仕事と江戸時代 ――武士・町人・百姓はどう働いたか
戸森麻衣子(著者)
/ちくま新書
作品情報
常に変化を求められながら、同時に変わらなさもあると感じる私たちの働き方。そもそも現代日本人の働き方の源流はどこにあるのだろうか。明治時代、産業革命以降の資本主義の流れのなかで形成されていったと見る向きもあるが、戦国時代の戦乱から解放され、おおいなる社会的・経済的発展や貨幣制度の成熟を背景に、多様化・細分化していった江戸時代の労働事情が、その源にあると本書では考える。当時の社会を形作ったあらゆる階層の働き方を丁寧に掘り起こしながら、仕事を軸に江戸時代を捉えなおす。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (3件のレビュー)
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時代の変遷は、人々の働き方にも変化を与えた。
中世・戦国時代の仕事は戦乱の終焉と経済の発展により、
江戸時代には多様な働き方が見られるようになった。
当時の社会における仕事について、その実態を解き明か…す。
・はじめに
第一章 「働き方」と貨幣制度
第二章 武家社会の階層構造と武士の「仕事」
第三章 旗本・御家人の「給与」生活
第四章 「雇用労働」者としての武家奉公人
第五章 専門知識を持つ武士たちの「非正規」登用
第六章 役所で働く武士の「勤務条件」
第七章 町人の「働き方」さまざま
第八章 「史料」に見る江戸の雇用労働者の実態
第九章 大店の奉公人の厳しい労働環境
第一0章 雇われて働く女性たち
第一一章 雇用労働者をめぐる法制度
第一二章 百姓の働き方と「稼ぐ力」
第一三章 輸送・土木分野の賃銭労働
第一四章 漁業・鉱山業における働き手確保をめぐって
・おわりに――近代への展望 ・あとがき
参考文献(主要なもののみ、引用順)有り。
各章の見出しに見られるように、
江戸時代には様々な仕事と労働形態が生まれた。
武士では、仕事内容や職務、給与や収入、副業、役得、
雇用労働、年季、斡旋と派遣、福利厚生、
出勤簿、手当と賞与等について。
町人では、序列である家持・地借・店借、
その日稼ぎの独立自営業の振売(小売商)や屋台、
日雇や月雇、専門職の職人、住み込みの奉公人や召仕。
女性では、生活の維持と家計を差配する商家の妻、
内職、商家の下女、年季奉公の女中、乳母、不条理な遊女屋奉公。
一生奉公の奥女中と花嫁修業にもなる下位役職の年季奉公。
百姓は「村」に居住する第一次産業従事者。
米・麦・大豆と、商品作物や加工品売買で得た金銭での納税。
家族労働と、日雇労働の手間取り。農閑余業という副業。
道の整備からの宿駅制度と商い荷物の輸送により、
宿場町が形成され、馬士が置かれるが、馬持百姓も輸送を担う。
河川舟運でも河岸問屋以外に舟持百姓も輸送を担う。
船頭や水主、舟引き人足は、農閑稼ぎの百姓の賃銭労働。
治水事業にも百姓の賃銭労働。土木専門の黒鍬の派遣。
漁業での、網元と網子や水主の雇用は、遊女屋奉公の如く。
鉱山では、手間賃は一般職人の数倍だが30歳前後で死ぬほど
過酷。特に水替人足は成り手不足で無宿者が動員。
どの仕事も一長一短ありきです。
超過勤務、窓際族、非正規雇用、副業、アルバイトにパート等、
現代社会にもある働き方の問題が、この時代にも内在しています。
また、武士の主従関係の影響で、主人に反旗を翻したら、
酷い扱いをされていても奉公人が罰せられる不条理さも。
そして、求人と求職を仲介する人宿(口入、桂庵とも)にも
言及されていたのは、知りたかったので嬉しい。続きを読む投稿日:2024.01.27
知ることのなかった江戸時代の各階層における働き方を知れてとても有意義だった。
武家奉公人の労働環境が過酷であったことや、商人の例えば大店における奉公人は11~12歳から働き始め、過酷な労働環境で半数…以上が死んだり逃げたりしていたこと、伝馬制度はコストや時間がかかることから抜け道として百姓が馬を飼って荷運びするようになったなどなど、興味深い情報が多い。
遊郭での奉公や鉱山労働などでは、前払いで年額を賃金を第三者が受け取って本人を働かせるような、ウシジマくんの世界のような状況が江戸後期まで続いていたというのも驚きだった。
現在は人権意識が高まり制度も実装され、浸透してきたことでコンプライアンス遵守やワークライフバランス重視の姿勢が強くなってきたが、自由に職業を選べ、辞めることもでき、休息や栄養を摂ることも可能という当たり前なことは今ならではのことで、これを改めてとても有難く思う。
こういった、健全な働き方というのは近代になってようやく整ったわけだが、それを可能にしたのはおそらく産業革命に始まる技術革新と、欧米からの「人権」や「民主主義」といった新しい概念の流入だったと想像できる。
こういった大きなブレイクスルーがないと、カースト的階層や既得権益層による支配-従属関係が固定化されてしまうこと、それが社会を澱ませ制度疲労を起こしたり国力を減らすようなことにも繋がってしまうのだろう。
江戸時代には鎖国によって独自の文化が維持継続、発展したというメリットがあった一方で、外部から得られるイノベーションがやはり激減していた。
戦がないという意味で太平の世の中ではあったのだろうが、固定化された階層における弱者にとっては無間地獄のようにも感じられたのではなかろうか。
それでも少しずつ歪み、鬱憤は溜まり、また制度としても袋小路に直面していた。
黒船来航による開国がきっかけであったとはいえ、既に社会のリセットの萌芽は出ていて、外国からの圧力はトリガー程度だったのかもしれない。
歴史にたらればを言っても意味がないが、外国からの働きかけがなかった場合でも幕府が倒れるようなことには早晩たどり着いていたんだろうなと本書を読んで思った。
しかしその後の発展は、鎖国を続けていた以上やはり遅れていただろうし、労働環境の改善はさらに後ろ倒しになっていたかもしれない。
持続可能型社会のモデルとして江戸時代を見直すという意見があるが、本書によって当時の労働環境のリアルを知ると、すぐに応用できるような得られるTipsは多くない気がした。続きを読む投稿日:2024.03.15
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