「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――
柏原光太郎(著)
/日刊現代
作品情報
日本各地に「美食経済圏」を構築せよ!
富裕層旅行が注目される今、美食を核に据えた経済圏構想を軸に、点から面のツーリズムの発想転換で、地方&日本を再生する手法を展開した“シン観光立国論”!
大軽井沢経済圏、北陸オーベルジュ構想、瀬戸内ラグジュアリーツーリズム……。
一泊100万円かかっても価値ある旅にはカネを惜しまない富裕層をターゲットにした観光ビジネスは、インバウンド需要が復活しつつある今、観光庁もイチオシの最注目分野だ。
本書では、大軽井沢経済圏や北陸オーベルジュ構想――等々、点から面のツーリズムへの発想転換で、地方をそして日本を輝かせるための「美食経済圏」を核にしたユニークな施策を大公開。食のメディアを作り続けてきた“食通”編集者が、約40年のキャリアで培った知見の集大成の書である。
日本を救う最後の資源は美食である――。
東京には世界中の美味を楽しめるレストランがあり、地方には素晴らしい食材と食文化がある――。日本は30年以上賃金が上がらず、かつては格下と思っていたアジア諸国からも様々な面で抜き去られているといわれるが、日本には世界のどこにも負けない素晴らしい資源がある。それが「食」である。
キーワードは「フーディー」!
ミシュランガイドは、日本が世界一の美食の国であることを発見したと唱えたが、日本は、実は50年以上前から美食の国なのだ。今、その素晴らしさを国内外の「フーディー」たちが改めて注目している。
「フーディー」とは要は、美食家である。スウェーデンの映画「99分、世界美味めぐり」で紹介された、美味を求めて世界中を旅する人々のこと。彼らは、これまでの食通とはケタが違う。もはや金持ちの道楽の域を超えている。美食自体が金を生むようになった現代で、「フーディー」は食文化興隆のカギを握る存在なのだ。そして今、「フーディー」たちの視線は日本に向いている。
「食」が拓く未来の正解がここにある!
彼らが発見した「美食」を核に、日本全国にガストロノミー経済圏を作るときが来た!
本書は、アフター・コロナのインバウンド需要も見据えた“シン観光立国論”である。そこには地方&日本再生のヒントが横溢している。観光庁も富裕層旅行を推進する今、地方自治体の観光課や飲食関連企業の企画担当者、レジャー動向をウォッチするマーケッターには、必読の書だ。
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【まとめ】
1 フーディーとガストロノミーツーリズム
2023年2月1日付で、観光庁は、「地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業に係る調査業務」の入札を発表した。要は今後インバウンドが急速に復活…すると予想される中で、国が率先してガストロノミーツーリズム、つまり食を中心としたツーリズムによって地方を活性化したい。そのためにはまず、ガストロノミーツーリズムに取り組む地域を選定して、さまざまな調査を行いたい、ということだ。
「観光立国こそが日本の目指す道だ」とこの十年来いわれているが、観光立国や地域創生を「食」を使って行うことを宣言したわけである。
ここ数年、美味しいものを求めて世界中を旅する人が増加し、彼らは「フーディー」と呼ばれている。いま世界中のフーディーたちは日本の美食に熱い視線を注いでいる。日本食の世界はいまや、「世界標準」で稼ぐことができる可能性を秘めているのだ。
2 フーディーの登場
フーディーの登場に大きく影響したもののひとつに、インターネットの普及がある。ネットが広がることによって世界中の情報が検索できるようになり、情報の共有化が瞬時に行われるようになった。そして、情報の共有化は、誰もがアクセスできる玉石混交の情報の中で、なにが一番いい情報なのかを選別しようという動きにつながり、フーディーはそうした流れの中で登場した。ブログのアフィリエイト広告、企業案件といった「情報で稼げる」時代の到来と合わさり、大きな発言力を持った食通が先鋭化されていった。
