さよなら肉食――いま、ビーガンを選ぶ理由
ロアンヌ・ファン・フォーシュト(著)
,井上太一(訳)
/亜紀書房
作品情報
蛋白質革命が世界を変える。──いま、新たなる食の常識に乗れ!
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旧来の経済モデルと生活習慣が機能不全に陥った今、求められる新しい「食の物語」とは?
人口増・気候変動・環境汚染に歯止めをかける “ビーガニズム” の合理性と未来を解き明かすオランダ発の注目ノンフィクション。
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肉食主義の神話に風穴をあけ、人を惑わすマーケティング戦略を見抜き、望ましい未来を生む食生活を実践する時がきた……。
蛋白質を得るのに「肉・卵・乳製品」は必要ない。
喫煙者が「白い目」で見られるようになったように、こう言える日がやがて訪れるにちがいない。
──「かつて、そう遠くない昔、私たちは動物を食べていた」と。
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【目次】
■第一章………農家が世界を変えられるわけ
■第二章………善良な人々が悪い物語を信じるわけ
►間奏曲……何も分かっていなかった
■第三章………青白い怒りん坊からセクシーな美男美女へ
■第四章………金持ちのキリン肉、貧民の野菜、みんなの牛乳
■第五章………恋人募集:二〇~四〇歳の格好良くてセクシーなビーガン男性
■第六章………植物ざんまい
►間奏曲……屠殺場の学校見学
■第七章………それが法律だ、間抜け!
■第八章………溶けゆく氷、壊れる堤防
■もっと学びたい人のために
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商品情報
- シリーズ
- さよなら肉食――いま、ビーガンを選ぶ理由
- 著者
- ロアンヌ・ファン・フォーシュト, 井上太一
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 亜紀書房
- 書籍発売日
- 2023.01.25
- Reader Store発売日
- 2023.02.24
- ファイルサイズ
- 2.7MB
- ページ数
- 324ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
ここ数年読んだ本の中で一番良かったのがこの本です。
レビューの続きを読む
ヴィーガン関係の本の中は、内容が硬すぎたり読むのがしんどくなってしまったりするものもありますが、この『さよなら肉食』は「未来は明るいんだ」と希望を感じられる良い本でした。
とても読みやすいので、ヴィーガンではない人がヴィーガンについて知りたいなら、まずこの本から入るのがいいと思います。
著者の専門は未来人類学とのことです。文化人類学ならではのフィールド・ワーク(実地調査)に未来予測という手法を組み合わせているのが独特で新鮮でした。
以下、長くなりますが各章の内容を紹介したいと思います。
【第1章】では、畜産業を辞めた農家へのインタビューなどが書かれています。さっそくフィールド・ワークという著者の強みが発揮されている次第です。動物と身近に接してきた農家さんたちは、動物が様々な形で苦しんでいる様子を実際に目の当たりにしています。それにずっと心を痛めてきた方々が、迷いを断ち切り思い切って畜産業から野菜栽培など別の農業に転換したところ、新事業がビジネスとして成功をおさめるとともに、農家さん自身も自分が動物を傷め苦しめているという後ろめたさから解放された——この章ではそんな成功事例がいくつか紹介されています。
【第2章】では、多くの人々がヴィーガンの声に耳を傾けずに肉を食べ続ける理由を探っています。現代の栄養学では、ヴィーガン食で必要な栄養はすべて得ることができるし、むしろ肉食はいくら少量であっても健康に悪影響を及ぼすことがわかっています。また、畜産業で多くの動物を苦しめているのも事実です。しかし、こうしたことは、肉食が当たり前の社会で生まれ育った多くの人には受け入れがたいものです。ゆえに、ヴィーガン食が健康に悪いという証拠をなんとかして見つけようとしたり、あるいは動物が痛みを感じないとか動物には感情がないといった議論をして、肉食を正当化しようとします。この章では、肉食主義者のこうした心理状況について分析されています。
【第3章】では、ヴィーガンの歴史について触れられています。ヴィーガンが提唱された初期は、こうした運動に関わる人たちは社会から外れた変人ばかりで、一般の人々からはまったく理解されなかった。ところが2010年代になると、インスタグラムなどのSNS上で美男美女たちがヴィーガンを続けながらも美しい身体を維持する様子を載せるようになり、ヴィーガニズムが明るく楽しい生活スタイルなのだと理解されるようになった——著者はこうした見立てを示しながら、これからますますヴィーガニズムが多くの人々に受け入れられていくだろうという展望を示しています。この章は特に未来に希望を感じられる内容でした。
【第4章】では、食に関するビジネスについて取り上げられています。畜産業界はこれまで、売り上げを伸ばすために「肉を食べて牛乳を飲むことが健康的なのだ」と喧伝し、政治家たちと結託し、また生産効率を上げるために動物を改良し続けてきました。このような巨大産業に立ち向かうのは非常に難しいことですが、近年では、「インポッシブル・ミート」や「ビヨンド・ミート」のようなプラントベースの肉がビジネスとして成功してきていますし、こうしたビジネスはこれからますます発展していくのも確実です。この章ではそんな未来展望が描かれるとともに、最近のプラントベースの肉やチーズ、ミルクがどれだけ美味しいかも書かれていて……読んでいて思わずよだれが出てしまいました。笑 日本で売られている大豆ミートや大豆ヨーグルトはあまり美味しくないものもありますが、著者の住むヨーロッパではめちゃくちゃ美味しいものがスーパーで簡単に手に入るみたいで、とても羨ましくなりました。日本のビジネスももっとがんばれ!
