マイノリティ・マーケティング ──少数者が社会を変える
伊藤芳浩(著者)
/ちくま新書
作品情報
「マイノリティ・マーケティング」とは、マイノリティ自身が、マーケティングの手法を用いて社会を変える、その方法のこと。ろう者を中心に、コミュニケーションバリアフリーを推進するNPO「インフォメーションギャップバスター」は、この手法によって、きこえなくても電話が使える電話リレーサービスの法制化や、東京オリンピック・パラリンピック開閉会式テレビ放送への手話通訳導入に尽力してきた。少人数でもお金がなくても、効率的に社会を変えられる、とっておきの方法。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (3件のレビュー)
-
「要望のタイミング」「要望に書くべき内容」は大事だと思った。さらに「自分ごと化」してもらうための活動も必要。関係者を巻き込むために「大義」を掲げる。当事者の悩みの解決だけで終わらず社会問題として解決し…ていくことを目指したい。障害児を持つ親だからこそできることを積み重ねたい。続きを読む
投稿日:2023.05.07
このレビューはネタバレを含みます
マイノリティ・マーケティング
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~少数者が社会を変える~
著者:伊藤芳浩
発行:2023年3月10日
ちくま新書
手話には、日本語対応手話と日本手話があり、その二つは違う手話だということを知らなかっ…た。前者は日本語に対応する言葉を手話に置き替えたものだが、後者は独自の文法体系を持った言語らしい。また、聴者が言葉を聞いて手話通訳する手話と、ろう者が日常的に使っている手話も違い、ろう者にとってネイティブである後者の方が分かりやすいそうだ。それも知らなかった。
長い間、ろう学校では手話が禁止されていた。口の動きで言葉を読み取る「口話」で教育を行っていたそうで、赴任してくる先生も手話ができない人が多い。今は禁止されていないが、それも2000年代に入ってからのこと。これも衝撃的だった。
我々は、つい聴覚障害者は視覚障害者に比べて日常生活はしやすいと考えがちだが、それは大間違いだとわかってきた。この本を読むと、手話ができる障害者はごく一部であり、その意味で、ろう者は障害者の中でもマイノリティであるという。
この本のタイトル「マイノリティ・マーケティング」とは、マイノリティをターゲットとするマーケティングではなく、マイノリティ自身がマーケティングする手法のこと。著者はろう者で、名古屋大学理工学部を卒業して、大手家電メーカーに勤める。ろう者の立場で行うマーケティングが、仕事に大きく貢献しているという話かと思って読んだら、それも違っていて、大手家電の話は全く出てこなかった。ろう者の立場として必要だった社会の変革を、マーケティングの手法を用いて実現した話だった。その事例も3つ、書かれていた。
NPO法人IGB(インフォメーションギャップバスター)代表。
図書館でたまたま目に付いた本。借りようかどうしようか迷ったが、つまらなかったらすぐ返そうと思って持ち帰ったものの、とても勉強になった。
********
聴覚障害者の給料平均金額は聴者の67パーセント。身体障害者の中でも聴覚障害者は昇格経験が少なく、職場定着率も悪い。給料の平均額は、「内部障害」24.7万円、「肢体不自由」20.5万円、「視覚障害」23.5万円、「聴覚障害」20.5万円。
昇級経験者の割合は、「肢体不自由」31.7パーセント、「内部障害」30.2パーセント、「視覚障害」25.2パーセント、「聴覚障害」16.1パーセント。
「障害の個人(医学)モデル」:日常生活や社会生活に支障が出ている心身の機能不全による「障害」が原因で、社会生活において不便や困難が起きていると考え、リハビリなどによる個人の努力や訓練が必要、医療の領域の問題
「障害の社会モデル」:社会のなかにある障壁に困る人がいて、この障壁による「障害」をとらえ、それを作りだしているのは社会であり、解消する責任があるのも社会である、という考え。1980年提唱。
フィリップ・コトラーの定義「マーケティング」
どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げること(2001年)。
しかし、マーケティングの定義はマーケッターの数だけある
企業のマーケティングにおけるで行われている2つの手法
・利益を最大化する手法
・CSRマーケティング:企業が社会的責任を果たして信頼を得、ブランドイメージを向上させる手法←社会問題の解決、社会への新しい価値の提供に取り組む
STP分析
・セグメンテーション:様々な立場の人(ステークホルダー)やニーズを把握してグループに分類
