関西フォークとその時代 声の対抗文化と現代詩
瀬崎圭二(著)
/青弓社
作品情報
ベトナム反戦運動や学生運動を背景に、社会批判や反戦のメッセージを込めた関西フォークは、多くの若者を引き付け、強い支持を得た。1969年の新宿駅西口広場でのフォークゲリラにつながる関西フォークはどのように現れ、どのような人々が関わり、何を表現し歌ったムーブメントだったのか。
本書では、関西フォークの歌詞と現代詩との関わりに着目して、岡林信康、高田渡、松本隆、友部正人などのフォークシンガーの音楽実践を「ことば」を中心に描き出す。そして、歌い手をサポートした片桐ユズルや有馬敲らの文学者・文化人の活動やその意義にも光を当てる。
関西という地でフォークソングを歌い新たな表現を追い求めた若者たちとそれを支えた文化人の交流の場として関西フォークを位置づけ、「声の対抗文化」として評価する。関西フォークの音楽性や文学運動としての側面を検証する研究書。片桐ユズルへのインタビューも収録。
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商品情報
- シリーズ
- 関西フォークとその時代
- 著者
- 瀬崎圭二
- 出版社
- 青弓社
- 書籍発売日
- 2023.10.27
- Reader Store発売日
- 2023.11.03
- ファイルサイズ
- 13.2MB
- ページ数
- 324ページ
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この作品のレビュー
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関西フォークとその時代
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声の対抗文化と現代詩
著者:瀬崎圭二(同志社大文学部教授)
発行:2023年10月27日
青弓社
音楽史の本ではない。60-70年代の現代史の本とも言いがたい。歌詞、詩としての関西フォークの文学論で、学術書。タイトルで判断して、読んでみると難しくて投げ出す人も多いかも。著者は日本近代文学、文化研究が専門で、この本は2020-2022年に発表された4本の論文を土台にして書かれている。
数日前、あるSNSでこの本が出版社アカウントにより紹介されているのをたまたま見たが、恐らく「関西フォーク」という言葉を聞いたことがない誰かがコメントを書き込んでいて、音楽はワールドワイドだからフォークに関西もなにもない、と切り捨てていた。関西地方のフォークだと思ってしまったのだろうけど、ここで取り上げている関西フォークの主なシンガーのうち、関西出身なのは岡林信康だけで、高石友也、高田渡、友部正人は、みんな東京や名古屋から関西に来て、一定期間いただけの人である。作詞家の松本隆もフィーチャーしているが、彼も東京(今は半分、神戸にも住んでいるが)。
関西フォークはムーブメントのようなもので、ジャンルでもなければ、シンガーの出身地とも関係がない。関西フォークに詳しいなぎら健壱は、アングラ的・反戦的なフォークソングが関西から広がってきたため、そのような性質のフォークをいうのであると捉えているようだ。僕自身、関西フォークといえば、岡林もいるけれど、高田渡のイメージが強い。僕は東京時代の高田しか知らないので、どうして関西フォークなんだろう、曲を聴くと関西フォークだと誰にも言わなくてもそう感じてきたのは何故なんだろう、と思っていたが、この本を読んでルーツが整理できた。
章立てとしては、序章のほか、「詩人で英語教師の片桐ユズル」「有馬敲ほか作家」「岡林信康」「高田渡」「フォークゲリラ」「松本隆」「友部正人」となり、片桐ユズル氏への著者によるインタビュー記録も含めた終章もある。これがとても面白かった。
目次を見て、最も興味をそそられたのは友部正人の章だったが、読んで初めて知ったことも多かった。
