指摘されれば当たり前のことだが)、実は歴史的に形成されてきたものであること、そこから改めて「美術」というものを考えていく必要があることを、美術の鑑賞者に過ぎない自分ではあっても考えさせられた。続きを読む投稿日:2023.10.02
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