また、SNSの登場もフーディーが拡大した一因である。食について似たような価値観、経済的な価値を見いだせる人々が互いに繋がることでコミュニティが作られていき、おいしいお店の情報を共有し合ったり独自のレストランランキングを作ったりしながら、世界の食産業全体に影響を及ぼしている。フーディーたちの力を合わせて実現したプロジェクト、イベントは数え切れない。
色々な試みの背景には、フーディーとシェフの交流が一般的になっていることがある。これまでは料理人の作ったものを食べることしかできなかったのに、交流する楽しみが増えたのだ。料理人は普段の夜にはなかなかほかの店に食べには行けないから、限られた時間は美味しい店に行きたい。それにはフーディーたちの情報をうまく利用したいというわけだ。
いっぽう、フーディーたちは自分たちが行った店の評価をシェフに開陳するという自己承認欲求が満たされるとともに、もっと仲良くなれば、シェフの休みの日に一緒に食べに行くようになれるかもしれない。こうしたやり取りは日常化し、フーディーや一流シェフの情報は、瞬く間に共有されていく。
3 フーディーを使った美食観光論
フーディーは「食」を異常なほど追求するイノベーターである。「食」がイノベーターからアーリーアダプターを超えて、アーリーマジョリティにまで受け入れられることができれば、「食」を足がかりとした観光戦略が構築できる。
そのために考えるべきことは、食だけでなく、そこに付随してくる宿泊や観光などの分野をどうやって充実させるかということだ。特に地方で食が充実している地域は風光明媚なところも多い。そこに素晴らしい宿泊設備や交通インフラがあれば、充実したガストロノミーツーリズムが生まれる。そして、ガストロノミーツーリズムが発展していけば、さらなる富裕層が訪れるラグジュアリーツーリズムとなり得る。
インバウンドや富裕層を取り込んで成功した地方といえば、北海道のニセコである。
ニセコの成功は「選択と集中」を決めたことだ。一般的な地方創生策は、B級グルメから高級温泉旅館まで多いが、ニセコは「パウダースノー」をキラーコンテンツと定め、ターゲットをスキーが好きなインバウンドと富裕層に絞り込んでいる。
しかし、地方すべてがニセコの成功を辿れるわけではない。地方の発展とは、ニセコのパウダースノーのような原石となる可能性のものを発見し、それを磨きこむことである。そこまでやってはじめて、観光を発展させることができる。その原石を発見しようともせず、古くからそこにあったり、美味しいといわれているものだけを無造作に取り上げても、地方を発展させることはできない。
そこで、ニセコの「パウダースノー」を「美食」に変えることで成功できるのではないか。つまり「美食」「インバウンド」という単語を複合的に使った「ガストロノミーツーリズム」、そして、そこに「富裕層」という単語も加えた「ラグジュアリーツーリズム」を発達させることで、地方を蘇らせたいと私は思う。
4 ガストロノミーツーリズム実戦論
●大軽井沢経済圏構想
軽井沢は、観光客のうち半分近くの400万人は7月、8月にやってきて、オーバーツーリズムになっているのに対し、冬は人工雪の軽井沢プリンスホテルスキー場しかなく、見どころはアウトレットや旧軽井沢といった買い物スペース程度で、全体的に観光資源がない。
「大軽井沢経済圏」とは、軽井沢単体だけでは観光客を集めるのには限界があるが、周辺の豊かな観光資源を持つ地方自治体と一緒に「大軽井沢」という形で眺めれば、観光客へ多くの魅力を発信できるに違いないという考え方である。いわば「面のツーリズム」だ。
千曲川のワイン特区、軽井沢のウイスキー開発、周辺自治体のスキー場(草津、万座、鹿沢など)、温泉(草津、万座、高峰など)。それらを一緒に観光圏として活用しようというのが「大軽井沢経済圏」の発想である。