・ターゲティング:事業のターゲットとするステークホルダーやニーズを決定する
・ポジショニング:自分の団体の立ち位置をしっかり定める
ICBの3アクション
・アドボカシー(権利擁護の意→マイノリティの権利を擁護するための広報活動):自助の底上げ(理解や支援を得たりする)、間接アプローチ
・エンゲージメント(約束の意→顧客とのつながりや関与を促す→世論形成):社会や行政に関心を持ってもらう、「無関心」「無理解」「思い込み」の解消、間接アプローチ
・リコメンデーション(顧客の興味や関心がありそうな情報を提示する意→要望活動):直接アプローチ
ノイマン(政治学者)の「沈黙の螺旋仮説」(1997)
・自分の意見が多数派だと公表するが、少数派だと孤立を恐れて沈黙する
↓
・多数派意見が声高に話され、少数派意見は沈黙する循環が起き、多数派意見は顕在化、少数派意見は過小評価される「世論」が形成
↓
・「世論」の動向について集合的錯覚が連続展開していく=沈黙の螺旋
*世論形成の過程で人々が社会動向を観察する際の情報源としてマスメディアが重要な役割を果たすとノイマンは主張
VUCA時代
Volatility:変動制
Uncertainty:不確実性
Complexity:複雑性
Ambiguity:曖昧性
■変革事例1:ろう者にも電話を!電話リレーサービス
電話ができないバリア
日本では100人に1人はいる。メールやFAXがあるではないか→日程が差し迫ったことはリアルタイムでやりとりの必要
・宅配の再配達を本日中に
・申し込んだセミナーをキャンセル
・クレジットカードの解約
・コロナ感染の疑い→どうすればいいかの問い合わせ
・110番、119番の緊急連絡
日本財団が法制化を目的に2013年から試行的にサービスを開始。聴覚障害者がパソコンやスマホを介して通訳オペレーターに手話や文字チャットで内容を伝える→オペレーターがそれを音声にリアルタイム通訳して相手に伝える。聞こえない人の自立を促進するツールであると同時に、聞こえる人にも必要なサービス。例えば、お店から聞こえない人に申込みの確認連絡をしたい時など。社会全体にとって、水道・ガス・電気と同じ不可欠の公共インフラに相当。
実現のためにしたこと
・ステークホルダーの整理:当事者と事業者それぞれにメリット、支援者が楽になる
・「障がい者の自立のために所得向上を目指す議員連盟」の中にIT出身の山本博参議院議員がいて、電話リレーサービスの必要性に言及している→働きかけ。その他の議員にも。その結果、安倍総理の答弁があり、始まる大きなきっかけになった
キラーコンテンツ(世論や行政、政策形成に大きな影響を与える情報)は二つのタイプがある
・政策の必要性を理解することが出来るデータ、エビデンス。当事者のアンケートや問題の大きさを表す数値(オンライン署名も含まれる)、など。
・政策の必要性を訴えるエピソード。特に命に関わったり(2017年6月3日、愛知県西尾市でのプレジャーボート転覆事件、2018年10月20日、岐阜・長野県境奥穂高での遭難事故など)、大きな被害を被ったりするケース
2021年度から運用開始。日本財団電話リレーサービスは、サービス利用者に請求しているのは電話リレーサービス利用料金(主に自分の通話料)のみで、通訳やシステムにかかる費用などは一切請求していない。
■変革事例2:東京オリ・パラに手話通訳を
あまり知られていないが、日本語と日本手話は文法体系が異なる。手話をベースに生活している人は、画面に字幕をつけるだけでは十分に理解できない。また、聴者の手話より、ろう者の手話の方が分かりやすい。ネイティブな手話。東京オリ・パラの中継で、ロビイングの結果、オリの開会式以外にはNHKの中継で手話通訳が入ったが、すべて、まず聴者の手話通訳が手話をし、それで内容を知ったろう者の手話通訳がネイティブな手話で伝えた、という手順で行われた。
2021.7.23の東京オリンピック開会式(無観客)のNHKでの中継に、手話通訳が入らなかった。韓国や台湾ではワイプで映していたが、日本の配慮の不足が明白になった。なお、競技場内のスクリーンには映っていたが、これは競技場内で働くろうのスタッフ用。
前日の7.22に、全日本ろうあ連盟が、組織委員会、NHK、民放連などに要望書を出していたのに。
7.24に、手話推進議員連盟が、菅首相、組織委員会、NHK,民放連に対し手話通訳を求めたところ、8.8の閉会式、東京パラ開会式(8.24)と閉会式(9.5)には、Eテレでの中継に入れるとの回答があった。多くが見る総合に入らなかったのは不満だったが、ロビイングが成功した。
その手順を紹介。
ステークホルダーの整理→IOC、オリンピック放送機構(OBS)、ジャパンコンソーシャム(NHKと民放連で構成)、JOC、JPC(パラ委員会)、株主、放送スポンサー、視聴者、従業員など。