基本的には、片桐ユズルの功績を顕彰する本でもある。片桐は、難解な言葉で埋め尽くされて理解されなくなった現代詩に危機感を抱き、関西フォークの歌詞を通じて〈詩〉を確保することを試みた、というのが著者の視点。なお、片桐が最も評価しているのは、友部正人だった。彼は詩人だと言い切っている。
ところで、大変驚いたことが一つあった。新宿西口のフォークゲリラの様子は、「怒りをうたえ」などの記録映画でたっぷり見て知っていたし、参加者だった泉谷しげるの話などでもなじみがあったが、始めたのは関西からデモに参加した人間だったという。1968年12月28日に新宿で行われたデモで、関西から参加した「ベ平連」の若者たちがフォークを歌いながら行進し、デモ終了後に西口地下広場でフォークを歌ったのが起源。それに刺激を受けた小黒弘、山本晴子らベ平連の若者たちが、大阪・梅田の地下街でのフォーク集会を見学して準備を進め、69年2月27日(28日説も)に西口広場でフォークソングによるアピールを開始した。こうした詳しい歴史は知らなかった。
**************
関西フォークは〈フォーク〉であることにこだわった音楽表現だった。民衆や民族という意味を辞書的には持つ。関西フォークはあくまで、民の歌、民謡であろうとした表現で、それが一つの運動として展開していったところが最大の特徴だった。
現代詩の難解さが問題となっていったのは、関西のフォークシーンが活発になる10年ほど前だった。
19667年7月29-30に、高石友也や奏政明を中心としたフォークキャンプが京都の高雄で開催される。同じ年の7月、片桐はフォークソングの動向を紹介するミニコミ誌「かわら版」を創刊。
1968年1月~、森小路協会でフォークスクール。
1969年1月、アングラ・レコード・クラブ(URC)、ここが著作権管理会社として設立したアート音楽出版社刊行の「うたうたうたフォークリポート」(後に季刊フォークリポート)。
ラジオ番組・・・
片桐は「ベ平連ニュース」1966年10月号で、ナパーム製造会社の一つであるダウ・ケミカル社製品の不買運動がアメリカで始まっていることを取り上げ、関係する旭ダウのサランラップではなく、呉羽化学のクレラップを買うことを呼びかけた。
児童文学者の今江祥智は、関西のフォークソングを流行歌とは異なるものと認識し、プロテクトソングの要素に注目。一方で、高石や岡林の歌は高く評価するものの、その背後にいる予備軍の弱さがフォーク集会を退屈にしていると批判。
立教大学に在学していた高石ともやが大阪にやってきたのは1966年4月。釜ヶ崎での日雇い労働や屋台のラーメン屋などでその日暮らしをし、夏頃からフォークソングを歌い始めた。
岡林信康は1966年4月に同志社大学神学部に入学したが、ギターを手にしたのは浪人時代。大学入学後、夏に山谷を訪れ、日雇い労働に従事して生き方を変えていくことになった。1967年6月に高石の歌を聴いたことがきっかけでフォークソングに関心を持つようになった。
労音の起点になったのは、関西勤労者音楽協議会(関西労音)で、1949年11月発足。会員制の組織で、組合や職場などでの3人以上の音楽愛好家の集まりをサークルの単位とし、会員になるためにはそのサークルに入らなければならなかった。組織が拡大、1950年には大阪労音と名を変え、1953年には東京労音も発足。岡林の主要な舞台は日本各地の労音の例会だった。
岡林がフォークの神様と呼ばれるようになったのは・・・
1970年前後の記事では「フォークの旗手」「フォークの教祖」「フォークゲリラの元祖」
1975年には、「ひところ〝フォークの神様〟と呼ばれ」「〝反戦フォークの旗手〟と呼ばれた」
・ひとつには牧師の息子であることが理由
・第二の要因は岡林の外見がキリスト的な風貌だったため
高田渡の父親は無名の詩人、高田豊。岐阜県本巣郡北方町生まれ。明大予科→法政大学文学部。戦後、北方町に戻って暮らしていたが、そこで四男の渡が生まれた。日本共産党から町長選挙に出るが落ち、妻の死亡後に4人の子共を連れて上京した。