ガストロノミーツーリズム、ラグジュアリーツーリズムには、「いい食」「いい宿」「いい観光」が必要である。世界の富裕層旅行のトレンドでは、1回どころか1泊に100万円払っても満足できるホテルを選ぶ。軽井沢には1泊100万円を超えるラグジュアリーホテルがない。いい食、いい観光の他にラグジュアリーホテルの充実に投資する必要がある。
先鋭的な言い方をすれば、海外の富裕層宿泊のキーワードは単なる観光から「ウェルネス(保養)」に変わりつつある。軽井沢が日帰りから滞在型のリゾートに変わっていくには、ウェルネスの概念はとても重要になる。精神を開放し、自然を満喫するだけではなく、宿泊施設自体が楽しみをどんどん提案するような形だったり、ひっそりと佇むような隠れ家としての機能を充実させたりする必要があると思っている。
●北陸オーベルジュ構想
これまで観光都市でもなかった場所が突如、「美食」「フーディー」「インバウンド」といった要素で飛躍した地域がある。富山県だ。人口100万人しかいない富山県内に20ものミシュラン星付きレストランがあり、世界遺産の合掌造りもある。自然は3000メートル級の立山連峰からなる美しい風景があり、昔からポテンシャルの高い地域だった。
富山がフーディーに発見されたきっかけは、「レヴォ」というオーベルジュのオープンがきっかけだった。フレンチ料理人である谷口シェフが、富山県南砺市利賀村という人口わずか500人の村の食材に惚れ込み、2020年にレヴォをオープンさせた。それがフーディーの目に止まり、その流れで、富山の美食が続々と発見され始めたのだ。
これこそまさに、私が提唱するトリクルダウンの理想形だと思う。ひとりの突き抜けた存在(ヘンタイ)が現れ、それをフーディーが見つけ、アーリーアダプターにつながり、富裕層が行きたがる存在になる。それと並行的にさまざまな刺激的な場所が発見され、面のツーリズムになっていくという仕組みだ。北陸地方が県単体で観光客の奪い合いをするのではなく、福井県や石川県と組んで横断型のツーリズムが出来上がれば、日本でも有数のラグジュアリーツーリズムになる。それが私の考える「北陸オーベルジュ構想」である。
5 美食立国として輝くために
●点ではなく面でツーリズムを捉える
●必要なのは「いい食」「いい宿」「いい観光」
食・宿・観光のどれもがうまく配置されている場所が美食立国の要点。日本は食・観光はあっても「いい宿」が少ないのが難点。
●一番のキーワードは「フーディー」
フーディーに「発見」されるような場所を作ることを考えることが重要。フーディーは食に関するオタクなので、彼らの食に関する感性は最先端のものがある。彼らに発見されて、それがアーリーアダプターである富裕層に伝播していくという、うまい流れを作ることができればしめたもの。
●食に関する「ヘンタイ」を呼び寄せる仕組みを作り上げる
●ヘンタイが作り、オタクが発見した美食の聖地をトリクルダウンで発展させる
●ガストロノミーツーリズムからラグジュアリーツーリズムヘ
いまや政府も観光庁も富裕層誘致へ旗を振りはじめている。フーディーに発見された突き抜けた美食を核にして、インバウンドが好きな観光要素をつなげたのがガストロノミーツーリズムだとしたら、そこにもっとアトラクティブな楽しみやSDGs的な試みを加えて、富裕層に長期的に回させるのがラグジュアリーツーリズムである。
●都会のツーリズムは回遊型へ
東京には「いい食」「いい宿」「いい観光」の3要素はありますが、そこから周辺を回遊させることでさらに経済効果を高めることができる。横浜、鎌倉、湯河原、茨城、山梨、日光など、美食・楽しさを満足させる場所がたくさんある。また、東京は横綱相撲に徹して美食情報を発信し、その情報をもとに地方も一緒に潤わせるという流れを作ることも必要。
●日本の美食立国化で地方の生活水準を上げ、日本人も美食体験ができる循環を作り上げる続きを読む投稿日:2024.03.19
ガストロノミーツーリズム
地方創生ではない
フーディーを意識し、トリクルダウンの美食立国
回遊型
7・30・100を破る努力を投稿日:2024.02.28
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