キーパーソン→永野裕子豊島区議その他
キラーコンテンツ→短期間で3000名のアンケートを集めたが、ろう者だけでなく聞こえる人からも集めたところがポイント
■変革事例3:パブリックコメントにろう者の意見を
聞こえない、聞こえにくい子は1000人に1人の割合で生まれてくるが、その90パーセントの親は聞こえる。
言葉には「話し言葉」と「書き言葉(書記言語)」がある。話し言葉には「音声言語」と「視覚言語」がある。
手話:視覚言語であり、音声言語とは異なる文法体系を持った独自の言葉
手話には「日本語対応手話」と、「日本手話」がある。
日本語対応手話:音声言語である日本語に手話単語を一語一語あてはめていくもの
日本手話:独自の文法を持つ手話
ろう学校など聞こえない・聞こえにくい子の教育現場で、長い間、手話が禁止されていた。1880年にミラノで開かれた第2回聾教育国際会議でろう者への教育は「手話法」より「口話法」が優れていると宣言されて以来、ろう学校では口話が主流に。2010年にバンクーバーで開かれた第21回聾教育国際会議で手話を否定したミラノ会議の全ての決議を却下する旨の決議が採択された。
ろう学校に赴任する先生の多くが手話を知らない人が多い。手話で教育してもいいとされたのは2000年代に入ってから。
第一言語(最初に習得する言語、最も得意でアイデンティティの支えとなる言語)は、一般的には親が話す母語のことで、ろう者の言語習得はこうしたマジョリティの典型例と一致しない。親がろう者なら手話が母語、聴者なら音声言語が母語になる
多くのろう者にとって、音声言語は思考の拠り所になる第一言語になりにくい。手話に出会った場合、それを拠り所に思考や認知発達、アイデンティティ形成を発達させる
新生児に聴覚障害があっても、それが告知されるのみで、どのようにすべきか指導・助言がなかったり、少なかったりした。また、自治体による格差も大きかった。そこで、2019年に「難聴対策推進議員連盟」が発足、2021年12月10日に「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」に関するパブリックコメントを厚生労働省が開始したが、ろう者の母語である手話での意見提出が認められていなかった。日本語に限る、としていた。
そこでIGBは、オンライン署名を開始し、厚労省にロビイングを行って、短期間に741筆の署名を集めて12月23日に提出。24日に手話での提出を認めさせて、22年1月9日までの期限に20名の手話動画による提出へとつながった。全意見の6パーセントの数となった。
パブコメを提出する言語がなぜ日本手話でないといけないかを、著者自身の体験を踏まえてキーとなるステークホルダーに説明。「神奈川県手話推進計画に関する意見募集」で手話による案内動画があり、手話での動画提出が可能だったことがあり、DVDで47名の提出があったという先行事例を紹介してキラーコンテンツとした
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EBPM(evidence based policy making):evidenceをもとにした政策形成が官僚からが求められるが、emotion based policy makingの方が政治家には大切
マイノリティか感じるバリア
1.物理的なバリア(段差、隙間、道を塞ぐ自転車など)
2.制度面のバリア(前例、宿泊・交通・飲食・娯楽などのサービス利用、申込みやキャンセルなどの手続き、入試など)
3.文化や情報面のバリア(字幕や音声ガイドのないテレビ、手話通訳や字幕のない講演会、日本語だけの公共アナウンス・・・)
4.意識面のバリア(差別、偏見、無関心など)
アンコンシャス・バイアス
1.正常化バイアス(大したことない、なんとかなる、と判断してしまう)
2.確証バイアス(自分にとって都合のいい情報だけ集める)
3.ステレオバイアス(ステレオタイプに基づいた決めつけ)
4.権威バイアス(権威がある者の意見は常に正しい)
5.集団同調性バイアス
マイクロアグレッション(精神科医ピアース、70年代)
白人が黒人に対して無自覚に行う「けなし」があることに注目
1.マイクロアサルト:明示的な軽蔑を含み、特定コインに狙いを定めて攻撃的な言動をするなど
2.マイクロインサルト:無礼で気配りや配慮のないコムニケーション
3.マイクロインバリデーション:心理状態や考え方、感情、経験を排除、否定、無化する
2と3は無意識にしてしまう続きを読む投稿日:2024.02.24
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