父の没後、佐賀で暮らしていた渡は東京に戻り、アルバイトをしながら都立市ヶ谷商業高校の定時制に通い、「アゴラ」というグループに加わってフォークソングを歌っていた。自らも作詞するようになり、1968年8月に京都の宝積寺で開催された第3回フォークキャンプに参加、その時に歌った「自衛隊に入ろう」が話題を呼び、関西フォークの関係者たちと出会って、1969年2月にURCから初レコード。五つの赤い風船とのカップリングアルバム『高田渡・五つの赤い風船』。この時のレコーディングを機に高石音楽事務所(秦が社長)の所属になり、市ヶ谷商業高校を中退して京都で生活。
自衛隊に入ろうの歌詞では、自衛隊の存在や、それによって担保される国家、そこに適用される男性性が皮肉られている。その一方で、有馬敲は高田渡との対談で、高田の意図について、その当時、夜間の高校生で実際に自衛隊にでも入ろうかなとおもったんじゃないかな?そういう生活の不安定さと社会批判とが結びついてあのうたが出来たのでは?と尋ねたのに対し、高田は、歌ができるときは、いつも自分に取って切実であり、自衛隊のことは有馬さんのいうとおりかも知れません、と否定しなかった。
生活のために自衛隊への入隊を考えざるを得ないような学歴資本しか持ち得ない自己を自嘲的に語り、そこに適用される自らの男性性を皮肉ろうとしたとこにもその意図があったのかもしれないことになる。
1950年生まれの友部正人は、15歳のときにギターを弾き始め、高校を卒業するころには街角で歌っていた。高校を卒業すると家出して名古屋のアングラ劇団「ゼロ次元」を初めて見て驚いた。ある集団に身を寄せてボブ・ディランを翻訳した歌などを歌っていた。栄のオリエンタル中村前で歌い始め、そこに若者たちが集まりだすと、フォークゲリラと見なされ、名古屋栄解放戦線という名のもとで歌うようになった。
この頃、名古屋工業大学のバリケードに遊びに行き、帰りに火炎瓶をビールケース1箱もらう。「お土産」と言われた。それを名古屋大学の坂を下った交差点に投げた。「本山派出所への火炎瓶」と報じられた。
友部によるガリ版印刷の歌集を見て高く評価したのが片桐ユズル。片桐は東京から神戸に移り住んでいて、友部は関西に。1970年には関西で生活をしていた。しかし、1971年には東京に移っているので、1973年にURCからリリースされたセカンドアルバム「にんじん」は東京移住後に作られた曲で構成されているのであろう。なお、URCから出たファーストアルバム「大阪へやってきた」が出たのも移住後の1972年1月。
谷川俊太郎は、友部との対談を通じて「話し言葉、書き言葉の他にもうひとつ、歌い言葉というものがあるのではないか」と感じたと記している。それに対して友部は、「普段、話すということにそれ程重みをおいていないぼくは、話すということに、非常に重みをおいている谷川さんとの対談で、少し変わりそうだ」として、2人の認識のズレが感じられる。
なぜ関西だったのか?
1964年の東海道新幹線開通やテレビの普及が関西での文化の「相対的な地位の上昇」を促し、東京の流行を吸収しつつそのアンチテーゼともいえる動きを見せた。「根強い庶民感覚や在野意識」「東京に対する強い対抗心」・・・前田祥丈・平原康司
学生の街である京都を中心のフォークシーンが活発化していったこと、大阪労音ラインがあったこと・・・前田・平原
高田渡は「東京フォークゲリラの諸君達を語る」という歌も作っている。彼からするとフォークゲリラの連中は大学生が多くてエリートに見えたんだろう・・・片桐ユズル
岩波文化という言葉にはピンとこない。ピンときたのは、東京の中央線文化。片桐も谷川も中央線文化のなかで育っている・・・片桐ユズル
そこに友部正人も加わってくる・・・著者
友部正人は詩人だから深みがある、岡林の詩には、、、いやあ、ない・・・片桐ユズル投稿日:2024.02.04
60年から70年のフォーク・ロックは憧れの風景だった。高田渡やはっひいえんども素敵だったが、唄をうたう原点は友部正人にある。
難解で孤高な言語表現はなじまなかった。現代詩でも中原中也、金子光晴、谷川俊…太郎がしっくりする。
うたうことばが必要だった。やさしくても高揚することばが。
続きを読む投稿日:2024.04.08
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