将棋の日本史
永井晋(著)
/山川出版社
作品情報
中国から伝わった象棋は、日本独自の駒とルールにつくり直され、将棋として根付いていった。平安時代の宮廷で高貴な人々が観て楽しんだ将棋は、寺社で大将棋へと発展し、武家社会でも合戦と結びついた兵戯として、また処世の一つとして広まってゆく。賭将棋に熱中する武士や僧、富裕な都市民も多く、しばしば幕府に禁じられたが、日常的な遊戯となって、現在の40枚制将棋が成立する。
出土駒や史料をもとに、日本文化として将棋が形成されていく歴史を明らかにする。
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日本中世史の歴史学者である永井晋さんがアマ四段認定を受けている。まずその事に驚いた。
日本の将棋を遡ると中国の唐代象戯に行きつき、その唐代象戯を遡ると北周の武帝が書いた「象経」に辿り着く。日本に遊戯と…してではなく兵書として入ってきたものが、どのように変化をしつつ今の将棋へと至ったのか?を数少ない史料や出土品から検証している。
抽象性が高い囲碁と違い、中国と日本では兵制が違う。例えば攻城兵器を意味する「炮」といった駒は無く、騎馬武者(長弓騎兵)を意味する「桂馬」が重要。そして、取った駒の活用。殲滅戦も多い中国では次々と退場し、終盤は駒が少なくなる。一方、敵の大将以外は降伏を認め新たな戦力にする事も多い日本では取った駒を持ち駒として自軍に加える。
また、こちらも囲碁との大きな違いで、お偉いさんが直接、戦でドンパチする事はないので、観る将が多かった(とは言っても次の一手を考えるなど完全な観る将ではない)。ただ、大河ドラマで悪役として描かれる事も多い藤原頼長を始め、摂関家には指す人物も多く、特に九条家。また、八条院の周辺でも指されていた。九条家と言えば、鎌倉幕府の4代将軍・頼経ちゃんの出身。その影響か?将棋は鎌倉にも入ってきて、賭け将棋を幕府が禁じるほど浸透していく。
また、寺院でも将棋の広がりがある。こちらは時間的な余裕もあり、後に沢山の駒を用いる中将棋や大将棋へと繋がってゆく。
将棋駒についても出土品から触れており、今のように立派な駒は少なく、寺院で使われた建材を再利用していたのか?厚さや天地左右のバランスもバラバラであった。
駒の話では大将棋の「注人」(仲人)が気になった。前後に一マスずつ進めるが横には移動出来ず、後ろに控える歩より下がる事は出来ない。斥候という名の特攻枠みたいな感じで魅力がある。王の親衛隊的ポジションであり駒が少なくなってくると攻撃面でも強さを発揮する「酔象」も良い。三国志演義の南蛮編で象が現れるが、そういった戦象がモチーフ。発情期になると暴れて仕方がないという点からも攻守共に強力に暴れる枠として採用されている(中国では象は聖天の化身とも言われている)
中国から駒や将棋盤が直接伝わったわけではなく、兵書として伝わったものを、貴族や僧侶が「こんなだったのかな?」「留学した時に見たのはこんな感じだったぜ」「日本風にちょっとアレンジしてみよう」など試行錯誤し、現代の将棋へと繋がっていく事に思いを馳せると面白い。続きを読む投稿日:2023.08.09
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