【第5章】では、ヴィーガンとそうでない人の人間関係について書かれています。ある人が実際にヴィーガンをやってみようと思ったとき、真っ先に障害となるのはやはり他の人との関係だろうと思います。一緒に食べる食事をどうするのかで揉めるかもしれないし、それぞれが嫌な気持ちになるようなことを言われたりして、結局人間関係が崩れてしまうことだってあるかもしれません。この章では、著者の恋人とのエピソードも交えつつ、ヴィーガンとそうでない人が付き合いを続けていく中でお互いにどういった点に注意・配慮するべきかについて触れられています。実際に自分がヴィーガンにならないにしても、将来ヴィーガンの数はどんどん増えていくわけで、必然的にヴィーガンとの付き合いも増えていくでしょうから、この章(だけではないですが)に書かれていることは読んでおいて損はないと思います。
【第6章】は健康・栄養についての章になります。世には数多くの研究があるものの、この章は、研究手法が適切であるとともにきちんとした学術誌にも論文が掲載されるような研究のみに依拠し、畜産業界の支援を受けた研究や逆にヴィーガン団体などと関わりのある研究者による研究は除外した上で、客観的に分析しています。その結果、やはりヴィーガン食のほうが健康であること、しかしヴィーガンではビタミンB12が足りなくなる可能性があることを明らかにしています。ヴィーガンにとって都合のいい話だけでなく、ヴィーガンにとって耳の痛い話もちゃんと書かれているので、とてもフェアな内容だと思いました。
【第7章】は動物に関する法律の話になります。ヨーロッパの動物保護に関する法律は日本よりも厳しく、動物実験などの規制もあるものの、動物を利用する業者や科学者は様々な理由をつけて法律の目をかいくぐり動物を搾取しており、法律が有名無実と化しているという実態があると論じられています。現代の法律が、「動物は人間の所有物、つまりモノである」ことを前提として作られていることも問題視されています。しかし、近年では、「動物は痛みを感じ感情をもつ主体である」という考えが広まってきています。かつて黒人奴隷は白人農場主のモノとして扱われてきましたが、そうした誤った考えは時代を経て一掃されました。そうした歴史を踏まえると、動物に対する私たちの認識もこれから変わっていくのだろうと感じられました。
【第8章】は地球環境についてです。今世紀、地球環境を最も破壊しているのは畜産業であるという点は、すでに多くの識者が指摘しています。国連報告書によれば、現在の畜産業の形態を続けていけば、今後数十年のうちに人間が住めなくなるまで環境が悪化するとのことです。そして、それを防ぐには、肉食と比較して環境負担が段違いに少ないヴィーガン食を普及させていくしか方法はありません。本章は、『サイエンス』誌に掲載された論文や国連報告書に依拠しながら、環境問題についてわかりやすく解説しています。
本書には、2つの【間奏曲】と題された章が途中に収録されています。これは、ヴィーガン食が当たり前になった未来を舞台とする小説で、かつて肉を食べていた祖父母世代に対して、生まれてからヴィーガン食が当たり前の孫世代が「どうしてそのような残酷なことができたのか」と問い詰める様子が描かれています。また、かつての屠殺場がミュージアムとなり、孫世代が学校のエクスカーションでそこを訪れる場面もあります。私はこの2つの短い小説を読んで、ホロコーストのことを想起しました。戦後ドイツでナチに加担した親世代を糾弾した学生たち——そして、アウシュヴィッツ収容所などを見学する現代の私たち。ユダヤ人たちが機械的に殺害されたという話をガイドから聞きながら収容所跡地を見学するように、将来は、牛や豚が機械的に殺害された話をガイドから聞きながら工場畜産現場の跡地を見学する日が来るかもしれません。この「間奏曲」にリアリティがあるのは、未来予測という著者の専門分野の手法を用いて書かれたからでしょう。
翻訳書ですが、日本語訳が自然で、とても読みやすかったです。ただ、あえて揚げ足をとるとすれば、本書のタイトルを『さよなら肉食』と改めたのは失敗だったと私は思います。『かつて私たちは動物を食べていた』という原題は、人間が動物を食べなくなる未来が必ず来ることを示唆していますし、本の内容もそれに則したものとなっています。ヴィーガンではない人がこのタイトルを見れば、「自分が時代に取り残されるのではないか」と焦りを感じるかもしれません。著者の狙いはそこにあるのでしょう。
しかし、日本語版の『さよなら肉食』というタイトルだと、ヴィーガンではない人は「ヴィーガンがまた勝手なことを言っている」「ヴィーガンだけで勝手にさよならすればいい」といった印象しかもたないのではないでしょうか。本書は、ヴィーガンよりむしろヴィーガンでない人が読むべき本ですから、もっとヴィーガンではない人が手にとりたくなるようなタイトルであればなお良かったかなと思います。投稿日:2023.11.17
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